コラム

 公開日: 2016-05-25 

計画が絵に描いた餅になるのは当然!~その理由とは?

東京五輪でつぎつぎと出てくる予算超過


2020年に開催予定の東京五輪ですが、いろいろケチがつく出来事がおおくて、前途多難です。


エンブレムのパクリ疑惑やら招致委員への裏金疑惑やらもありますが、そういうゴシップめいたことはとりあえず脇に置いたとしても、五輪開催に莫大な費用がかかりそうなのに、当初見積が甘く、後になって修正予算案が出てきて物議をかもすということが繰り返されています。


新国立競技場の建設費が大幅に予算オーバーしたために、正式なコンペで選定されたザハ・ハティド氏のデザイン案が白紙に戻されて、再度コンペを行うことになったことが始まりでした。


その後、今年5月には、大会運営費が当初3000億円で見込まれていたけれど、5000億円は必要になるという話が、森喜朗氏の口から出てきました。


国会では、「計画が杜撰だ!」と与野党問わず騒いでいる議員の先生方がたくさんがたくさんるし、世間の人たちの中にも、「血税が使われるのに、計画がいい加減だ!」という怒りの声が多数出ています。


同時に、誰に責任があるのかという犯人捜しとか、学者やコンサルタントの先生方による問題点の分析とかが始まっています。


これからも、まだまだ東京五輪関係で、追加で多額の費用が発生する可能性が大いに考えられます。


でも、私個人としては「けしからん!」という怒りはありません。


なぜなら、そもそも計画を立てても、その通りにならないにも関わらず、その事実を無視している人が多いから、こういう事態になることがわかっているからです。


優秀な経営者は、東京五輪開催に伴う費高騰の原因分析を、個別の事案としておこなうのは愚かであり、人間が共通して犯す「計画の錯誤」に拠るものであると、きっと考えるはずです。

世界中に溢れかえる予算超過した建設費の前例


建設費が当初予算を大幅に上回る事態は、残念ながら新国立競技場だけに起きていることではありません。


舞台を世界に求めれば、過去に同じような事例がいくつもあったことがわかります。


*シドニー オペラハウス
 予算:700万豪ドル → 1億400万豪ドル

*スコットランド 新国会議事堂
 予算:4000万ポンド → 4億3100万ポンド

*プラジル 2014年サッカーW杯 スタジアム
 予算:56億レアル → 84億4000万レアル

香港 香港・珠海・マカオ大橋
 予算:378億元 → 500億元(未完成)

*アップル社 新社屋
 予算:30億ドル → 50億ドル(未完成)


