コラム

 公開日: 2015-12-16  最終更新日: 2015-12-17

決算書の歪みを知らずに読み方を学んでも経営には役立たない

何のために毎年決算書を作っているのですか?


会社経営をしていれば、ほぼ100%税理士さんと顧問契約を行って、毎月何万円かの顧問料と年に一度6ヶ月前後の決算費用を支払っているはずです。


ざっと見積もって、年間で数十万円は下らない金額になるでしょう。


そこで、経営者の方によくこんな質問を投げ掛けます。


「何のために毎年費用をかけて決算書を作っているんですか?」


この質問に対して即座に回答が出来ずに、口ごもる方も少なからずいますが、最終的に出てくる答えは、大きく分けて次の2つのパターンに収まります。


A 税金を支払うため
B 経営の実態を数字で把握するため


でも、決算書を作る意味は、本当にこの2つの理由なのでしょうか?


あるいは、決算書は本当にこの2つの目的を達成するために役に立っているのでしょうか?


残念ながら、決算書はこの2つの目的のために役立っていません。


驚くほど少ない黒字企業の数


先日、必要があって企業データを調べる機会がありました。


条件は、未上場・売上高10~100億円・3期連続黒字・全国・全業種です。


結果は、わずか32,000社足らずでした。


国税庁が今年10月に発表した情報によると、2014年度内に決算期を迎え税務申告した法人のうち、黒字申告の割合は30.6%でした。


全体の3割という数字は、決して多いとは言えませんが、いずれにしても単年度の黒字企業の割合に過ぎません。


そこに3期連続黒字という条件を加えると、売上規模や未上場という制限があるにしても、全国277万1,000法人を母数とするなら、32,000という法人数は1.1%という割合まで減少することになります。


ちなみに、上場企業数は約3,500社、リスクモンスターが2013年6月に発表した資料によると売上高100億円超の企業数は約13,500社あります。


つまり、継続して黒字を計上している企業は1%強で、残りの99%弱は毎期黒字とは限らないということを意味します。


そうなると、毎年決算書を作る理由の一番目にあげている「税金を支払うため」は、おかしな話になります。


むしろ、「税金を支払わないため」に決算書を作っているが実態でしょう。


しかし、その実態もやむを得ないのかなと思うところもあります。


なぜなら、多くの中小企業が法人を設立した目的は、そもそも節税のためだからです。


少し古いデータになりますが、平成20年度「会社標本調査結果」によると、1,000万円~2,000万円未満の資本金額の法人割合が87.8%を占めています。


実際のところ1,000万円~2,000万円未満法人のほとんどが、1,000万円法人だと推察されるので、法人全体の8割以上が節税目的の1,000万円法人ということになります。


1992年に個人事業主向けの「みなし法人課税制度」が廃止されたことに伴い、とにかく節税目的で法人成りをする個人事業主が増えました。


法人を設立すれば当然、年間利益額を予測して、その利益がゼロに限りなく近付くように、役員報酬の額を設定するはずです。事実、税理士さんもそのように指導している方が多いのではないでしょうか。


このような事情で出来上がった決算書を分析する意味は、ほとんどありません。


結果的に、経営者自身が自分の会社の採算性について、適切な把握をする手段を失っているのです。


残念ながら、その数字を見ても経営実態は把握できない


赤字であろうが黒字であろうが、「税金」を意識して決算をしている限り、そこには税法による実態との乖離が生まれています。


厳密に言うと、税率が高いとか低いとか、税法上の取り扱いの是非とかいう税法自体が問題なのではなく、税金を計算するための基準をそのまま中小企業の会計に導入していることに大きな問題があるのです。


