コラム

 公開日: 2016-09-23 

”結果にコミットメント”したくても実際には出来ない理由とは

「結果にコミットする」という言葉が流行っている


ライザッ〇のTVコマーシャルを見たことがある人は多いでしょう。


例の「結果にコミットする」というキャッチ・コピーのCFです。


コミットという言葉はコミットメントの略ですが、1999年日産のCOOに就任したカルロス・ゴーン氏が、リバイバル・プランと銘打った再建計画の中で使ったことで、世間一般の人にも一気に知れ渡りました。


その後コミットという言葉は、ビジネスの世界でスノッブを気取るときに欠かせないキーワードになりましたが、よく考えてみれば「結果にコミットする」ことは、できるビジネスマンにとっては当たり前のことです。


仕事とは、決定した目標や策定した計画を達成することに責任を負って、最大限の努力をするべきものと、普段から考え行動しているはずだからです。


でも、あまりにも当然に思える「結果にコミットする」ことが、実は案外出来ていない。しかも、その原因は怠惰でも意志薄弱でもなくて、人間である以上逃れられない罠だとしたら、どう思いますか。

普段の仕事で起きる二つのシナリオ


<新たに採用した部長>

あなたは、新たな販路開拓のために部署を新設し、その部長として販売先の業界に精通した男を中途採用しました。

入社後3ヶ月間の売上実績表によると、彼の成果は期待していたほどではなさそうでした。

あなたは彼を解雇すべきでしょうか。

彼の業績が現在のまま低調に推移するようだと、垂れ流される赤字が会社にとって負担になる可能性があります。

一方で、彼を採用するにあたっては、ヘッドハンティング会社を使って相当の時間と金を投資してきました。彼はまだ当社の仕事のやり方に馴染んでいないだけなのかもしれません。

すると彼から、追加のプロモーションを実施する要望が来ました。彼の熱心なプレゼンを聴いて、あなたはもう少し彼への投資を続けることにして、そのための資金などを用意しました。

しかし、あれから2ヶ月経っても、彼の業績は計画に届きません。損切りするだけの理由は、すでに十分に揃いました。

でも、この2ヶ月間にも、彼から別の提案を受けて投資を積み重ねてしまいました。

あなたがこれ以上の投資を断念すべきなのは、いつでしょうか。


<新規提携先への追加投資>

独自の特許を持っているが、実用化が難航して資金難に陥っていたある会社と、業務提携をして1億円の投資をすることに決めました。

社内にはこの投資に危機感を抱く意見もありましたが、あなたは社長として投資を主張しました。

1年後その会社の社長が、「相談がある」とのことで、事務所へやって来ました。

「良い知らせと、悪い知らせがあります。悪い知らせとは、資金繰りが厳しいので追加の資金がないと倒産することになり、御社も1億円を失うことになることです。良い知らせは、御社が追加で5千万円を投資してくれれば、技術の実用化に目処がついて、大成功することは間違いないということです」

さて、あなたは追加の投資をしますか。


2つのシナリオに共通していることは、過去に行った意思決定があり、その結果を踏まえて新たな意思決定をする状況にあるという点です。


それぞれのケースにおいて、あなたは採用や投資の意思決定を行った。そして、いずれの場合でも決定した方針に対して、その後多大の時間と資金を投資し続けました。


しかし問題は、この期に及んでも期待した成果があがっていないのです。


大きな経営上の判断に限らず、私たちは普段の生活の中でも似たような意思決定の場面に遭遇します。


10年乗った車が故障したが、トランスミッションの交換に20万円をかけて乗り続けるべきかどうか。携帯電話会社のカスタマーセンターに電話をしたが、長いこと保留にされているとき、あと何分待つべきか。


人にも慣性の法則が働くので、私たちはどうしても過去に決定したことを継続してしまいがちになります。


アイドルのグッズやCD購入に1千万円も使ってしまった人は、「あまりにも多額の投資をしてしまったので、今さら引くに引けない」と感じることでしょう。


でも、確実に言えることは、過去の決定を継続し続けることは、ある時点で非合理な行動になってしまうことがあるということです。

松岡修造語録「100回叩き続ければ壊れる壁」


彼が海外に行くと現地の気温が上がり、逆に日本の気温が全国的に下がると言われているほどの熱血漢 松岡修造氏の名言があります。

****************************************

100回叩くと壊れる壁があったとする。

でもみんな何回叩けば壊れるかわからないから、90回まで来ていても途中であきらめてしまう。

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この言葉を聞いて、「なるほど、その通りだ」と、うなづく人が多いのではないでしょうか。


私たちは幼いころから、家庭でも学校でも「何度でも挑戦しろ!諦めるな!」と教えられ続けています。


確かに成功の秘訣は、能力の有無以上に、やり続けることが重要な場合も少なからずあります。


教育上の目標としては、すぐ諦めるマインドを育てるより、諦めずに挑戦し続けるマインドを育てる方が、倫理的にもソロバン勘定的にも望ましいと考えることに反対はしません。


