コラム

 公開日: 2016-04-06 

21世紀の経営者に必要な2つの「考える力」

T大出身MBAホルダーW氏の場合


少し昔の話です。クライアントG社において、W氏という方と一緒に仕事をすることになりました。

W氏は、T大出身、社費留学でMBAを取得し、大企業の経営企画職を経験した後に、新規事業のためG社に入社しました。

経歴は申し分ないW氏ですが、実際に一緒に仕事を始めてみると、非常に困ったことになりました。

「考えてきてくれ」というオーダーに対して、彼は調べてくるばかりなのです。

プロジェクト・ミーティングにて、「次回までに、〇〇〇を可能にする方法について考えてきてくれ」と伝えた場合、当然、つぎのミーティングで彼の考え方を聞かせてもらえると、こちらは期待しています。

ところが、当日になるとW氏は、専門書やネットで調べてきたことを延々と発表するだけで、自分の考えを一向に語ろうとしませんでした。

最初の頃は、こちらの伝え方が悪いのかもしれないと思い、検討課題について懇切丁寧に説明するようにしました。

W氏もそのたびに「わかりました」と返事をするのですが、何度やっても結果は同じで、調べてきたことしか発言しません。

結局、W氏にとって「考える」ということは、人生のどこかで「調べる」と同じ意味になってしまっていたのです。

しかし、考えてみると、いまの日本においては、それほど不思議なことではありません。

むしろ、W氏のように、エリートと呼ばれ仕事ができる人と思われている人ほど、その傾向が強いような気がします。

この元凶は、受験勉強にあります。

例えば、以下の問いと答えの組み合わせは、珍回答とされています。

次の文章において、太郎の行動のどこに問題がありますか。
問 :太郎は、駅のホームで裸のまま、お礼を差し出した。
答 :太郎はヘンタイかもしれない。

次の慣用句の意味を答えなさい。
問:大は小を兼ねる
答:大便をするときは、一緒に小便も出る。

次の空欄を漢字で埋めなさい。
問:父と□□(せんとう)へ行く。
答:戦闘

個人的には、なかなかセンスがある回答だと思いますが、現実には、私はこう考えました、と自分の考えを試験で開陳されても、そんなものに正解は与えられないのです。

それよりも、かつて流行った漫画『ドラゴン桜』よろしく、すでにどこかの誰かが考えた答や解法のパターンを調べてたくさん覚えた方が、確実にいい点数が取れるのが、いまの受験制度です。

最難問をスルーしたら価値がない経営の世界


入学試験でいい点数を取るためには、勉強のやり方に加えて、試験の受け方にも要領の良さが必要です。

例えば、全部で10個の問題があり、1問目が難しい内容だったとしても、2問目から10問目が解答可能な問題であれば、1問目はスルーして、残りの9問を先に解くことが要求されます。

1問目がどれほど難しい問題であったとしても、その1問を解くことより、残りのやさしい9問を解いて90点を取ることの方が、試験にパスするためには重要なのです。

でも、経営の世界は違います。

経営で求められることは、短時間で誰でも解ける2問目から10問目までを解くことではありません。他の人が解けない1問目を解くことにこそ価値があるのです。

実は、学校の勉強でもビジネスでも90点までは、成功パターンを修得すれば誰でも取れるようになります。

しかし、100点を取るため、つまり残りの10点を取るためには、その10倍も100倍も、自分の頭を使って考えることが必要です。

より厳密に言えば、受験勉強では、いかに最難関の東大といえども覚える範囲は決まっています。

しかも、9割と言わず8割できればいいのだから、要領のいい勉強の仕方と試験の受け方を知っていた方が、絶対に有利です。

ところが、経営の世界には、これだけやれば大丈夫という試験範囲のようなものはありません。

ましてや、既に誰かが確立した問題の解き方を暗記して、それで80点取ったからと言って、優秀な経営者として認められることはありません。

認められるためには、問題の解き方を覚えるのではなく、自分で問題をつくり、なおかつ80点どころか160点、200点という周囲の度キモを抜くハイパフォーマンスを示す必要があるのです。

つまり、赤点ではないけれど、80点、90点の経営で伸び悩む社長に不足しているのは、向学心でも頭の良さでもなく、答が出るまで一つの課題を考え続ける力だということです。

学生時代に勉強ができた人は、仕事でも80点を取るのが早いものです。だが、それだけに一つの課題をじっくり考え続けることをしてきていないことが多く、ねちねち考える習慣が身に付いていないのです。

管理職レベルや取締役レベルの仕事で、どんなに優秀な成果を上げているとしても(むしろ上げているからこそ)、必ずしも経営者としての資質が備わっている保証がないことは、この「考える力」の質の違いを見ればわかるはずです。

答を出すために考えてはいけない


「時代は、”価格競争”から”価値競争”に変わった」とか「価値創造型のビジネスモデルへ変革する必要がある」などと、多くの学者やコンサルタントの先生方が提言しています。

しかし実際に、自社の強みを源泉とした価値創造行うことで、競争を排したハイポジション・ハイプライス戦略に取り組んでみると、その実現が想像以上に難しいことに気付くはずです。

