コラム

 公開日: 2015-12-17 

優れた経営者になるための資質と条件 ~ 知っておくべきたった一つのこと

世の中にいる二種類の経営者とは


多くの経営者と話をしていると、人間である以上当然ですが、十人十色で人柄も性格も様々であることが分かります。


でも、そうは言いながらも、大きく分けると二種類の経営者がいることに気づきます。


一つ目は、自信に満ち溢れた経営者で、二つ目は、自らの能力不足を嘆き悩んでいる経営者です。


経営者であれば、自信に満ち溢れた社長になりたい(あるいはなるべきだ)と、ほぼ全員が思っているはずです。


だからこそ、巷に流布している経営者のリーダーシップ論においても、経営者と自信の関係は、切っても切れないものとして語られているのです。


でも、自信に溢れた経営者ほど危険な存在はいません。


本当のところは、「能力のない経営者ほど自信にあふれ、本物の実力を持つ経営者ほど自らの能力に疑いを抱いて悩んでいる」からです。


能力を高めるために必要な 「学び」の本当の意味とは


自信は、「自分を信じる」という言葉の意味からして、当然に自己肯定という効果をもたらします。


そして、困ったことに自己肯定をする者には、「学び」の質的低下という問題が生じますが、当の本人はそのことに気付かないのです。


では、そもそも「学び」をどのように定義したらよいのでしょうか。


私自身は、「学び」を以下のように定義づけしています。


学びとは、自分が何を学んでいるのかを知らず、それが何の価値や意味や有用性を持っているかを言えないところから始まるもので、

”自分が何を学んでいるのかを知らず、その価値や意味や有用性を語れない”というその事実こそが、学びを動機付けている。


つまり、学びとは時間軸を持った現象なのです。


「学び」が無い状態から、「学ぶ」という行為を通じて、はじめて「学び」を会得した状態へ到るからです。


したがって、ある「学び」が無い状態の人にとって、その「学び」の価値を正当に評価することは出来るはずがありません。


もし可能だと主張するなら、あなたが手にしたものは「学び」ではなく、単なる「知識」に過ぎないと思ってください。


自分の子供時代を思い出してください。


学校に入って、国語や算数を習うとき、自分が何を習っているのか、何のためにそれを習っているのかを、習い始めのときには言えたでしょうか。


でも、言えなくて当然であり、むしろ言えてはならないのです。


なぜなら、学びとは、本来そういうものだから。


なぜ「成長」のために「学び」が必要なのか


だからこそ、学びは「成長」をもたらすのです。


学ぶ前には身に付けていなかった物差しによって、学びの意味や価値を後になって理解する。


このような時間軸を伴った動的なプロセスこそが、学びなのです。


学び始めたときと、学んでいる最中と、学び終えたときでは学びの主体そのものが別の人間であるということが、成長そのものを意味しています。


本当の学びは必ず成長をもたらし、同時に学びを伴わない成長はありません。


企業や事業が成長するとは、何を意味するのか


経営者は、企業や事業の「成長」を常に考えています。


しかし、人間の場合と同じく、そもそも「成長」に対する基本的な定義を等閑(なおざり)にしたまま、成長戦略などという言葉を振りかざしている経営者が多くないでしょうか。


多くの経営者は、成長をこう考えています。


売上が増えること、利益が増えること、店舗数が増えること、従業員数が増えること・・・。


だがこれらは、外形的な変化に過ぎず、まるで子どもの身体的変化を語っているのと違いがありません。


身長が伸びた、体重が増えた、足のサイズが大きくなった・・・。


たしかに、身体的変化を通じて子どもの成長を感じることはあります。


しかし、子どもの成長をしみじみと感じるのは、できなかったことができるようになったとき、責任感のある言動をとったとき、他人の面倒をみるようになったとき・・・などの質的な変化を目の当たりにしたときのはずです。