そもそも税務会計とは、その文字が表すとおり税金を計算するための会計です。


だから、税務会計では、決して企業の経営実態を掴むことは出来ません。


ただし税法は、決算書を最初から税金を計算するための基準で作成しろとは定めてはいません。企業には税務会計とは別に独自の経営実績の計算を求めています。


そのために、法人税は「法人税申告書別表4」で税務調整計算をするようになっているのです。


しかし、中小企業のほとんどは、「法人税申告書別表4」による税務調整を実質的に行っていないはずです。


その理由は、税法基準によって決算書を作成しているからに他なりません。


なぜなら、各企業独自の会計方針を決めて、後から税務調整を行うという真っ当なやり方は、面倒臭いと思っている経営者や税理士が多いからではないでしょうか。


理由はともかく、税法基準で決算書を作成することで、経営実態と乖離することになりますが、その原因として、以下の6つをあげることができます。


① 減価償却資産の耐用年数
② 一括償却資産の存在
③ 貸倒損失の計上基準
④ 繰延資産の存在
⑤ 棚卸資産の評価基準
⑥ 遊休資産の評価基準


実際に、減価償却資産の耐用年数について、具体例をあげてみましょう。


ここに外食業を営む某企業の資産台帳があります。


この資産台帳は税法の定める耐用年数によって作られているので、ある店舗の建物が20年、空調設備が15年という耐用年数で減価償却を行っています。


この店舗は、オープンして6年経つので、今年から繰延資産として計上されていた開業費の償却も終わり、毎月儲けがコンスタントに出ている状況です。


しかし、すでに設備の痛みが目立ち始め、2年以内に大幅なリニューアルが必要だという経営判断をしています。


はたして、この店舗は儲かっていると言えますか?


もし、法定耐用年数にとらわれずに、5年で建物や空調設備の減価償却を行っていたら、採算性が極めて低いという判断をする可能性が高くなります。


このように減価償却資産の耐用年数は、企業の利益額に大きな影響を与えますが、税務上の耐用年数は間違いなく実際の耐用年数より長く設定されているのです。


課税側の立場で考えれば、耐用年数を長めに定めることは当然です。なぜなら、より多くの税金を徴収するためには、なるべく所得の額を大きくする必要があるからです。


減価償却資産の耐用年数以外の他の5つの原因についても、税法が定めるところは損や経費はなるべく認めずに、できるだけ多くの利益(税法では所得)が上がる方向で定められています。


つまり、税法基準によって作成された決算書や月次試算表などを見たところで、経営実態を正確に把握することなど不可能だということです。


さらに税法基準による会計という問題に加えて、先に述べた節税目的で役員報酬を過大に計上している中小企業特有のバイアスがかかった決算書をベースにして、経営分析やら財務分析をしてみたところで、意味のないことは議論の余地がありません。


事業計画における利益をどう算定しているか


専門家の中には、事業計画(あるいは経営計画)の重要性を主張する方がたくさんいます。


しかし、事業計画を策定する際に重要なことは、利益をどのように算定し、どのようにモニターするかという最も基本的方針の部分であるはずです。


それにも関わらず、税法基準で作成された決算書の数字をベースに、投資計画も税法基準による償却年数をもとに採算性を計算していて意味があるでしょうか。


どんな基準で算定しようとも、決算書自体が過去の結果を表しているものに過ぎず、1年も前の事実をトレースしていることに価値はないという厳しい意見もあります。


私は、税法基準ではない経営者の意思が反映された基準をもとに算定された決算書であれば、一定の意味があると考えます。


同様に、事業計画も無いより有った方が良いという次元に留まらずに、意思を持った企業の未来像を描くにあたっては、数字によって語られる計画は間違いなくあった方が良いと考えています。


ただし、事業計画には、業績をどのように評価するかという経営者自身の意思が反映されていることが、最低限必要なのです。


多くの経営者は、自社の会計に対して意思を持たない人が多すぎます。


将来のビジネスに対するビジョンは描いていても、将来のバランス・シートに対するビジョンを描いている経営者はどれだけいるでしょうか。


経営者としての意思なき数字をベースに財務分析をして、業界の平均値を基準として自社の優劣を評価して、どうしたいのでしょうか。


データを集めれば、そこに何か答が見えるはずだと考えていること自体、意思なき経営の現れです。


財務分析とは、目指すべきバランス・シートの形とそれを可能にするための損益計算書を自ら定義し、それを基準として行ってこそはじめて意味が出てくるものなのです。


同様に、事業計画とは売上高と利益額の予測をするものではありません。


ストーリーとしてのビジネスシナリオが存在し、同時に目指すべき財務体質を実現するための具体的施策が含まれている必要があります。


つまり、経営者としての意思があってこそ財務分析も事業計画もその真価を発揮するのです。


直近の決算書のここをチェックしてみる


経営者の方は、自社の決算書を見て「法人税申告書別表4」にて、所得額の調整を行っているかどうかを、先ずは確認してみてください。


もし、決算書の利益≒税額計算上の所得であるなら、経営の実態把握が出来ていないうえに、意思を持った企業の未来像も描けないという意味において、極めて危険な状況だと認識して欲しい。


今好調だとしても、その儲けは本当の儲けだろうか。多くの場合、薄氷の儲けに過ぎないのです。

清水 泰志

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