コラム

 公開日: 2015-12-23  最終更新日: 2015-12-25

スポーツにおける監督とビジネスにおける経営者の違いは勝ち方にある

スポーツ・チームの監督に必要な条件


資本主義の成熟が進むにつれて、残された聖域の一つであるスポーツのビジネス化の進行が止まりません。


プロ野球やプロゴルフのように、「プロ」を冠しているスポーツは明らかにビジネス化されていると分かりますが、それ以外のスポーツでも、世界的なレベルで競技をするためには、全てのスポーツにおいてビジネス化が広がっています。


ビジネス化が進んでいるのは、選手に留まりません。スポーツ・チームの運営やスポーツ・イベントの開催などの、選手を取り巻く環境において、むしろビジネス化が急速に進んでいます。


スポーツには、テニスやスキーのような個人競技と野球、サッカー、ラグビーなどの団体競技の二種類がありますが、動くお金の額も大きく、ビック・ビジネスになりやすいという意味では、団体競技に分があります。


ちなみに2015年のビック・チームのトップ3は以下のとおりです。

1位:レアル・マドリード
資産価値:32億6,000万ドル
収入:7億4,600万ドル
営業利益:1億7,000万ドル

2位:バルセロナ
資産価値:31億6,000万ドル
収入:6億5,700万ドル
営業利益:1億7,400万ドル

3位:マンチェスター・ユナイテッド
資産価値:31億ドル
収入:7億300万ドル
営業利益:2億1,100万ドル

世界的なサッカー人気の高さを反映して、すべてサッカー・チームになっています。


この3チームを見て分かることは、人気があるだけではなく「強い」チームだということです。


強いから人気が出るのか、人気が出たから強くなったのかは、ニワトリとタマゴの関係で断定は難しいですが、結果として強さと人気がセットになっていることに間違いはありません。


だから、こうした資金力が豊富なチームは優秀な選手を驚くほどの高額でスカウトして、戦力を高める努力を怠りません。


同時に、強いチームをつくるためには、もう一つ絶対的に必要な条件があります。


それは、優秀な指揮官の存在です。


サッカーでも野球でも、名将と言われる監督は選手並みに引く手あまたです。


しかし、どんなに著名な監督であったとしても、期待されている勝利をチームにもたらすことが出来なければ、シーズン途中でも解任されてしまいます。


そういう意味では、監督の方が選手以上に短期間で結果を出すことを求められています。


では、実際に自分ではプレーをしないにも関わらず、勝負の結果に大きな影響を持つ監督に必要な条件や資質とは、具体的にどんなものなのでしょうか。


スポーツ・チームの監督が交代するときには、たいてい新しいトップに期待するものがあります。


たとえば、プロ野球チームの監督ならリーグ優勝であったり、サッカー日本代表チームならば、ワールドカップの本戦出場であったりします。


でも、リーグ優勝とかW杯の予選突破とかは目標であって、その目標を達成するための資質なり条件を考えることが、定義するうえでは重要です。


実際に行われた監督交代劇を見ると、多くの場合、「チーム再建に実績がある」ということが、次期監督の条件になっています。


しかし、「チーム再建のためには、チーム再建の実績のある人物を求める」という考え方は、なんら具体性がないという点で、「盗難事件を無くすためには、泥棒がいなくなればよい」と言っているのに等しいのです。


だから結局は、知名度だけで人選をしていることになり、アンマッチな監督が就任して短命に終わることが、しばしば起きるのではなないでしょうか。


ここまでは、スポーツ・チームの監督の話です。


企業のトップの場合も同様に、人物の条件を具体的に考えることは、とても大切なことです。


だが、その際気を付けるべきことがあります。


それは、スポーツ・チームの監督と企業の経営者は、似ているようでまったく異なるリーダーだという点についてです。


勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし


スポーツの世界には、名監督とか名将と呼ばれている方々がたくさんいます。


たとえば、ヤクルトをはじめ阪神や楽天の監督を務めた野村克也氏、元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシム氏などをすぐに思い浮かべることができます。


名将は多くの名言を残すという特長があるので、「野村監督名言」「オシム語録」というキーワードで検索をすると、珠玉の言葉を見つけることができます。


このお二方の考え方や言葉が好きで、ビジネスの世界でも役立てている人もたくさんいるはずです。


実際のところ、ビジネス界で名監督は人気があります。


それが証拠に、毎年どこかが行っている「上司にしたい人ランキング」には、たいていスポーツ・チームの監督がランクインしています。


参考になる部分は大いに取り入れればよいでしょうが、スポーツとビジネスでは決定的に違うことが一つあって、この違いを知らないでいると致命的です。


野村監督が有名にした肥後国平戸藩第九代藩主松浦静山の言葉に、『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』があります。