質的な変化の裏には、必ず学びが存在しています。


そして学ことで、「学び始めたときと、学んでいる最中と、学び終えたときでは学びの主体そのものが別の人間になる」ことを通じて、成長が成し遂げられるのです。


人間でも企業でも、この成長の意味は根本的に変わるところはないと考えています。


だとすると、企業の成長とは、図体を大きくするという外形的要素を目指すものではなく、成長の結果は、外形的要素のみで評価されるべきものではありません。


組織として、「何を学んだのか」「学びによって何がどう変化したのか」という視点によって成長を定義することが、企業における成長を考察するときのスタート地点であることを強調しておきます。


経営者の成長が企業の命運を握っている


企業としての成長はイコール質的な変化だとすると、その質的変化をもたらすキードライバーは、間違いなく経営者自身の成長ということになります。


では、こんなことを口にする社長をどう思いますか。


「いやぁ-、うちの社員はできが悪い者ばかりで困っているんですよ。先生にお願いして、うちの社員を鍛え直してもらいたい」


社長の思いとは裏腹に、この会社が成長を図るために必要なことは、社員研修をすることではありません。


社長自身が成長することが、真っ先に必要です。そのために、当然「学び」を欠かすことは出来ません。


しかし、こういう社長に限って、依頼を受けた専門家が社員研修の具体的提案をすると、こんな質問を投げ掛けてきます。

「これってどんな意味があるんですか?」
「これをすると何の役に立つのですか?」


また、社員研修よりもっと経営の基幹に関わる話、たとえば ”企業としての真の強みの明確化” "ビジネスモデルの再構築” ”財務シナリオづくり” などの話に対しても、「それをする意味は何ですか?」という切り返しをして来ます。


学びのスタートが、「いま自分の手持ちの価値スケール(物差し)では、決して測定できないものが、世の中には無限と言ってよいくらい存在する」こと、つまり「無知の知」であることを知る人は、このような質問を軽々しく口にしません。


昨今学校でも、授業中に私語を止めない生徒に対して静粛に授業を受けるように諭すと、「この勉強をして何の役に立つのか?」という問いを投げ掛けられて、教師が絶句することがあると聞きます。


