コラム

 公開日: 2016-09-01 

ビジネス書が読みやすさにこだわる理由

出版点数は多いが売れないビジネス書


世の中には「ビジネス書」というジャンルがあります。


最近は本自体が昔に比べると売れない時代になっていますが、ビジネス書も1万部売れたらベストセラーで、重版率がたった3割という状況のようです。


私は普段ほとんどビジネス書は読みませんが、実際に売れているビジネス書を手にとって見ると、大きい文字、広い行間、ほどほどのページ数という共通した特徴があります。


2009年に大ヒットし歴代ベストセラーランキングでも10位に入っている『もしドラ』は、例外的に270万部も売れましたが、その理由は漫画にしたことに尽きます。


とにかくビジネス書を「読みやすくする」ことに対する出版社の並々ならぬ努力が感じられます。


一方で、村上春樹氏の小説のように分厚いうえに、小さい文字と狭い行間で出来上がっている本が100万部も売れます。


最近話題をさらった又吉直樹氏の芥川賞受賞作品『火花』だって、239万部も売れましたが、ビジネス書と比べてはるかにページ数も1ページ当たりの文字数も多いです。


なんでビジネス書はここまでして、読みやすさに拘らなくてはならないのでしょうか。


理由は簡単で、<面白くない>からです。


面白ければ、小説のように小さい文字でページを埋め尽くした分厚い本でも、買って読む人がいるはずです。


そこで、また疑問が湧きます。


なぜ販売部数は減ったとはいえ、世の経営者やビジネスマンの中に、面白くもないビジネス書を読みたがる人が相当数いるのでしょうか。


それは、ゲーム攻略本が売れるのと同じ理屈です。


手っ取り早くステージクリアの秘訣を知りたくて本を買うのだから、細かい字で長々とご託を並べているゲームの攻略本は売れません。また、購入者は内容が面白いから買うのではなく、裏技を知りたいから読むまでです。


だから、ゲームの攻略本に求められる必要条件は、間違いなく読みやすさです。


同様にビジネス書自体が、どのように他人や他社を出し抜くかというノウハウの羅列です。


したがって、買い手は人より早くビジネス・ゲームをクリアして、成功の果実をいち早く手にしたいために本を読むのだから、読みやすさが求められるのは当然です。


「経営者は本を読まないから、ビジネス書は読みやすくしないと売れない」と編集者が語っているのを聞いたことがありますが、同意しかねます。


ゴルフ好きの社長が定期購読しているゴルフ雑誌の誌面は、相当小さな文字でギッシリ埋まっています。でも、書いてある内容自体が面白いと思えば、字が小さくても行間が狭くても、人は喜んで活字を読むのです。


ただし、ビジネス書を手にする読者が見落としていることは、攻略法をいくら読んでもゲームそのものを楽しんだことにはならないという、言われてみれば当たり前の事実です。


そこにあるのは、ビジネスの痕跡であり、自慢話であり、限定的に意味のある指針や規範に過ぎません。


それを読んだところで、大して面白くないうえに、ビジネスの意味や真髄に触れることはできるはずがないでしょう。


世の中には、サッカーが大好きで理論や選手の起用法などをあれこれ考えることに興じている人がいます。


そこで話を聞いてみると、あくまでも見るのが専門で実際にサッカーのプレーはしないと言う。その理由は、実際にピッチでプレーをすると、やることなすこと理屈どおりには体が動かないからとのこと。


しかし、趣味のあり方は人それぞれとしても、サッカーが上手いか下手かは、サッカーのプレーを楽しむこととは本来関係のないことです。


サッカーが本当に楽しいのは、自分が上手になっていくプロセスを実感できるからなのです。


私も、学生時代にずっとスポーツをしてきましたが、決して一流プレーヤーではなくても楽しみを感じられた理由は、そこにありました。


このように、ビジネスを自らの課題として取り組んでいくことと、ビジネスを成功に導くために指南書を読むことの間には、本質的な違いがあるのです。

ゴールよりプロセス


ビジネスに「目的」があり、その達成が何よりも重要だという考えに立つなら、「効率」が全てをコントロールするキーワードになります。


いかにして、ある「ゴール」まで最短距離、最短時間、最少のエネルギーで到達するかが、効率においては重んじられます。


しかし、もしゴールという彼岸が想定されない、あるいはゴールというものがプロセスの中にすでに含まれていると考えると、効率という考え方そのものが意味を失います。


コーチングの中でよく使われる「ゴール・ギャップ法」という手法があります。


先ずゴールを定め、つぎに現状を把握して、ゴールと現実との間に横たわるギャップを明らかにする。そして、そのギャップを埋める方法を考え行動することで、ゴールに効率的に至るという考え方です。