二番目に例示したスコットランドの新国会議事堂についての詳しい経緯は、こういうことです。


1997年 新国会議事堂を総工費4000万ポンドでエジンバラに建設する計画が議会に提出される。

1999年 予算は1億900万ポンドに修正された。

2000年 議会は予算上限を1億9500万ポンドとする法案を可決した。

2001年 最終予算見積額として、2億4100万ポンドが提出された。

2002年 2回予算が上方修正され、2億9460万ポンドとなった。

2003年 3回に渡って予算が上方修正され、3億7580万ポンドになった。

2004年 新国会議事堂落成 総工費は4億3100万ボンドとなった。


途中8回におよぶ建設費の予算修正があり、結局10倍を超える費用がかかったわけで、こうなると「予算」なんて組む意味がまったくありません。


しかも、見込違いが発生したのは建設費だけではありません。


完成予定も当初の2001年から3年遅延して2004年になったのです。


つまり、建設と工期の両面において「計画」が、その通りにはならなかったということになります。


じつは、例としてあげた5つ全てにおいて、建設費の超過だけに留まらず、工期の遅れが発生しています。


シドニー オペラハウスは完成が10年遅れ、当初予算の13倍の建設費をかけましたが、あれでも初期設計から比べるとつつましい姿だそうです。


香港・珠海・マカオ大橋は2016年の完成を予定していますが、現在の見通しでは2020年の完成も難しいと発表されています。


アップルの新社屋は、2015年完成予定が1年延びて、2016年になると発表されています。


日本の新国立競技場も、建設費の問題だけではなく、今後工期の遅延というつぎの問題が発生するリスクを考えておく必要がありそうです。

意思決定者が犯す計画の錯誤とは


前段であげた5つの事例は、私の主張を都合よく裏づけるものだけを選んできたのではないか、と思われる方がいるかもしれません。


しかし、歴史を紐解いてみると分かりますが、計画の修正とは一つの方向にしか発生しません。


そう、予算オーバーかつ納期遅延という方向のみです。


身近な例として、自分に置き換えて考えてみてください。


たとえば、高額な商品の代表である自動車を買うときに、当初の予算をいつも下回っているでしょうか。


また、レポートを提出する締め切り日まで1日以上を余らして完成させるのが常でしょうか。


個人に留まらず、国の叡智を結集した集団においてさえ、リスクを伴うプロジェクトの計画を立てるときに、意思決定者はあっけなく「計画の錯誤」を犯します。


計画の錯誤にとらわれると、利益・コスト・確率を合理的に考慮せず、非現実的な楽観主義にもとづいて決定をくだすことになります。


そして、利益や恩恵を過大評価してコストを過小評価し、成功のシナリオばかり描いて、ミスや計算違いの可能性を見落とすのです。


その結果、予算内かつ納期までに収まりそうもない計画、予想収益を出せない計画、それどころか完成もおぼつかない計画に邁進することになってしまいます。


このように考えると、大きなリスク・テイキングを伴う計画を前にして、意思決定者がしばしばゴーサインを出すのは、成功の確率を過度に楽観視しているからだ、と言うことができます。


その意味で、計画の錯誤とは、数ある楽観バイアスの一つに過ぎません。


私たち大半は、世界を実際よりも安全で親切な場所だとみなし、自分の能力を実際よりも高いと思い、自分の立てた目標を実際以上に達成可能だと考えています。


また自分は将来を適切に予測できると過大評価し、その結果として楽観的な自信過剰に陥っています。

経営者とは楽天主義者である


しかし、楽天主義者は捨てたものではありません。


楽天主義者が我々の社会で果たす役割は、ふつうの人と比べてはるかに大きいのです。


彼らの決定は大きな変化をもたらします。


彼らは、起業家であり、指導者であり、発明家であって、そこらの人間とは違います。


彼らがその地位に就いたのは、自ら困難を探し、リスクをとったからです。


アメリカのスタートアップの例ですが、5年後に生存している確率は約35%です。


しかし起業家は、この統計が自分に当てはまるとは思っていません。


ある調査によると、米国の企業家は自社と同じような企業が成功する確率を60%と見込む。


そしてこれが自社のことになると、バイアスは一段と加速して、起業家の81%は、自社の成功率を70%以上と見積、かつ33%は失敗の確率はゼロだと言い切りました。


大胆と楽観主義が実業家の共通点であり、彼らのリスク・テイキングが、資本主義経済を活性化させていることは間違いありません。


だがもちろん、彼らは間違っています。


スタートアップの運命は、起業家の努力と同じくらい、競争相手の出来不出来や市場の変化に左右されるものです。


ところが彼らは、自分が目にしているものがすべてであるというトンネル視野に犯され、自分が最も知っていること、すなわち自分の計画や行動、差し迫った危機あるいはチャンスしか見ようとしていません。


競争相手についても知っている情報が少ないために、彼らの描く未来図では、競争がほとんど登場しないのです。


スタートアップに限らず、そこそこ業歴の長い会社の経営者に競争相手のことを聞いても、相手の業容はおろか社名すら網羅的に出てこないことがあり、驚くことが多々あります。

不確定要素を想定した計画を立てる


これほど計画というものが、楽天主義と自信過剰の産物であったとしても、企業経営をおこなううえで計画を必ず立てるしかありません。


意思決定者としては、認めたくないことですが、計画は必ずその通りには実現しないという思考の前提を持つ必要があります。


そのうえで、実績が計画から乖離する値を出来る限り小さくするための補正をおこなうこと、そして計画に対して実績が大きく乖離した場合のコンティンジェンシー・プランを、あらかじめ策定しておくことが重要です。


したがって、動的安定経営においては、その際に考慮すべき重要ポイントとして、主に以下の4つを提示しています。


* 意思決定者が認知バイアスを認識する。
* ベストケースとワーストケースの2つを検討する。
* 類似のケースに関する外部情報を入手して参照枠とする。
* 計画に撤退の基準とプロセスを盛り込む。


自社の過去実績という内部情報の延長線上で将来の計画を立てる方法が、まだまだ主流だと思いますが、下手な計画は立てない場合と大差がなくなるので、これを機会に経営者として自社の計画のあり方をぜひ考えてみてください。

清水 泰志

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