コラム

 公開日: 2016-03-04 

社長が力を入れるのはトップ営業ではない

業ができない者にマーケティングを語る資格があるか


先日ある有能なマーケッターが、「営業すらできないのに、マーケティングで売上を上げることなんて、絶対できない」と話をしていました。


彼の主張をワンセンテンスにまとめると、こうなります。


「泥臭い対面営業を経験したことが無いクリエイターと称される人々が寄り集まって、コピーを考えたり、デザインを描いたりしても、商売の本質が分かっていないので売れるようになるはずがない」


なるほど、一理あります。


ところで話は変わりますが、あなたが、モテる男になりたいと思ったとします。


その場合、つぎの二人のうちどちらを指南役としますか。


A:渋谷のセンター街で1年間ナンパしまくった男
B:恋愛心理学を理路整然と語る脳科学者


人によって選択が分かれるところですが、私見を述べると、モテる風を装いたいのではなく、本当にモテる男になりたいのなら渋谷のナンパ師を選びます。


なぜなら、100人のファンをつくること以上に、1人を「落とす」ことの方が難しいからです。


「営業」と「マーケティング」の関係も、この話に似ているところがあります。


私自身は、後継者として父親が社長を務める会社へ入ってすぐ、新規事業起ち上げのために、法人相手の飛び込み営業をずっとやっていた時期があります。


あの経験が無駄だったかというと、そんなことはないと思っています。


どう役立っているかというと、メンタルが強くなったとか、話法が上達したとか、いくつかあります。


でも最も重要な学びは、「あんな泥臭いことをしなくても、売れるようにすることの大切さ」を知ったことなのです。


トップ営業に精を出す社長が持つ弱点


今や、一国の首相や大統領ですら、諸外国を外遊してはトップ・セールスを盛んに行っています。日本の安倍首相も例外ではありません。


一国のトップが営業をかけるくらいですから、一企業の社長がトップの営業マンであれ、ということが広く世の中で信じられています。


しかし、それは間違いです。むしろ、社長が営業をしてはなりません。


もちろん、社長に豊富な営業経験や培われた営業力があるに越したことはありません。


でも、社長の営業力に依存しなければ売上を確保できないような会社は、継続して繁栄していくことはできません。


トップ営業に精を出してしまう社長は、その理由づけとして、こう言います。


「営業マンがだらしないからだ」
「陣頭指揮をとることで、現場を鼓舞しているんだ」


でも本音を言えば、出来の悪い営業マンを指導するりも、自分が営業マンをした方が楽だからでしょう。


原価が千円の商品を十万円で月に千個売ることができる営業マンが10人いれば、その会社は他のどんな商品を扱っても儲けることができます。


しかし実際には、原価千円の商品を、下手をしたら800円でしか売れない営業マンがほとんど、というのが現実です。


だから社長は、売れない営業マンがほとんどなんだという前提で、経営をする必要があります。


つまり社長の仕事とは、売れない営業マンでも売れる商品と戦略を考えることに尽きます。


トップ営業マンの実績を自負する社長は、無意識に売上は営業マンがつくるものだと考えています。


だから、売上が伸びないのは、営業力が不足しているからと結論付けます。


このような社長は、業績が低迷すると、真っ先に営業力強化を行います。


営業マンの増強、教育、ノルマ管理、そして気合い注入のための決起集会と、やることの相場は決まっています。


もちろん、営業力を否定するわけではありません。


しかし、営業力という武器に依存した会社は、遅かれ早かれ業績の壁にぶち当たります。


ひと昔前は、営業力がモノをいうことがもあったかもしれませんが、いまの顧客は営業力で売られることを嫌うという変化を見逃してはいけません。


社長は営業力よりマーケティング力こそ身につけるべき


ここまで「マーケティング」という言葉を何気なく使ってきました。


ビジネスの世界では、おおくの人が当たり前のように使っていますが、マーケティングという言葉の定義を明確にしておく必要があります。


辞書的な定義は、世の中にたくさん流布しているので調べてもらうとして、簡単に言い表すとこうなります。


「商品を購入する顧客を見つけ出す活動」


冒頭話題にした渋谷のナンパ師の話を思い出してください。


ナンパを始めたばかりの頃は「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」とばかりに、手当たり次第に街行く女性に声を掛けられるかどうかが、その後の命運を分けることになります。


拒絶されることを恐れて、声を掛けることができない男は、どんなに頭が良くてもナンパ師としての成功はまずあり得ません。


先ずは100回声掛けをして、99回の失敗と1回の成功を手にした後に、次に何を学ぶかがナンパ師としての一流と二流の境目になるはずです。


二流のナンパ師は、ナンパ成功の秘訣をこう語るでしょう。


「結局はたくさん声を掛けた者の勝ち」
「そのためには、メンタルが強くないとね」
「最後は、押しの強さあるのみ!」


一方、一流のナンパ師は、ナンパ成功の秘訣をこう語るでしょう。


「最初からイケそうな女性を見分けること」
「特に、ほかの奴ではダメでも、俺にはOKしてくれそうなタイプの子を見逃さないこと」


聡明な読者は、もうお気付きのとおり、二流のナンパ師は営業力だけに頼り、一流のナンパ師はマーケティング力を持っているのです。


マーケティング的な用語を使って、一流ナンパ師のしていることを俗っぽく説明するとこうなります。


「自らのUSPを明らかにして、競合が少ないポジショニングを定め、ターゲット・セグメンテーションにアプローチする」


世の中全ての人や会社が、潜在的見込客にはなり得ません。


どんなに説得しても買ってくれない相手がいるし、実際のところ、買ってくれない相手の方が圧倒的に多いのです。


その反面、買ってくれる相手を見つけ出すことさえできれば、クロージングすることは簡単です。


だから、マーケティングとは「商品を購入する顧客を見つけ出す活動」と位置付けられるのです。


ただし、マーケティングの一般論に留まらないことが大切です。


自社にとって、「商品が売れるまでの流れの中で、どの部分にもっとも力を入れれば売上が伸びるのか」ということを経営者としてきちんと把握する必要があります。


それが、あなたの会社にとっての「マーケティング」なのです。


しかし、それができている社長は、実際にはとても少ない。


だからこそ、マーケティングをどのように定義しているかで、会社の特徴や社長の能力が分かってしまうのです。


あなたの会社にとって、マーケティングとは何を意味するのでしょうか?

清水 泰志

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