コラム

 公開日: 2016-05-14 

『3匹の子ぶた』の中で最も優秀な経営者は?

 『3匹の子ぶた』というおとぎ話


子どもの頃、『3匹の子ぶた』というおとぎ話を読んだことがあると思います。


なにぶん昔読んだ話なので、ストーリーの細部を覚えていない人もいるかもしれません。

▼参照リンク
三匹の子ぶたのお話
The Story of the Three Little Pigs;Joseph Jacobs(1854-1916)


話の概略はこういうことです。


3匹の子ぶたの兄弟がいました。

母親のもとを離れて、兄弟は自立していくことになりました。

長男が家を出ていくと、道でワラを持った男に出会ったので、そのワラをもらいました。

そして、あっという間に、こぢんまりとしたワラの家を建てました。

次男が家を出ていくと、道でシダを持った男に出会ったので、そのシダをもらいました。

そして、少し時間をかけて、ほどよい大きさのシダの家を建てました。

三男が家を出ていくと、道でレンガを持った男に出会ったので、そのレンガをもらいました。

そして、じっくりと時間をかけて、大きなレンガの家を建てました。

すると、オオカミがやって来ました。

最初に長男のワラの家を訪れ、一吹きでワラを飛ばして、長男を食べてしまいました。

つぎに次男のシダの家を訪れ、何度か息を吹きかけてシダを飛ばして、次男を食べてしまいました。

最後に三男のレンガの家を訪れましたが、何回息を吹きかけてもビクともしません。

そこで、オオカミは三男を家の外に誘い出そうと、あの手この手を使いましたが、三男の方が一枚上手で、オオカミの思うつぼにはまりませんでした。

最後に、暖炉の煙突から侵入を試みたオオカミは、お湯が沸いている深鍋に落ちてスープにされてしまった。

3匹の子ぶたの中で一番賢いのは誰?


『3匹の子ぶた』は、楽しいおとぎ話かもしれませんが、あえてこの3匹の兄弟の中で一番賢いのは誰かについて考えて見て下さい。


常識的な感覚で答えると、三男ということになります。


以下、賢さの程度を次男、長男の順に高いと評価できるので、長男が最もバカだった言えます。


その理由はこうなるでしょう。


家を建てる労力と時間を節約して、吹けば飛ぶようなワラを建材に使った長男は、目先の損得しか考えられないバカ。


シダを建材に使った次男は、労力と手間を最大限節約できなかったうえに、たいして強度のない家しか建てられなかったので、すべてにおいて中途半端なちょいバカ。


目先の損得だけにとらわれずに、中長期的な視点をもってレンガを建材にして家造りをした三男は、最も賢い。


『3匹の子ぶた』というおとぎ話を引き合いにして、経営の教訓を得ようとすると、「時間と手間がかかっても、レンガを使った家のような丈夫な企業造りをしましょう」という結論になります。


しかし、本当にそう言い切れるのでしょうか?

「わかったつもり」という感覚がもたらす危険


数年前に話題になった『ブラック・スワン』(ナシーム・タレブ著)の中で、過去についての誤ったストーリーが私たちの世界観や将来予測を形成することを「講釈の誤り」と定義しています。


私たちは自分の周りのさまざまな出来事を解明しようと絶えず試みており、そこから講釈の誤りが生まれています。


私たちが納得できる説明やストーリーは、とにかく単純です。抽象的ではなく具体的です。偶然より才能や愚かさや意志で説明をしたがります。


手持ちの限られた情報を過大評価し、ほかに知っておくべきことはないと考えてしまう。


そして、手持ちの情報だけで考られる最善のストーリーを組み立て、それが心地よい筋書きであれば、すっかり信じ込んでしまう。


人間のこういう思考上の悪いクセ(=バイアス)を「後知恵(あとぢえ)」と言います。


後知恵バイアスによって、決定にいたるまでのプロセスが適切だったかどうかではなく、結果がよかったか悪かったかで、決定の質を判断するという致命的なミスを招くのです。


つまり、私たちは、決定自体はよかったのに実行がまずかった場合でも、意志決定者を非難しがちです。


また、すぐれた決定が後から見れば当たり前のように見える場合には、意志決定者をほとんど賞賛しません。


このような「結果バイアス」が入り込むと、意志決定を適切に評価すること、すなわち決定を下した時点では妥当だったのか、という視点から評価することがほとんど不可能になってしまいます。

フラットな気持ちであらためて『3匹の子ぶた』の話を見直す


たしかに、最も丈夫なのはレンガの家です。でも、レンガの家は建てるのに時間がかかるので、建てている最中にオオカミに襲われたらひとたまりもありません。


そのリスクを犯しても、完成するまでの間にオオカミが来なければ、その後はオオカミの危険を遠ざけることができます。


オオカミの襲来のタイミングについての情報を手に入れて、そのうえでレンガの家を建てたとしたら、三男が賢いことは間違いありません。


しかし、オオカミの襲来のタイミングについての情報が無いのにレンガの家を建てたのならば、三男は賢いというより、家の完成前にオオカミに食われる危険を受け入れた、単なる勇気ある子ぶたに過ぎません。


では長男はどうなるでしょう。


彼もワラの家がもろいことくらいわかっていました。でも、オオカミがいつ襲ってくるかわからないので、優先すべきは、急場しのぎでも構わないから身を隠す場所を確保することだと判断したとしたら、いまここにある危機に迅速に対応したと言えます。


