コラム

 公開日: 2016-04-20 

公平で正しい人事給与制度があると思うから深くなる悩み

賞与査定に自信が持てない社長は多い


3月末決算の会社の割合が高いので、この時期1年間の業績を振り返っている経営者の方がたくさんいるのではないでしょうか。

幸いなことに業績が良かった企業の中には、決算賞与を出すところもあるはずです。

でも、賞与の査定が簡単で楽しい仕事だと感じている社長は少なく、出すか出さないかでも悩むし、出すと決めても、今度は、「賞与の総額をいくらに設定するか」「賞与の査定をどのように行うか」という新たな悩みを抱えることが多いものです。

賞与を今回はじめて支給するという社長が悩むのなら、話は分かりやすいのですが、そうとは限りません。

毎年夏冬2回の賞与を支給して来ている社長でも、「本当にいまの支給方法でよいのだろうか?」という疑問を持っている人は多いはずです。

実際には、賞与だけではなくベアや昇給についても同じような悩みを抱えている経営者が多い、がより厳密な表現かもしれません。

そこで、「御社にとってベストの人事給与制度をご提案します」という誘い文句で、人事コンサルタントが登場してくるわけです。

しかし、日本的「年功序列」が古いと言って「成果主義」を盛んに喧伝していた人々が、最近になって「成果主義は終わった」などと平気で語っています。

ほかにも人事分野においては、「コンピテンシー」「360度評価」などなど、「これでうまくいく!これからはこのやり方だ!」というかけ声のもとに、たくさんの方法論が生まれては消えていくことが繰り返されています。

なぜ人事給与にまつわる方法論が期待どおりの結果を出せずに費(つい)えていくのでしょうか?

その答は、人間に対するある根本的な洞察が欠けているからです。

いまの給料に満足している社員は一人もいない


サラ-リーマンとして給与をもらっている人はほぼ全員こう思っているはずです。

「給料っていうのは、まったくもって不公平だ」

つまり、自分のもらっている給料と、実際の仕事の大変さの対応関係がおかしい。

自分はこんなに働いているのに比べて、あの人はたいした仕事もしていないくせにもらい過ぎだ、という不満を多かれ少なかれ持っているはずです。

どんなに最新の人事給与制度を取り入れている企業においても、社員の間から、こうした不満が消えることはありません。

しかし、サラリーマン諸氏が抱いているその思いは、残念ながら的外れです。

給料には公平も不公平もありません。あるのは、「給料が安い」という事実だけです。

先ずは、彼岸の国アメリカの話から入ります。

東洋経済が出版している『米国会社四季報』によると、2014年のアメリカのCEOの報酬トップ5は以下のとおりです。

社名(業種)
代表者
報酬額
という順番に並べています。

Transdigm Group(航空宇宙・防衛)
W.Nicholas Howley
56億0397万円

Fidelity National Financial(動産保険・損害保険)
William Foley
49億0075万円

Freeport-McMoRan(各種金属・鉱業)
Richard Adkerson
46億9085万円

Wynn Resorts(カジノ・ゲーム)
Stephen Wynn
22億7258万円

Omnicom Group(広告)
John Wren
20億9496万円

ランキング1位の金額が50億円を超えているのを見ると、日本でトップの日産自動車のカルロス・ゴーン氏の10億円がかすんで見えます。

これでも、2012年にOracleのLarry Ellison氏が CEOとして9,620万ドル(約115億円)の報酬を得ていたことと比べると、アメリカのCEOの報酬額は減っていることになります。