生徒の側は、教師が絶句するほどの革新性と批判性が高い質問が出来ることをもってして、自分には高度な知性があると思い込んでいる節があります。


だから、あらゆる機会に「だから何の役に立つのですか?」と問い掛け、満足が得られる答を得られなければ、自信たっぷりに打ち棄ててしまうのです。


しかし、この切れ味の鋭さそのものが、子ども自身の成長を妨げているということは、当の子ども自身には決して自覚されることはないのが悲劇です。


これは年端もいかない子どもだけに限った話ではありません。


学ぶこと、学ぶことを通じて成長することを追求していく以上、社員であろうが社長であろうが、若かろうが年寄りだろうが共通して陥る危険な罠なのです。


でも、経営者としては反論もあるでしょう。


そもそも、専門家から受け取るサービスに対して、こちらは金を支払う以上、経済学の基本原則である等価交換が成り立つ必要があるはずだ。


だから、支払う対価に見合う価値があるかどうかを、事前に判断するのは当然だ。まあ、こういう話です。


モノを購入するだけなら、こうした考え方は正しい。でも、成長を期する投資を行う場合の判断としては筋が良くありません。


「何の役に立つのか?」という問いを立てる経営者は、そのテーマに対する判断をする自分自身の価値観の正しさをすでに自明の前提にしているからです


「意味がある」と私が決定したものは有用であり、「意味がない」と私が決定したものは無用である。確かに歯切れの良い決断力かもしれません。


では、「私」が採用している有意性の判定の正しさは、誰が保証してくれるのでしょう。


当然、「何の役に立つのか?」というプラグマティックな問いを下支えしているものは、自己決定・自己責任論です。


社長である以上、自己決定をする必要があるのは当然だろう、という主張です。


自己決定したからには、自己責任を負う必要がある。


だから、最終的には私が責任を取るのだから、今ここで俺の価値観でものごとを決めて何が悪いというマインドが生まれるのは想像に難くありません。


こういう経営者こそ、冒頭に分類した自信に満ち溢れた経営者と言えます。


でも、自信に満ちた経営者ほど、現在の自分の物差しに信頼を置いているために、その副作用として、「学び」の質の低下を招くのです。


学びの質が低下すれば、経営者の「成長」のスピードは鈍り、最終的には企業の「成長」も終わる。


企業再生にも長年携わって来た私が断言します。


多くの企業の転落の構図とは、要約すると全てこの流れで起きているのです。


専門家も襟を正す必要がある


ここまで経営者の方々の抱えている課題を一方的にあげてきましたが、実は士業、コンサルタントなどの専門家(プロフェッショナル)側にも課題があります。


専門家と言えどもビジネスに参加するプレーヤーである以上、自ら提供する価値を分かりやすく示すことで、受注努力を欠かしません。


その努力はある程度まで必要なことは認めますが、その努力が行き過ぎると、「こうすれば楽に売上が伸び、儲けが倍増するよ。簡単カンタン!」と語るプロが現れます。


しかし、経営には無限の段階があり、完璧な経営能力を体得することはできません。


この理を、経営分野におけるプロであれば肝に銘じ、経営者へ必ず伝えるべきです。


経営に携わるプロであれば、「この道を甘くみたら痛い目にあうよ」というのが、経営者へ告げる第一声のはずです。


そう言わずに、「経営なんか、こうすれば誰でもできるよ。簡単カンタン!」と語るプロがいたら、その人は似非であるか、何か危険な下心を持っていると思った方がいい。


この違いとは、前者は「スキルや方法論というツール」を提供し、後者は「成長のために不可欠な学びの重要性」を提供していることから生まれています。


ゴールを簡単に示すプロは、「あなたの会社は他社と同程度のレベルに達した」ことをもって評価します。


しかし、本物のプロは「あなたの会社は他社とどう違うか」ということをもってしか評価しません。


その評価を行うために、前者は「これで十分」という到達点を具体的に示し、後者は「これで十分ということはない」として到達点の存在を否定してみせるのです。


経営という同じ領域のことを教えていながら、「これが出来れば大丈夫」ということを教えるプロと、「学ぶことに終わりはない」ということを教えるプロの間には、想像以上の隔たりがあります。


なぜなら、前者の教えは成長を終わらせ、後者の教えは成長の加速度を倍増する結果をもたらすからなのです。


企業経営にゴールはない


企業経営という領域において、私がコンサルタントとして伝えたいことは、経営に「これだけできれば十分」という到達点はない、ということです。


半世紀の経営経験があろうが、いくつもの会社を経営しようが、MBAを取得しようが、経営に「これでおしまい」というゴールはありません。


だから、経営者が経営を学ぶに当たり、具体的な到達点があると思っている間は、まだまだ初心者の域を脱していないと言えます。


経営を学ぶとは、有用な知識や技術を身に付けることがゴールではありません。


どこまで行っても究極の経営がないことを知ることにこそ、学びの効用があるのです。


世の中には、「これだけ出来れば十分」という「わかりやすさ」を売り物にしている「先生」方もたくさんいらっいますが、それはあくまでも先生方のマーケティング上の都合に過ぎません。


でも、本当のプロならば「これだけできれば十分」などというウソをつきません。


まさか本気で「これだけできれば十分」だと考えている先生がいれば、決して敬意を得ることはないでしょう。


同様に、世の社長達も、経営者としての成長を持続的に達成する学びを忘れてはなりません。


そのためには、自らの現在の物差しだけで、ことの是非を判断しないことが大切なのです。


では、最後に何を根拠に学びを得る機会を創出したらよいのか?


その答は、表層的なスキルや方法に目を奪われることなく、自分自身の根源的なこだわりや価値観を研ぎ澄まして、その部分で共感できる人物と巡り会うことが第一です。


そうそうれば、現時点で等価交換の見通しが立たなくても、学びのプロセスに身を投じることができるはずです。

清水 泰志

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