コラム

 公開日: 2016-01-15 

「強み」を活かした経営~その「強み」は本当の「強み」と言えますか

企業も人も「強み」が大切な時代


就活生が考えるプロフィール文から始まり、企業が策定する事業戦略リポートに至るまで、世の中に溢れかえっている言葉の一つが「強み」です。


個人や企業のレベルに留まらず、安倍政権が起案した『日本再興戦略』の中にも「強み」というワードが頻出しています。


いまや国家レベルでも「強み」がキーワードなのです。


当然、プロフェッショナルな立場で仕事をしているコンサルタントも、「経営革新を成功に導くためには、御社の強みを中核に置いた事業展開を図るべきだ」と語ります。


さらにMBAホルダーは、「企業のコア・コンピタンスを明確にしたうえで、経営資源の選択と集中を行い、ケイパビリティを一段と高めることで確固たる競争優位を築くべきだ」と助言をします。


また、夜な夜な市井の居酒屋の片隅で繰り広げられるビジネス談義の場でも、議論の主導権を一気にたぐり寄せて、できるビジネスマンとしてスノッブを気取りたかったら、こう問い掛けるに限ります。

「ところで、そういう君の強みは何だね?」
「その方法は、我が社の強みを生かすためにどう役立つのかい?」


猫も杓子も「強み」を語る世の中なのですが、この現象に対して注目すべき点は、多くの人が関心を持っていること以上に、定義が曖昧なまま「強み」という言葉が、これほどまでに濫用されていることです。


もし、ビジネス談義の中で、「そういう君は、どんな”強み”があるのかな?」という質問を繰り出すことで、あなたに対して乾坤一擲の打撃を与えようと企む輩がいた場合は、返す刀でこう問えれば痛烈なカウンターパンチとなるはずです。


「そもそも、あなたの言う”強み”とは何を意味するのですかね?」


相手が前大阪市長橋下徹氏級に能弁なら、「質問に対して質問で答えるな。しょーもない」と斬り返される可能性がありますが、そうでなければ9割以上の確率で、相手を絶句させることでギャフンと言わせることができるはずです。


このように、強みという言葉は、多くの人が定義を曖昧にしたまま気軽に使われている状況があります。


「強み」とは何か


とは言うものの、世の中に強みの定義が全く存在しない訳ではありません。


少し古い資料になりますが、2005年度版『中小企業白書』に以下の記述があります。

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<中小企業の「強み」を活かした経営革新>

経営革新に際しては、経営者が自社の「強み」や「弱み」を把握する必要がある。

「強み」とは、他社が何らかの事情で真似できない技術やノウハウを保有することで、他社に対して優位性を持つことである。

通常、世の中に存在する企業は、他社に対してなんらかの「強み」を持っているが、現実の企業では、自社の強みが何であるのか把握していないことが多い。

また、「強み」と考えている部分が実は強みでなかったりすることもある。

例えば、「繁盛している飲食店の店主は、自分の店の味が優れていると思い込んでいるが、実は駅前という立地環境が他店より優れていただけ」という場合などである。

「強み」「弱み」の分析を行う手法としては、損益分岐点の把握、SWOT分析、PPM分析、生産性分析等があるが、これらの分析を行っている企業の方が、経営革新の目的を達成している企業の割合が高い。
***************************************


もう一つ、ある大御所が語る強みの定義を紹介します。


ピーター・ドラッカー氏は、『プロフェッショナルの条件』(2000年ダイヤモンド社)において、「強みとは何か」という項目で、以下のように記しています。

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誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思っている。だが、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである。

それさえ間違っていることが多い。しかし何事かを成し遂げるのは、強みによってである。

弱みによって何かを行うことはできない。

強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。

何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書き留めておく。9か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。

私自身、これを50年続けている。そのたびに驚かされている。
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『中小企業白書』における強みの定義は、世間の最大公約数的な表現と言えます。


しかし、結局は何も明確に定義していないために、この意味で強みが明らかになってもイノベーション(革新)もインキュベーション(孵化)も起こらないでしょう。


ドラッカー先生の強みの定義は、「強みを知る方法」として述べられているのですが、他のことについては簡潔にして明瞭な表現で正鵠を射るドラッガー先生も、強みの定義については分かりづらいと言わざるをえません。


では、私が定義する企業の「強み」とは何か?


それは、こうなります。


顧客の共感を得られる事業における絶対にゆずれない”こだわり”