だから、2014年にトップの報酬額56億円を得たW.Nicholas Howley氏は、もう十分に報酬を手にしたとは思わないはずです。

今期さらに業績が良くなれば、役員報酬改定を株主総会にて動議するでしょう。

50億円の報酬を得ている人にしてそうなのですから、日本の一般のサラリーマンの中で「自分の給料は能力に比べて高すぎる」と思っている人はまずいません。

さらに、「適正だ」と思っている人もほとんどいません。

世間のサラリーマンの99%は「自分の給料は不当に安い」と考えているはずです。

じゃ、どうしたら良いのか。

あなたから見て余分に給料をもらっていると思える人たちから給料を削って、その分自分の給料に上乗せしてもらえれば、会社も自分もハッピーというのが本音かもしれない。

そんな都合の良い制度があるはずないと思うでしょうが、成果主義がそれに当たるのです。

その昔、富士通を筆頭に上場企業がこぞって導入した制度ですが、うまく使いこなせている会社はほとんどありません。

なぜ成果主義は解決策にならないのか


当時企業側が成果主義を導入した理由は、給料の安さに不満を持つ社員の救済のためではなく、総人件費抑制のための目くらましのためだったというのが本音です。

成果主義の問題点はいくつかありましたが、結局「不公平」というテーマの解決策にはならなかったこともその一つです。

なぜなら、学生時代に通信簿の評価が不当だと憤ったことに端を発し、会社勤めを始めてからも、上司が行う勤務考課が適正に行われていると無邪気に信じている社員はほとんどいないからです。

成果主義のもと、自分より早く昇給し出世する同僚のことを「自分より能力が高くそれを適正に評価された」ためと考えられる人がどれだけいるでしょうか?

「あいつは、べつにたいした能力はないけれど、たまたま上司に気に入られたとか、ゴマすりが上手いからだ」と解釈しているはずです。

一方で、自分の昇給額が低く出世が遅いことは、「他人より能力が低く、それが適正に考課されたため」と考える人もほとんどいません。

むしろ、「能力が有り余って尖っていることや、お人好しの性格が災いしている」と考えているはずです。

だから成果主義になっても、サラリーマンの多くは勤務考課は不公平だと文句を言うのです。

でも、社内で革命を起こそうなんて考える人はおらず、「それが世の中だ」と大人びた諦めをすることで、その不公平を自分なりに合理化しているのです。

実際のところ、万人にとって公平な勤務考課が現実的にだけではなく理論的にも不可能な以上、不公平感の解消に成果主義が役立たないのはある意味当然のことです。

勤務考課の不公平がもたらす隠されたメリット


しかし、「勤務考課が公平でない」ことによって、自分自身のパッとしない現状が正当化されている、ということは都合よく忘れてないでしょうか。

勤務評定が不公平であり、信用できないという事実から、不利益と同時に利益も得ているのことを忘れてはいけません。

厳正な成果主義が仮に実現できたとしたら、そこには、学歴、年齢、入社年数、コネといった能力と関係のない条件一切が考慮されず、ただ自分の能力と成果のみで給料が決まることになります。

その世界がどういうものなのか想像してみてください。

成績順に席次が決まっている学校と同じく、給料の差は丸ごと「ハダカの業務遂行能力の差」を表していることになります。

仮にあなたより2万1千円給料が高く10歳若いコバヤシから、「オレより無能なおっさん、この書類のコピーを10部急ぎで!」と言われたら、有無を言わずに「はい」と従わなければならない状況に耐えられるでしょうか。

多くのサラリーマン諸氏は「厳正な勤務考課による完全能力主義」という理想郷を夢見ていますが、その世界はむしろ地獄でしょう。

そこでは、自分の給料が安いことや、地位が低いことについて、どんな言い訳も成り立たないのだから。

「給料が低い=能力が低い」という等式が成り立つ世界を生き抜けられるほど人間はタフではありません。

だから、世間のサラリーマン諸氏が自分の能力は不当に低く見られているという不満を持ちつつも、成果主義が根付かない理由はこんなところにもあるのではないでしょうか。

勤務考課がテキトーだからこそ、「本当は、自分はもっと優秀で高い評価を得てしかるべきだ」という甘い幻想の中に浸りながら、夜な夜な居酒屋で会社と上司批判の弁舌がふるえるのです。