この言葉は、「勝つときにはたまたま勝つことがあるけれど、たまたま負けることはない。負けるときには負けるだけの理由がある」ということを意味しています。


だからこそ、負けた原因を追究して負け数を減らしたり、負ける原因が発生する可能性を下げたりしていくことが、安定した勝ち星や勝率につながるという教訓を生んでいます。


まさにその通り、さすがは野村監督が口にする言葉です。


自分らが努力して改善できるものに集中して、運不運に左右されないようにする。これはスポーツに限らず、あらゆるジャンルの仕事に通ずる真理なのではないでしょうか。


しかし、この真理を間違えて理解している経営者に出会うことが多いのです。


その原因は、スポーツとビジネスの根本的な違いに気付いていないからです。


スポーツとビジネスの「勝ち方」の違い


スポーツとビジネスの最大の違いは、「勝ち方」にあります。


スポーツで勝つためには、「不思議の負け」がない以上、負けた原因を徹底的に分析してその原因を取り除くことが不可欠です。


真っ先に負ける理由を減らせば、勝ちにつながる。これがスポーツにおける戦略思考です。


しかし、この考え方をそのままビジネスに当てはめてはいけません。


ビジネスとスポーツの決定的な違いは、相手が決まっているかどうかにあります。


スポーツは相手チームとの一対一の勝負だから、相手の負けがイコール自分たちの勝利になるからです。


2014年のサッカー・アジア杯での日本vs UAE戦のように、ゲーム自体は圧倒的に日本が支配していても、最後のPK戦で本田と香川が外して日本が自滅してしまえば、UAEの勝ちになるのです。


だからスポーツでは、「不思議の勝ち(=相手の負け)」があり得ますが、ビジネスの世界では同じことが起きるとは限りません。


隣の店に閑古鳥が鳴いているからといって、自分の店が繁盛するわけではありません。


繁盛するには繁盛する理由、選ばれる理由、つまり勝つ理由が必要なのです。


負けなければ勝つのがスポーツ。しかし負けなくても潰れることがあるのが企業。そもそも勝ち方が違うのです。


それにも関わらず、売れない理由を減らしていけば、もっと売れるようになると考えている経営者は多い。


この考え方は、市場占拠率が独占的に高い大企業や、特定の地域において極端に競合が少ない中小企業では有効な戦略になることはあります。


離島で二軒しかない食品店のうち一店が潰れたら、顧客は残った店へ行くしかありません。だから顧客に選択肢が少ないときには、負けない経営が勝つ経営となることがあります。


しかし、いまはまったく状況が異なります。


現在の日本においては、あらゆるビジネスの分野で顧客側の選択肢は溢れかえっています。


マイナス・ポイントを潰すことにまったく意味がないとは言いませんが、誰かにとってのマイナスが、他の人にとってもマイナスだとは限らないのです。


大事なことは、選ばれない要因をなくすことではなく、選ばれる理由をつくり出すことです。


「付き合いたくない会社」であることと「付き合いたい会社」であることとの間には、想像以上の隔たりがあります。


嫌われないための努力と、好かれるための努力はまったく別物なのです。


だから、嫌われないための経営に徹した結果、誰からも好かれない経営に成ってしまっている会社は意外なほど多い。


「差別化されない」ための戦略では競争から逃れられない


勉強熱心でより良い経営を目指している社長であれば、「中期経営計画」の策定を行っているはずです。


ところが昨今では、5ヶ年の中期経営計画策定後、1年半もすると全面的な計画の見直しを行わざるを得なくなる企業は少なくないのです。


その理由は、日本企業の経営会議で「戦略」という言葉が使われる瞬間に象徴されています。


多くの場合、「戦略」が議論されるのは、「ライバル企業が、こう動いた。さて当社はどうするか?」という文脈でなされることが多いのです。


もちろん、こうした議論は、競合他社の戦略的な打ち手に対する「対抗戦略」をどう打つかという視点で議論されることもありますが、多くの日本企業の場合、「対抗戦略」ではなく「追随戦略」とでも呼ぶべきものになっています。


言葉を変えれば、無意識に「ライバル企業に置いていかれないために、どうすればよいのか?」と発想してしまう。そして、本能的にライバル企業の打ち手の物まねをしてしまう。


追随戦略をベースとした経営計画を策定している限り、戦略の前提である相手の動きがますます早くなっている分、経営計画の寿命は短くなるのは当然です。


それでも、日本経済全体が右肩上がりで成長している間は、追随戦略を採用してもそれなりの成果を得ることができました。


しかし、低成長を前提としたこれからの時代においては、真の意味での「差別化戦略」とさらにその上をいく「独占戦略」を打ち立てて実行する経営しか生き残れません。


そのためには、不動の核心的競争力(コア・コンピタンス)を明確にした後に、競合他社に対して受身で反応するためではなく、「主体的に戦略を不断に見直す経営能力」と「変化した戦略に迅速かつ柔軟に適応可能な企業体」を築き上げる必要があります。


競争しない企業づくりとは、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」の一歩先をいく「勝ちに不思議の勝ちなし、負けに不思議の負けなし」を実現する経営なのです。


その意味において、スポーツ・チームの監督と企業経営者の条件は、絶対的に異なるのです。

清水 泰志

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