コラム

 公開日: 2016-08-12 

外部のベストプロを活用する本当の意味-必要なのは正しい「答え」ではなく正しい「○○」

コンサルタントの活用度が低い日本


日本における平成25-26年のコンサルティング業界の売上規模は、大手数十社のみを集計すると3800億円程度です。


一方、世界のコンサルティング業界の動向を見ると、米国の市場規模は推定で6~10兆円と見られ、米国が世界でも非常に高い割合を占めています。


日本のGDPが米国の約三分の一であることを考慮しても、日本でもコンサルティング業界の売上高が1~2兆円程度あっても不思議ではありません。


このように日本企業のコンサルティング活用度は、世界的に見ると非常に低い現状です。


私が以前在籍していた米国系のコンサルティング・ファームのクライアントがすべて大企業であったように、日本でも大企業に限っては、外部リソースとしてコンサルタントを使う機会はおおいと思われます。


ちなみに企業のみならず国や東京都も、外資系か日本系を問わず、コンサルティング会社を使っています。


ただし、日本の大企業がコンサルティング会社を使う理由は、「謙虚に教えを授かりたい」からではありません。


コンサルティングに着手して、いざヒアリングをしてみると、経営陣や経営企画室のメンバーが「こういう改革をしたい」「こういう戦略を立てたい」という具体的な考えを持っていることがほとんどです。


では、なぜわざわざ金を払ってコンサルティング会社に依頼をするのか。


その理由の一つは、有り体に言ってしまうと「保身のため」です。


自分の口から、改革の必要性とか戦略の転換を言い出して、万が一その取り組みがうまくいかなかった場合、責任を問われることを避けたいという動機が強く働いています。


ある財閥系都市銀行のプロジェクトにおいて、コンサルティング・リポートの目次から内容にはじまり、「てにをは」の使い方まで、経営企画室の室長からこと細かに指示を受けたことを思い出します。


ようするに、自らの考えを「コンサルタントの口をもって言わしめる」ことにコンサルティング会社を招聘する重要な意味があるのです。


それで取り組みが上手くいけば、コンサルティング会社を活用してでも推進した自分の手柄となり、反対に計画が頓挫したら、「コンサルタントがアホだった」で済ますことができるわけです。


東京五輪に関わる新国立競技場やエンブレムのゴタゴタを見ればわかるように、なにか問題が生じても、その責任を「外部の人や組織」に転嫁できれば、本丸の人間は誰も責任を負わないというスタイルが日本流ですから。


ところが中小企業においては、大企業のようにお金をかけて「コンサルタントを出汁につかう」というトリッキーな技を使う必要がないので、コンサルタントの活用度合いはその分低くなります。


なぜ、日本の中小企業経営者は外部リソースとしてコンサルタントを使いこなさない、あるいは使いこなせないのでしょうか。


そして、プロフェッショナルを活用する意味はどこにあるのでしょうか。

求められる手段志向から価値志向へのシフト


現在、米国において主流の経営観は「目的志向」の経営です。まず目的ありきで、その目的を最も効率良く達成するための手段や行動を選択するという考え方です。


一方、日本企業が戦後の高度経済成長期を経て現在に至るまで採用している経営観は、「手段志向」と言えます。


それを象徴するのが、「整理整頓」「5S」「掃除」でしょう。


日本経営品質賞を2度受賞したM社のK社長は、「掃除で会社が変わる」と盛んに提唱しているので、経営者として共感している方もおおいはずです。


かく言う私も、かつて二代目社長として、社内の整理整頓、美化に徹底して取り組んだ経験があります。


朝から全員清掃を行い、退社時に電話機以外のモノが机上にあることを禁じ、定期的にデスクの引き出しや社用車のトランクの整理整頓具合をチェックするという活動に本気で取り組みました。


私も経営者として率先垂範したことは言うまでもありません。


日本人は「穢れ(けがれ)」を嫌う文化を綿々と受け継いでいるので、「場を清める」ことに対しては、実利以上の精神的な意味を持ちやすい傾向があります。


しかし、掃除オリエンテッドな経営が行われる理由は、それだけではありません。


目的志向の会社は、「価値」を共有することで組織の存在意義を定め、企業活動のベクトルを方向付けようとしますが、手段志向の会社は「活動」を通じて組織の連帯感を高めケイパビリティを引き上げていく傾向があるのです。


米国のアップルやザッポスに代表される価値オリエンテッドな企業は、カリスマ的な経営者が夢を語り、ビジョンを掲げて、目標に向かうことで急成長したという共通した特徴があります。


一方、多くの日本企業が採用している手段オリエンテッドな経営は、互いに同じ活動をすることで連帯感を高めることで組織パフォーマンスを向上させようという意図があります。


要するに「みんなで同じことをする」ことでつながりを深めようということです。


社長と社員がいっしょになってトイレ掃除をしたり、社員食堂で上下の区別なく昼飯をとる、あるいは社員運動会を開催するというのは、その典型でしょう。


目的志向の経営の場合、目的や価値の定義そのものを他人から借りてくるわけにはいきません。


でも、自分のことは自分では分かりづらいという側面があるので、強みの発見をしたり潜在的なこだわりを明らかにする場面では、プロフェッショナルな第三者が存在する意味があります。