これを強みを超える「極み」と、私は呼んでいます。


「極み」は簡単には見つけられないからこそ価値がある


強みの「定義」と「見つけ方」は一体不可分な関係です。



つまり、ある「定義」を前提として初めて、その「見つけ方」が適切かどうかを判別することができるのです。



したがって、定義を曖昧にしたままで色々な見つけ方を試したり、その逆で定義を明確にしたにも関わらず、見つけ方が不適切だと、何れの場合も強みは見つかりません。



今日(こんにち)の経営課題は、自社の強みを知り、それを最大限生かした事業展開することであることは間違いありません。



この重要性を知る経営者の数は多いのですが、残念ながら真の強みである「極み」を探り当てている企業が驚くほど少ないのです。



そもそも定義を誤ったり、適切な見つけ方を採用していないために、せっかく手中にした「極み」は偽物であることが多い。



「極み」を基軸にした事業展開という基本方針は妥当でも、そもそも「極み」を取り違えていれば、どのような戦略も戦術も期待したような成果をもたらすことはありません。



「極み」を見つけ方として、一般的に信じられている2つの方法論があります。

1 ワークショップを開いて、全社員で検討する。
2 顧客に聞く。



どちらの方法も、顧客の共感を得られる事業における絶対にゆずれない”こだわり”という意味での「極み」を見るけることは難しいでしょう。



一つ目の方法は、自分のことなのだから自分で考えれば分かるはずだ、という信念に基づいた手法です。



しかし、ほぼ全ての人が自分自身の強みですら明確に語れない現実がある以上、企業についてのみ可能だと考えるのは希望的に過ぎます。



二つ目の方法は、自分のことは自分では分からないならば、他人に聞けば分かるはずだ、という信念に基づいた手法です。



しかし、残念ながら「顧客は語れない」のです。



幸運にもあなたに配偶者か大好きな恋人がいたとします。果たして、あなたは相手のどこが好きなのか明確に語れるでしょうか。



「優しい」「料理が上手」「美人」などなど、数多くの要素を並べることで、相手の良さを語ることはできるかもしれません。



では、あなたは優しくて、料理が上手で、美人だったら誰でも良いのでしょうか。



いや、そうではないはずです。優しいとか料理上手とか美人であるとかは、その人の断片的な情報に過ぎません。



あなたが付き合いたのは、そういう条件を兼ね備えた人ではなく、「わたしが好きになった人」であるはずです。



仮に大好きな人が料理下手でも、他にもっと相手の良いところを見つけるでしょう。



こういう条件だから好きだということではなく、好きになった人にはこういう良いところがある、というのが正しい表現になります。



では、あなたが好きになる相手とならない相手の境目はどこにあるのでしょう。



そのボーダーを語ることは、想像以上に難しいことに気付くはずです。



相手が人間でなくても同じことが言えます。あの店に二度と行かない理由は、誰でも明確に語ることができます。



だが反対に、この寿司屋が好きな理由をひと言で語ることは、とても難しい。断片的な条件ではなく、複数の要素が複雑に入り混じって好きの感情が形作られているからです。



嫌いになるのは、たった一つの明確な理由があれば十分ですが、一つの条件だけで好きになることはない。



したがって、顧客が選ばない理由を語ることは簡単ですが、選ぶ理由を明確に語ることは難しいのです。



食べログのレビューの役に立たないことを身に浸みて感じている人なら、この話は容易に分かるでしょう。


「極み」を明確にするために必要なこと


残念ながら世の中に完全なるオリジナリティなど存在しないし、万が一存在したとしても参照フレームが存在しない事柄を理解できないのが人間が持つ限界です。


我々が、あることを自由自在に考えたり感じたりしているつもりでも、実はかなり自分が身を置いている文化に規制されています。


コミュニティが共有している文化の大地に収まらないものは、そもそも認識されないために思考の対象にはなりません。


自分ではこだわりと思っていることが、ある世代全体で共有されている固有の枠組みに過ぎないことは、ジェネレーションギャップという言葉があることから分かるはずです。


そういう同世代の共通項を控除して、その後に残るもの、それが「こだわり」と呼ぶべきものになります。


世代が持つ固有の枠組みの他に、ある地域や民族が持つ固有の枠組みも当然あるので、自分の中から控除していかなければならない共通部分は相当な量になります。


さらに世代という狭い時間感覚を超えて、自分の世代を含んだ日本の戦後の文化とか、明治以降の文化や日本の近代以降の中で自分はどういう位置づけにいるのか、そういう歴史的な視点を持つことも必要になります。


つまり、こだわりを知るということは、消去法的作業になのです。そして、それは高度に知的な作業と言えます。


しかし、現に顧客が存在し、その顧客の中に理想の顧客と呼べる層が存在するなら、自社のこだわりが皆無ということはあり得ません。


こだわりは、必ず見つかるという信憑を持ってもらいたい。


では具体的にどうしたら、こだわり=強みを見つけることができるのでしょうか。


その答は、やはり自分と向かい合うしかありません。


企業なのだから、当然利潤は追求する必要があります。しかし、利益を上げるだけを目的としたビジョンは深い共感を生みません。


ビジョンを掲げてHPや社長室の壁に掲示している会社は多いのですが、どんなビジョンかという以前に、「なぜそのビジョンを掲げるのか」という理由の方がはるかに重要です。


聞き心地のよい戦略だけでは、人の心を動かすことはできません。


ビジョンや戦略が、顧客や取引先、そして社員の心を惹き付けるのは、そのビジョンや戦略の裏にある想いが伝わるからです。


表向きどんなに取り繕っても、裏に秘められた想いが本物かどうかはバレバレだと覚悟した方がいいでしょう。


だから経営者は自分の心に素直になった方がいい。金儲けが全てだというならそれでもいいでしょう。


それならば、社員にも顧客にも給料の高さや商品の安さといった金でメリットを提供し続ければいい。


想いには想いで答え、好きには好きで答え、損得には損得で答える。それが人間の心理です。


その意味で、こだわりが共感を呼ぶビジネスとは、経営トップの生き方が生み出すブランドであるとも言えます。


仕事をするうえで、「これだけは絶対に妥協しない」というもの。そのこだわりが共感を生むかどうかが重要なのです。


そんな、仕事でつながる世界観を共有するために、会社と仕事の歴史を共有することを勧めています。


会社の歴史とは、仕事をしてきた歴史だ。そして顧客に選ばれてきた歴史でもある。


ただし、重要なことは、過去に起きた出来事を共有するのではく、その背景にある想いを共有することです。


そのためには、実際に有った仕事上のエピソードを集めてみるといい。


動的安定経営のインストールにおいて、自社の強みを定義することは最初に取り組む重要事項ですが、エピソードを通して発見しコトバにしていくプロセスを遂行しています。

あなたの会社も、「極み」とは何かを定義し、その発見ができているでしょうか。

清水 泰志

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