しかし、実際の社会生活やビジネスにおいては、間違った方向で粘り強さを発揮すると、事態を加速度的に悪化させます。


もちろん、それが正しい方向に向かったときは、あっという間に名声や地位や財産を築くことが出来ます。


したがって現実的に重要なことは、100回叩き続ける心の強さ以上に、最初に「どの壁を叩くべきか」を見分けられか、そして万が一間違った壁を叩いていると気付いた場合「すぐに叩くのを止められるか」に懸かっているのです。

埋没コスト


<埋没コストとは>

このように、人は「結果にコミット」しているつもりでも、実は「過去に決定した行動へのコミットメント」の方が強くなるという罠にはまりやすいのです。


向学心の高い読者の方はすでにお気付きと思いますが、先に示した二つのシナリオを適切に処理するために必要なキーワードは「埋没コスト(サンクコスト)」です。


埋没コストとは、既に過去に支払済みで回収不能なお金のことです。


過去の決定を踏まえて新たな決定を行う場合には、この埋没コストを考慮してはならないのです。


私たちの意思決定における参照点は、過去ではなく「現在」であって、それぞれの選択肢についてのコストと便益は将来のものに限って評価すべきということになります。


たとえば、大学4年の夏休みに退学をするかどうかは、これまでの3年半にどれだけの時間とお金とエネルギーを使ったかは問題ではありません。


意思決定において重要なことは、在籍し続ける場合の将来のコストと便益の双方を考えることです。


もし、あなたがベンチャー起業をした社長で、これからの半年間がスタートアップにおいて致命的に重要な時期だとしたらと想像してみてください。


<埋没コストを知っても問題は解決されない>

通常、埋没コストについて書かれている話は、ここで終わりになります。


埋没コストという概念を理解して、将来に向けての意思決定においては、埋没コストを無視して、この先にかかるお金とリターンだけを検討材料に組み入れなさい。


そうすれば、あなたは正しい意思決定が出来ます。これにて一件落着。めでたし、めでたしで話は終わるのです。


でも、現実のビジネスの世界をシビアに見ると、会計学を修め埋没コストの概念を知っているはずの経営者でも、埋没コストを無視しろという教科書的なアドバイスが賢い問題解決に役立っていません。


実際には、ほとんどの場合、過去に決定した行動に拘り続け、そこから逃れることが出来ないのです。


一度、拡大策に出て出店攻勢を始めたら、既存店の売上高が伸びていなくても、出店ペースを落とすことが出来ない。


一度、粉飾決算に手を染めたら、翌年業績改善をして是正しようと考えていても、1年後に低調な決算内容を見て塗り重ねてしまう。


こんな事例は枚挙に暇がありません。


つまり、埋没コストという論理的な納得感よりも、これまでの行動へのコミットメントを強化(Escalation;エスカレーション)する動機の方がはるかに強く働くという罠から逃れるのは一筋縄ではいかないのです。

過去の行動へのコミットメント強化が起きる理由


<知覚の歪み(バイアス)>

先にあげた新規採用した部長が期待に反して業績が伸びないケースを思い出してください。


あなたは、その人を採用するという自分の最初の意思決定を裏付ける情報には敏感なのに、逆にその意思決定と矛盾する情報を無視する傾向があります。


同様に、業務提携先への投資のケースでも、最初に投資を決定してからは、否定的な情報よりも肯定的な情報を優先する傾向が無意識のうちに強くなります。


新人部長が休日返上で仕事に取り組んでいる姿を見ると、人選に間違いはなかったと安心する一方で、プロモーションの効果が出ないことについては、時期が悪かったとかメディアの選択が違っていたという理由付けが出来れば納得してしまう傾向が生じます。


提携先企業の社長が語る「実用化に向けてついに最終コーナーに入った」という話に安心し、それ実現すれば1億円が少なくとも5億円のリターンになる皮算用に胸を躍らせますが、当初十分な金額だったはずの資金が5000万円も足りなくなったことについては、細かいことだと気にしない傾向が生じるのです。


<判断の歪み(バイアス)>

つぎの2つの問いに答えてみてください。

[Q1]
あなたは既に10万円をもらっていますが、更につぎのaかbの選択肢を選ばなければなりません。とちらにするか。

a 確実に5万円を追加的にもらえる。
b 50%の確率で10万円を追加的にもらえるか、50%の確率で追加的に1円ももらえない。

[Q2]
あなたは既に20万円をもらっていますが、更につぎのaかbの選択肢を選ばなければなりません。どちらにするか。

a 確実に5万円を失う。
b 50%の確率で10万円を失うかか、50%の確率で1円も失わない。


統計的に有意な実験結果が示すところは、Q1に対しては選択肢aを選ぶ人が圧倒的に多く、Q2に対しては選択肢bを選ぶ人が圧倒的に多いという事実です。


Q1とQ2は、一見すると異なる状況が設定されているため、正しい意思決定のためには、それぞれ違う考え方をしないといけないように思えます。


ところが、Q1とQ2どちらにおいても、2つの選択肢の期待値はともに15万円なので、論理的にはどちらを選んでも同じことなのです。


<参考:期待値の計算>

Q1ーa 10万円+5万円=15万円
Q1-b 10万円+(50%×10万円+50%×0円)=15万円

Q2-a 20万円-5万円=15万円
Q2-b 20万円-(50%×10万円+50%×0円)=15万円


でも、既に手元に10万円があるQ1の場合は、bを選べば半分の確率で10万円が追加で手に入る可能性があるにも関わらず、1円も追加でもらえないことを嫌うあまり、選択肢aを選んで確実な追加の5万円を得る選択をする傾向が強くなります。