さらに、目的を明らかにした後、それを実現するための適切な戦略や戦術を検討し実行に移すという局面でも、時間という最も有限なリソースを有効に生かすという意味で、外部のプロフェッショナルの導入が効を奏す可能性があります。


でも、手段志向の経営の場合、最初から「やること」は決まっているので、お上に対する申告や届出のために士業の先生を使うことはあっても、ビジネスそのものにおいて外部のリソースをあえて活用しようとする考えが、経営者の頭の中で生まれてきません。


それでも、必要に応じてコンサルタントを使うことがあるのですが、JIT(ジャスト・イン・タイム)コンサルタントとか、QCサークル活動コンサルタントとか、資金調達コンサルタントとか、ISOコンサルタントというように、単一かつ特定のことがらを実現するという狭い目的に限られることがおおいのです。


それもこれも、手段からアプローチする経営志向のために、「やること」が決まっているからです。


ただし、「なぜ、それをやるのか」と問われると、「競合他社がやっているから」とか「業界では常識になりつつあるから」という薄い動機しかない答えをよく耳にするのです。


ここにすべてのリーダーが学ぶべき重要なことがあります。


かのピーター・ドラッカーが『現代の経営』の中で語った言葉を思い出しましょう。


戦略的な意思決定において重要かつ複雑な仕事は、正しい答えを見つけることではない。
それは正しい問いを探すことである。
間違った問いに対する正しい答えほど、危険とまではいわないまでも、役に立たないものはない。


これまでは、「正しい答え」が世の中で共有されていたので、「やること」を入口にした経営を行っても通用する時代でした。


しかし、これからの時代は、規模の大小や業種の別を問わず、手段志向の経営から価値志向の経営へのシフトをすることが、企業の生き残りのために突きつけられてきます。


価値志向の経営とは、世間一般で共有されているような万能な「正しい答え」はないという前提から出発します。


朝から社長以下全員で掃除をすることが、どんな企業にとっても業績アップの秘訣になる、などということはあり得ないのです。


ただし、価値観と結びついた活動として美化・清掃に努めることは、その企業独自の意味を生み出すことになります。


いずれにしても、これから重要な視点は、「正しい答え」を探すことではなく、先ずは「正しい問い」を探すことになります。


この「正しい問い」探しを的確かつ迅速に行うためには、自助努力に加えて外部の有能なリソースが不可欠なのです。

プロフェッショナルも襟を正すべし


当然、経営者だけではなくコンサルタントや専門家といったプロフェッショナル側にも、これまでとは違ったスタンスが求められます。


これまでは、経営者サイドの具体的な「やりたいこと」に合わせて、狭い分野に特化したコンサルティングやアドバイザリーを提供することが、プロフェッショナル側の受注政策上必要でした。


「よそで進出したところがあるから、うちもEコマースを始めようと考えているんだが、どうだろう」と社長から相談を受けると、「さすが社長お目が高い!これからはEコマースの時代です」と、太鼓持ちよろしくどんなアイデアに対しても「それは素晴らしいアイデアです」と答えるコンサルティング会社がたくさんあります。


商売に長けたコンサルティング会社は、クライアント企業は自分たちのアイデアの素晴らしさを褒めてもらうのが好きだということをよく知っているのです。


実際のところ、自分が思いついた最初のアイデアを支持して欲しいという私たちの願望はたいへん強く、支持してくれる人たちには進んでお金を支払います。


あるいは、初めて直面する複雑な状況下で意思決定を迫られている経営者から「どのように考えたらいいのか・・・皆目見当がつかない」と相談を受けると、「社長、こんなこと簡単ですよ。こうすればいいんです」と難しい問題をひたすらやさしい問題だと言い切るコンサルティング会社がたくさんあります。


意思決定することは思考することと同義なので、大変疲れる仕事です。複雑な思考は大きなエネルギーを消耗するからです。


だから、人間であれば誰でも、なるべく思考する量を減らしたいという欲求を強く持っています。


商売上手なコンサルティング会社は、クライアント企業が問題を単純化し思考の負荷を減らすことが好きだということをよく知っているのです。


こうしたコンサルティング会社の振る舞いは、自社の短期的な売上には結びつくでしょうが、果たして真に有益なサービスを提供していると言えるでしょうか。


顧客企業があるアイデアを提示してきたとしても、確証バイアスの罠に陥ることを防ぐために「イエス・パーソン(太鼓持ち)」ではなく、あえて「デビルズ・アドボケイト(悪魔の代弁者)」の役を買って出て、不賛成を表明しさらなる検討を促す。


一筋縄ではいかない課題に対しては、課題をやさしく見せるのではなく、「問題はきわめて複雑であり、困難である。どこから手を着けていいか、よく分からないぐらいである」という現状認識を共有する。