その原因は、「新しい酒は新しい革袋に盛れ」という格言を無視しているからです。

「他人が確立した成功パターンを取り入れて、最小限の努力で80点、90点を狙う」という従来と変わらないスタンスのままで、「これからは価値創造が新たな成功要因だ」と小賢しく考えたところで、上手くいくはずがないでしょう。

単なる戦略転換やビジネスモデルの刷新という手段を講じるだけで、価値を創造し続ける企業になれると考えるのは浅慮というものです。

今まで等閑にしてきた「自分の頭で考え続ける」ことを、企業文化にまで高める取り組みをして初めて、独自の価値を創造することができるのです。

では、自分の頭で考えるには、どうしたらよいでしょうか。

そのヒントは2つあります。

一つは、無駄な情報を遮断することです。

今の世の中は、とにかく情報が多すぎます。頭を情報処理という仕事から解放してやれば、放っておいても勝手にいろいろ考え出します。

テレビも見ず、ネットサーフィンも止め、新聞などは絶対に読まない。

ビジネスマンのたしなみとして、毎朝何紙も新聞に目を通すことを日課としている経営者の方がたくさんいますが、新聞など定年退職後に時間を持て余した老人が、昔取った杵柄忘れられずに、暇つぶしに読むものです。

新聞には、昨日政治や経済ではこういう動きがあった、どこどこでこんな事件があったということが、ほとんど何の検証も整理もされないまま等価の記事として掲載されています。

しかも、後からウソだった、間違いだったという情報が山のようにあります。

そんな粗雑なメディアに、いったいどれほどの価値があるのでしょうか。

毎日分断された情報を見せられても、世の中の本質はわからないし、ものごとの繋がりや真の意味合いなどが読み取れるようにはなりません。

新聞には必要な情報が載っていると思っていること自体が幻想です。

二つ目は、あえてどうでもいいことを深く考えることです。

「もっと深く考えろ」と言うと、ほとんどの人が、スティーブン・R・コーヴィー著『7つの習慣』に書いてあった「重要だけど緊急度の低いこと」について考えようとします。

例えば、「社員のモチベーションをあげるためにはどうしたらよいか」とか「放置してある後継者問題をどうするか」とかです。

人は、普段から無意識のうちに「考えるべきこと」と「考えなくてもいいこと」を区別してしまっています。

考える力をつけるためには、この境目を意図的に破壊して、普段考えてないことを深く考えることが鍵となります。

例えば、「なんで、鶏の卵は楕円形なのか」とか「なぜアメリカ人は煙草嫌いなのに肥満には寛容なのか」など、ご自由に。

こう言われても、やっぱり、おおくの人は深く考えることができません。

その理由は、受験勉強を通じて深く身に染みついている答を求めるために考えるという「クセ」から抜け切れていないからです。

試験の正解とは異なり、人生やビジネスにおいて、答は一つではないのです。

たった一つの答を求めてしまうと、なかなかそこに辿り着けないときに、イライラが募ることになります。

また仮に、何か一つの答えに辿り着いたときに、思考が停止してしまい他の選択肢を考えなくなってしまいます。

考えるということは、「正解を見つけることではなく、別解をたくさん見つけること」だというように、言葉の定義を変えるようにしてください。

答えを出すために考えるのではなく、思考を深めるために考える。

これが、一つのことを長く考え続けるコツです。

優れた経営脳に必要な2つの「考える力」


経営者は、「決断」という言葉のもとに、考えるスピードを上げ、複数の選択肢から1つを選ぶことが、考える目的だと思っている人が多い。

だから、深く長く考えて、しかも答を出すことにこだわるな、などと言われると、「そんな悠長な!」と反論したくもなるでしょう。

もちろん今後とも、そういう頭の使い方は必要です。

「時代が変わった」と良く言われますが、それは経営者の頭の使い方にも変化を求めています。

効率を高めることが利益の源泉だった時代は、決断力を高めるために考える力を磨く、という一点に集中していれば良かったのは間違いありません。

しかし、「決めるため」に考えることと、「価値を生み出すために」考えることは、同じく頭を使うことでも、その質が異なります。

決めるために考える場合には、ベストプラクティスを求めて、ときに他人の頭を借りることで、目的が達成されることがありました。

でも、独自性の高い価値を利益の源泉とするこれからの時代においては、もう一つのタイプである深く長く考える力を磨く必要があるのです。

また、先が読めず混沌とした経営環境において、決断することの難しさを実感することが増えているはずです。

それは、未来を「予見」する努力によって、決断力が高まらない時代になったことを意味します。

これからの時代は、決断力を高めるためにも、自分自身の判断基準を確立する必要があり、そのためには、未来を「創造」するという頭の使い方が求められているのです。

もうお分かりのとおり、自分の頭で深く長く考え続けることでしか、未来を創造していくことはできません。

つまり、いざという時の決断力を高めるためにも、日頃から深く長く考え続ける必要が生じてきているのです。

これら2つの「考える力」を高次元で鍛えることではじめて、21世紀の経営者に必要な経営脳を手に入れることができると断言します。

弊社が提唱している「動的安定経営」実現のためには、当然この2つの「考える力」を鍛えることが必須となります。

言葉を変えれば、「動的安定経営」とは「常に自分の頭で考え続ける経営」と言うことができます。

清水 泰志

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