経営においても、この考え方を無意識に採用していることが多いはずです。


ゴール・ギャップ法においては、プロセスはいつでも変更可能で、かつ代替可能であるという前提でしか扱われません。


効率重視の思考においては、ゴールまでの道すがらの中で、最も無駄なものとして排除すべきは「プロセス」そのものということになるわけです。


所詮、より多くの利潤を得るための「戦略」は、時代的な文脈と模倣によって、ある程度決まってきます。


差別化のための戦略が結局は差別化にならないか、その寿命が短い理由はそこにあるのです。


だから、効率の名のもとにビジネスをモノやサービスとお金の交換としてだけ考えていると、最終的にはいかにして効率的に利潤を出すかということのみに執着せざる得なくなります。


もちろんビジネスの目的は、「利益を出すこと」です。これに関しては異論はありません。


しかし、利益をどのように生み出していくかについては、経営者の数だけのやり方があるはずです。


やり方に光を当てることは、「こだわり」「価値観」「強み」といった見えない資産にも見える資産と同等の配慮をすることであり、見えない資産とはゴールではなくプロセスに内在しているものなのです。

「ビジネスはきれいごとだけでは済まない」と語るが・・・


昨日、ビジネスを主題としたドラマを見ていたら、つぎのようななセリフがありました。


「プロセスはどうでもいい。結果が全てなんだ。だから、いまの結果には満足している」

「あなたの言っていることは正論かもしれない。でも、ビジネスはきれいごとだけでは済まないんだよ」


ドラマの中だけに限らず実際のビジネスの場でも、大切なのはゴールで、プロセスに過剰にこだわることは、成功から遠ざかることだと信じている人はたくさんいます。


もちろん、ビジネスである以上、経営者だけではなく社員もソロバン勘定でもの考えることは当然です。


むしろ、どんなに魅力的で正しそうな美しい価値観や正義に対しても、ソロバン勘定で見直してみるというのが、ビジネスという土俵のルールであり、同時に限界でもあるわけです。


でも、これからの時代は、目に見えない資産を増やすことに注力し、ビジネスのゴール以上にプロセスに価値を置く経営こそが求められことを強く主張しておきます。


そして、プロセスに価値を置くことは、ビジネス自体の面白味を味わうということを意味します。


動的安定経営とは、まさにそのような経営のことを言います。


だから、動的安定経営とは、先のビジネス・ドラマで指摘されているような「きれいごと」なのです。


でも重要なことは、イデオロギーとして動的安定経営の優位を主張しているのではないことです。


動的安定経営という「きれいごと」を貫く経営は、ソロバン勘定から考えても必要なのです。


いままで支配的だった競争優位戦略のおおくと比べても、十分に損得勘定に合う方法だと私は考えています。

清水 泰志

株式会社ワイズエッジ
〒104-0061
東京都中央区銀座3-14-13 5F
TEL 03-6264-2370
H P https://wise-edge.co.jp/

この記事を書いたプロ

株式会社ワイズエッジ [ホームページ]

経営コンサルタント 清水泰志

東京都中央区銀座3-14-13 5F [地図]
TEL:03-6264-2370

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
仕事の依頼について

1 依頼人は決裁権限のある方に限る申し訳ありませんがが、決裁権限のある方以外からの依頼は、お引き受けしておりません。該当する方を具体的に申し上げると...

 
このプロの紹介記事
清水泰志 しみずやすし

黒字企業のその先へ!!「競争しない企業」をつくりましょう!(1/3)

 経営と競争は切っても切れない関係だと多くの人が考えます。競争相手に対し、いかに優位性をつくるかという視点で物事を考え、手を打つことがほとんどです。しかし、優位に立ったとしても、業種に関わらず、最終的には価格競争に入ってしまうもの。競争を繰...

清水泰志プロに相談してみよう!

朝日新聞 マイベストプロ

黒字企業の高みへ!極みと未来シナリオで競争しない企業に導く

会社名 : 株式会社ワイズエッジ
住所 : 東京都中央区銀座3-14-13 5F [地図]
TEL : 03-6264-2370

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

03-6264-2370

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

清水泰志(しみずやすし)

株式会社ワイズエッジ

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
「競争しない」は戦略論ではなく企業づくりそのものである

ブルー・オーシャン戦略に代表される競争しない経営戦略が10年ほど前から注目されています。しかし、特に日...

[ 戦略思考 ]

損得だけを物差しにしていると行き詰まる経営判断

 儲かるか儲からないかで判断すれば即断即決できる? 経営判断とか決断の重要性を説く話が世の中には溢れてい...

[ 意思決定 ]

なぜ「経営計画」や「経営革新プロジェクト」や「人材育成」は絵に描いた餅に終わるのか

 治療より予防が人間の身体でも企業でも大切だが・・・ 企業と専門プロフェッショナルの関係は、人間と医師の関...

[ 戦略思考 ]

経営者として1万時間かけて何を磨き上げるか?

 1万時間の法則とデリバレイト・プラクティス 心理学者K・アンダース・エリクソンのグループは、スポーツ、...

[ 経営者 ]

意思決定における「最適化」と「満足化」の違いと使い方とは

 優柔不断は性格特性ではありません 生活のいろいろな場面で、選択をすることが多いものです。冬物の...

[ 意思決定 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