このように真に顧客企業の利益を考えたプロフェッショナルとしての矜恃が必要な時代になってきたのです。


今日企業が直面している課題は、簡単ではない複雑な課題ばかりだからです。


複雑というのは、一つ一つはたいした害がないようなささやか原因が無数に絡み合って、危機的状況が現れているということです。


そして、問題をさらにややこしくしているのは、その細かい原因のかなりの部分が、「こんなの簡単に解決できる」という善意によって経営に導入された「簡単な解決策」の残骸であることなのです。


そのためには、プロフェッショナルとして専門バカになってはいけません。


経営とは、各機能やイベントの寄せ集めで運営されているのではなく、たくさんの要素が相互に関係しながら奏でている総合芸術です。


WEBコンサルタントは、WEB開発の依頼があっても「御社にいま必要なのはWEBサイトではなく、魅力ある商品づくりです」とプロフェッショナルとして言えるかどうか。


資金調達コンサルタントは、銀行から追加融資を引き出す依頼があっても「御社の根本的な課題は、与信管理の徹底とビジネスモデルの作り直しです」とプロフェッショナルとして言えるかどうか。


「正しい問い」を立てずに経営者が決め打ちした「やること」はおおくの場合、問題の先送りにしかならないか、下手をすると傷口を広げることになります。


だからこそ、プロフェッショナル側にも、狭い専門化された立場に身を置いて、具体的ニーズがあればその実現に応えるというスタンスではなく、常に経営者の一つ上をいく視点から顧客企業を俯瞰しながら仕事をすることが、強く求められる時代が来たのです。


こういう話をすると、いろいろ批判が出てきます。


「経営のすべてを経験したことがあるコンサルタントなんかそうそういやしない」
「経験もないのに、軽々に経営者と同じ視点で考えて意見を述べるなんて無責任だ」


さらに、「経営者の側だって、サラリーマンあがりのコンサルタント風情から経営全般について偉そうに意見などされたくないだろう」という社長としての感情論も出てきます。


しかし社長だって、経営全般に通じている人は滅多にいません。営業畑出身の社長は財務に疎く、製造畑出身の社長は営業に疎いというものでしょう。


経営者にとってもプロフェッショナルにとっても重要なことは、経営全般について経験があるかどうか以上に、経営の全体像を俯瞰しようとする意思です。


たしかに、自分が経験したこと以外は語るべきではない、というスタンスは謙虚かつ無難ではあります。


だが特定の業務分野に立脚して、「わたしが、いままで実際にこうやって上手くいったから、あなたも同じようにしたらいい」という単純な論理構成で編み出したコンサルティング内容は、個別企業の環境に大きく依存している可能性が高く、汎用的に他社に適用するのは危険ですらあります。


プロフェッショナルとして、なるべく多種多様な経験を積んでいるに越したことはありませんが、経験をベースとしながらも碩学したこと見聞したことなどを合わせて昇華させるというインテリジェンスこそが、プロフェッショナルとしての真の価値だと思います。


だいたい「経験したことがないのだから、経営について語るな」と言いながら、経営者やコンサルタントの中に「経営者の視点で万事考えて行動できる社員を育てる」という理想を語る人がいるのは、おかしくはないだろうか。


おまけに、おおくの経営者が信奉しているし、わたしも先ほど言葉を引用したピーター・ドラッカー大先生は、生粋の経営者ではありません。


もともとはジャーナリストであり、その後コンサルタントとして名前を売った人物です。


日本以外では経営学者としてはあまり認知されておらず、どちらかというとジャーナリストや作家と思われています。


ドラッカー氏は、手段志向ではなく価値志向の経営を説いていますが、氏の言葉をありがたく聞き入れる経営者が相当数いるということは、究極のところプロフェッショナルとしての資質は、経験の有無とは別のところで評価されていることを意味します。


もちろんサッカー選手として誰もがメッシにはなれないように、プロフェッショナルとして誰もがドラッカー先生にはなれるわけではありませんが、向かうべき方向性に光明を与えてくれるはずです。


わたし自身も偏った経験を持った浅学非才の徒ですが、不断の研鑽をする覚悟だけは人後に劣りません。


無形の価値しかないデザインやコンサルティングに重きを置かない風潮が日本にはまだだ根強く残っています。


だから、いまだに職人の匠の技が光り、トップ企業が製造業であるという国なのでしょう。


昨年のことになりますが、東京五輪のエンブレムの盗用問題が世間を騒がせました。


デザイナーとかコンサルタントといった無形の価値を提供している人間を山師同然に見る目が増えそうで残念な状況です。


しかし、生き残る企業の条件として、経営観を手段志向から価値志向へシフトしていく潮流は間違いなく強まるはずです。


その変容を先取りしていくためには、経営者が外部リソースとしてプロフェッショナルを活用することが重要な選択肢になります。


ただし、その流れを成功させるためには、経営者の認識の変化と同時に、プロフェッショナル側のさらなる研鑽が不可欠なことは言うまでもありません。


経営を動的安定化するとは、手段志向の経営から価値志向の経営に変化することを意味します。


また、「正しい答え」を探す経営から「正しい問い」を立てる経営へに変化することにも通じます。


これを機会に、自社のこれまでの経営観を認識するとともに、これからの経営観のあり方について考えてみてはいかがでしょうか。

清水 泰志

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