そう考えると、建てるための時間と手間が中くらいで、強度もそこそこというシダの家を建てた次男は、もっとも中途半端という評価になるかもしれません。


でも、話の中にその情報はないけれど、子ぶたの三兄弟が相談してうえで、それぞれの家を建てたと仮定すると、次男の役割も捨てたものではありません。


なぜなら、長男のワラの家が壊されたあと、まだ三男のレンガの家が完成していない状況になった場合、次男のシダの家が三男のレンガの家造りのための時間を稼いでくれるからです。


バイアスの存在を認め、なるべくフラットに考えてみると、結果だけを見て、賢いかバカかを単純に決められるものではないことがわかります。


私が思うに、3匹の子ぶたというおとぎ話が示す教訓は、「偶然の力の大きさ」です。


3匹の子ぶたともに、最初に道で会った人がたまたま持っていた材料を使って家を建てたに過ぎません。


それぞれの子ぶたが、ワラ・シダ・レンガという3つの材料を示されたうえで、使う建材を決めたわけではないからです。


さらに、オオカミが子ぶたたちを襲う順番が、たまたま長男→次男→三男だったから、三男はレンガの家を完成する時間を稼ぐことができただけで、順番が逆になっていたら三匹ともオオカミに食べられていたはずです。


つまり、3匹の子ぶたのおとぎ話から、将来に向けて使える成功のための万能の処方箋などないのです。

成功の秘訣や予測可能な未来という幻想を捨てることが大切


3匹の子ぶたという子どもだましのおとぎ話を引き合いにして、ずいぶん我田引水な話を展開していると感じられる方もいるでしょう。


でも、3つの企業を取りあげて、成功したA社と失敗したB社とC社の違いを解き明かすという内容のビジネス書を熱心に読んでいる経営者は多いはずです。


残念ながら、3匹の子ぶたの話も企業の成功と失敗を後知恵で解説しているビジネス書も、まったく同じ意味しか持っていません。


『ハロー効果』(フィリップ・ローゼンツヴァイク著)の中で、ビジネス書を大きく2つのジャンルに分けています。


第一は、経営者あるいは企業の成功または失敗の物語です。


第二は、成功した企業とそれほどでもない企業を比較分析するタイプです。


ローゼンツヴァイクは、どちらのタイプのビジネス書も、確実性にすがろうとする読者の期待に応えるべく、リーダーの個性や経営手法が業績におよぼす影響をつねに誇張しており、ほとんど役に立たないと結論づけています。


実際のところ、かつて話題になった『エクセレント・カンパニー』(トム・ピーターズ&ロバート・ウォーターマン著)『ビジョナリー・カンパニー』(ジェームズ・C・コリンズ&I・ポラス著)に取りあげられた企業のその後は、継続して業績を伸ばし続けている例はなく、一様に普通のカンパニーになっているという調査結果が出ています。


こういう結果を知ってもなお、あなたは偶然の果たす役割の大きさを認めずに、因果関係を見つけようとしているはずです。


たとえば、成功した企業は自信過剰に陥ったからだと。だから、「勝って兜の緒を締めよ」という格言こそが重要なのだとか。


でも、そういう当て推量は間違っています。


かつて輝く企業だった原因のかなりの部分は「運」によるのであって、運はプラスにもマイナスにも作用するのだから、ある時点で好業績の企業と業績不振な企業との格差は必ず縮小します。


この現象は、平均への回帰という統計的事実として示されています。


にもかかわらず企業の成功や失敗の物語を綴るビジネス書がなくならないのは、経営者の脳が欲しているものを与えてくれるからです。


それは、成功にも失敗にも明確な原因があり、運だの必然的な平均回帰には触れもしないので、無視して構わないというメッセージです。


こうした物語は、わかった気になるという錯覚を誘発し、あっという間にというより最初から価値がない幻想を読者に与えます。


そして経営者は、みなそれを信じたがっているのです。

専門家の話にも注意する


ビジネス書と同様に、専門家と言われる方々も成功の処方箋の存在を前提に、それを教えることをビジネスにしています。


「こうやれば売上が倍増」とか「こうすれば儲かる」みたいなやつです。


しかも引っ込み思案な主張よりも断言的に語る口調に、高い信憑性を感じたりします。


しかし、何らかの主張に対して、主観的な自信を抱いているだけでは、その主張が正しい可能性を論理的に示したことにはなりません。


自信は感覚であり、自信があるのは、情報に整合性があって情報処理が認知的に容易であるに過ぎないからです。


でも、真に経営に必要なことは、不確実性の存在を認め、重大に受け止めることです。


動的安定経営とは、成功の処方箋よりも不確実性の存在を認め、重大に受け止めた経営を意味します。


唯一無二の成功法則という幻想に惑わされることなく、不確実性の存在を前提として、その衝撃のコントロール幅を拡大すること、そして、偶然自体をチャンスに変えていく経営基盤をつくることに経営が果たすべき役割があると考えています。


おおくの場合、偶発性のマネジメントは、迅速性と柔軟性を高めることによるのではなく、堅牢性を高めることと規模の拡大によって実現する傾向があります。


だからこそ、企業規模の拡大や盤石な財務基盤を目指した経営が主流なのです。


しかし、相対的に小さな変化に対して堅牢性の高さと規模の大きさは有効だったとしても、想定外の大きな変化に対しては、その堅さと大きさがマイナスに働くことを忘れてはいけません。


そのことを知るためにも、『3匹の子ぶた』から派生したお話である『3びきの かわいい オオカミ』という絵本を読んでみてはいかがでしょうか?



でも、後知恵で教訓を導きだすのは、ほどほどに。

清水 泰志

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