成果主義なんか根付いた日には、新橋の居酒屋で上司と会社の悪口を言いながら、酒を酌み交わす楽しみすら奪われてしまうことになります。

そして、まさしく「自分の能力評価は不当で、そのために本来受け取るべき給料よりはるかに安い」と信じられるからこそ、その「安い給料」に甘んじていられるのです。

だから、おおくの場合、「給料が安すぎる」と言って去って行く人は、会社を変えてもその思いが解消されることは永遠にありません。

ここまでの話でわかるように、公平さの実現という目的のために成果主義が不完全であることは、社員のサイドにとっても実は望ましいことなのです。

である以上、成果主義が思惑通りに機能しないのは当然の結果なのです。

仕事の報酬は仕事で


経営者におかれては、「公平で正しい人事給与制度が存在するという考え方自体が幻想だ」という基本的な認識を持つことが重要です。

そのうえで、ハーズバーグの二要因理論を思い出してください。

ハーズバーグによれば、給料や賞与は不満要因になることはあっても、動機づけ要因になることがないので、給料や賞与でやる気を引きだそうという考え方は意味がありません。

動機づけの観点からは、「仕事の報酬は仕事で与える」しかないことになります。

動的安定経営のためには、動機づけ要因を明確にすることが、当然に含まれますが、その第一歩は経営者自身が事業を行っている「動機」を問いかけることから始まります。

経営者が金のためだけに事業を行っている会社で、社員にそれ以上の動機を求めるのはおかしな話です。

社員の人事給与制度を考える前に、社長として「なんのために仕事をしているのか」をまずは自らに問いかけてみてください。

清水 泰志

株式会社ワイズエッジ
〒104-0061
東京都中央区銀座3-14-13 5F
TEL 03-6264-2370
H P https://wise-edge.co.jp/

この記事を書いたプロ

株式会社ワイズエッジ [ホームページ]

経営コンサルタント 清水泰志

東京都中央区銀座3-14-13 5F [地図]
TEL:03-6264-2370

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
仕事の依頼について

1 依頼人は決裁権限のある方に限る申し訳ありませんがが、決裁権限のある方以外からの依頼は、お引き受けしておりません。該当する方を具体的に申し上げると...

 
このプロの紹介記事
清水泰志 しみずやすし

黒字企業のその先へ!!「競争しない企業」をつくりましょう!(1/3)

 経営と競争は切っても切れない関係だと多くの人が考えます。競争相手に対し、いかに優位性をつくるかという視点で物事を考え、手を打つことがほとんどです。しかし、優位に立ったとしても、業種に関わらず、最終的には価格競争に入ってしまうもの。競争を繰...

清水泰志プロに相談してみよう!

朝日新聞 マイベストプロ

黒字企業の高みへ!極みと未来シナリオで競争しない企業に導く

会社名 : 株式会社ワイズエッジ
住所 : 東京都中央区銀座3-14-13 5F [地図]
TEL : 03-6264-2370

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

03-6264-2370

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

清水泰志(しみずやすし)

株式会社ワイズエッジ

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
「競争しない」は戦略論ではなく企業づくりそのものである

ブルー・オーシャン戦略に代表される競争しない経営戦略が10年ほど前から注目されています。しかし、特に日...

[ 戦略思考 ]

損得だけを物差しにしていると行き詰まる経営判断

 儲かるか儲からないかで判断すれば即断即決できる? 経営判断とか決断の重要性を説く話が世の中には溢れてい...

[ 意思決定 ]

なぜ「経営計画」や「経営革新プロジェクト」や「人材育成」は絵に描いた餅に終わるのか

 治療より予防が人間の身体でも企業でも大切だが・・・ 企業と専門プロフェッショナルの関係は、人間と医師の関...

[ 戦略思考 ]

経営者として1万時間かけて何を磨き上げるか?

 1万時間の法則とデリバレイト・プラクティス 心理学者K・アンダース・エリクソンのグループは、スポーツ、...

[ 経営者 ]

意思決定における「最適化」と「満足化」の違いと使い方とは

 優柔不断は性格特性ではありません 生活のいろいろな場面で、選択をすることが多いものです。冬物の...

[ 意思決定 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