反対に、既に手元に20万円があるQ2の場合は、aを選べば15万円は確実に手元に残るにも関わらず、1円でも失うことを嫌うあまり、選択肢bを選んで半分の確率で10万円を失うリスクを厭わない傾向が強くなります。


これは何を意味するかというと、人は利得がプラスになる話のときには、リスクを避けようという傾向が強くなり、逆に利得がマイナスになる話のときには、リスクをとりたがる傾向があるということです。


こうした判断の歪みはフレーミング効果と言われています。Q1がポジティブ・フレーム、Q2はネガティブ・フレームの状況設定になっています。


先にあげた2つのシナリオは、Q2と同じネガティブ・フレーム条件の判断を求められていることになります。


この場合、確実に損失が確定する選択肢よりも、可能性は低くても損失が発生しないか挽回できる選択肢を選ぶ傾向が強く出てしまうのです。


<印象操作>

再び、新規採用した部長が期待に反して業績が伸びないケースを思い出してください。


もしかすると、あなたの合理的な判断としては、成績が思わしくない新人部長は解雇すべきだという結論に至ったとしても、あなたは彼を解雇するという行動を選択しないかもしれません。


その理由は、彼を解雇することは、あなたの最初の決定が誤りであったことを周囲に公表するに等しい行為だからです。


あなたは自分の体面を保つために、彼を雇用し続けるという意思決定をするかもしれません。


下らない動機だと思うかもしれませんが、他人に対する自分の印象を操作しようとする動機は根深いものがあり、過去のコミットメントを強化してしまう原因になります。


失敗を認めたくないということに加えて、自分は一貫性を持った人間であると他人に思われたいという印象操作も働きます。


実際のところ、自分の行動や意見をよく変えるリーダーよりも、言動に一貫性があるリーダーの方が能力が高いと思う傾向が私たちにはあります。

真に「結果にコミット」するために必要なこと


経営において、繰り返される意思決定の一つ一つが常に間違いなく適切に行われるならば、ここまで取り上げて来た過去の行動へのコミットメントの増大を心配する必要はありません。


しかし現実においては、その時その場で最善かつ最適な意思決定を行う努力をしても、想定に反した結果となることは避けられません。


だから、一つ一つの意思決定を独立して捉えているだけでは、意思決定の質は上がっていかないのです。


過去の意思決定の結果、しかもネガティブな結果を踏まえて行う意思決定が多いという現実を理解する必要があります。


経営者の自助努力としては、自分の意志決定が過去の行動から歪み(バイアス)を受けやすく、結果が悪いときには特にコミットメントを増大させやすいことを良く認識することです。


でも、「わかっちゃいるけどやめられない」のが、人間の無意識に刷り込まれた癖というものです。


その対策としては、何でもかんでも経営者一人で意思決定プロセスを完結させないことです。


そのために、物理的に最初の意思決定とその後の意思決定とを分離してしまう体制を作るということが有効です。


具体的には、外部の信頼出来る人や組織を活用して、知覚の歪みの少ない情報収集や選択肢の作成と評価を任せることをお勧めします。


もちろん、問題の重要度に応じてアウトソーシングするかしないかの境目を作る必要はありますが、問題の重要度の判定それ自体を見誤ることがあるので、間口はあまり狭めない方が良いです。


経営者に留まらず、マネージャー職の社員が行う意思決定についても、過去の意思決定者とは異なる別の人物が、次の意思決定を行えるような体制を作るべきです。


ただし、そのためには企業は人事評価体系を是正して、社員の価値を組織の価値に適合させるようにしなければなりません。


自分の報酬が結果に基づいて決められるならば、マネージャーは最初の決定へのコミットメントを増大させて、悪い結果を隠そうとするからです。


経営者が意思決定の結果だけではなくプロセスを見て評価をするならば、マネージャーは最初の決定が正しかったかどうかではなく、将来に向けてできる限り最良の意思決定をしようと動機付けられるはずです。


最後にひと言付け加えておきます。


ここまでコミットメントが行き過ぎた状況を取り上げて来ましたが、もちろん選択した行動へのコミットメントを維持・増大させる必要がある場面もあります。


大切なことは、過去の決定へのコミットメントを継続すべきかどうかも含めて、選択肢を常にオープンにして、埋没コストに囚われずに、将来の利得を最大化する判断を適切に行うことが可能な意思決定体制を構築することです。

清水 泰志

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