コラム

 公開日: 2015-12-09  最終更新日: 2015-12-10

会社を潰したくなかったら、同族企業は後継者選びで親族にこだわらないこと!

次々と起ち上がる事業承継ファンド


最近のニュースを見ていると、金融機関や商社が事業承継ファンドへ出資したという記事が目につきます。


この状況を望ましいと思う人も多いのでしょうが、個人的には非常に違和感を持って記事を眺めています。


そもそも事業承継ファンドは、何を目的にしているのでしょうか?


そのことが一番分かりやすく書いてあるのは、中小企業庁のページです。


以下に、中小企業庁の該当ページの引用をします。

****************************************

後継者不在等の事業承継問題により新たな事業展開が困難となっている中小企業は、新事業展開を通じた経営の向上を図ることを目的とするファンドによる資金供給や販路拡大等、踏み込んだ経営支援を受けることができます。

<対象となる方>
優れた技術やノウハウをもっているが、後継者不在等の事業承継問題を抱え、新商品の開発、新事業の開拓等、新たな事業展開が困難となっている中小企業の方

<支援内容>
目利き能力や販路ネットワークを有する民間の投資会社等が運営するファンドに対して、中小企業基盤整備機構(中小機構)が出資(ファンド総額の1/2以内)を行うことで、後継者不在等の問題に悩む中小企業への投資機会の拡大を図っています。

これらのファンドを運営する投資会社の審査を通過すれば、オーナー経営者等からの株式取得による経営権の取得、各種手法による事業資金の供給、無限責任組合員による経営面での支援、各支部を活用した中小機構による各種支援等、販路拡大等の踏み込んだ経営支援(ハンズオン支援)を受けることができます。

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後継者不在により、現経営者が引退したり亡くなったりしたあとに、事業の継続が難しくなることはおおいにありえることです。


しかし、後継者不在の問題が、果たして金で解決することなのでしょうか?


オーナー経営者にとってみれば、ファンドが手持ちの株式の売却先になってくれれば、悠々自適な引退生活に入りやすくなるメリットはあるでしょう。


でも企業側としては、ハンズオン支援なんて、本音では受けたいと思っていないはずです。


ファンドが手配した何とかコンサルタントのような人が突然現れて、あーだこーだ言うのでしょうが、それで企業が変わるのなら、今までいた経営者が無能だったということの証にしかなりません。


また、いずれにしたって、企業変革に取り組む時期は、事業承継よりもっと早い段階のはずです。


だいたいにおいて、「新たな経営者が誰か」がもっとも重要なことで、そこはファンドが肩代わり出来る類のものでありません。


中小企業の7割が抱える後継者不在という問題


後継者不在は、事業承継における一番大きな問題となっています。


2011年の帝国データバンクの調査によれば、国内企業の2/3にあたる65.9%が後継者不在だとしています。


なぜ、これほど多くの中小企業が後継者不在で悩んでいるのでしょうか?


それは、現経営者が親族内承継をしたいと考えていることに、主たる原因があると考えています。


そのため、子供が生まれると、年端もいかない頃から「将来会社を継げ」というような刷り込みを行う社長が多いのです。


そして、多くの社長である親は、後継ぎである子供に対して、教育にも十二分に金をかけて育てます。


ところが、子供が優秀であれああるほど、一流企業に就職したり、医者や弁護士を目指したりするケースが多発します。


そして、親の思惑通りに自分の会社へ入る子供は、できの悪いどら息子ばかりということになってしまうのです。


人間は強制されれば反発したくなるのが常ですから、子供の頃から後継ぎというアイデンティティを押し付けられると、その反動で自分らしい自由な人生を選びたくなるのは不思議ではありません。


ここまで決めつけた言い方をするのには、理由があります。


それは、私自身が二代目経営者だったうえに、大学時代の同期に跡取り息子が多かったという背景があるので、後継者の心理について知るところが多いからです。


だから後継者不在問題の多くは、「息子(娘)が会社を継ぐ気がないので」という枕詞とともに語られることになるのです。


なまじ親族内承継なんて考えているから、現経営者に「いつでもできる」という気の緩みを生むことになります。


結果的に、本来は経営者の責務の中で最も重要であるうえに、時間も手間もかかる後継者育成が等閑にされているのです。


そして、いざという時に、当てにしていた子供からそっぽを向かれると、後継者不在という重大な問題に直面することになります。


思い切って同族承継にこだわることをやめる


このような後継者不在で悩む状況を解決するためには、中小企業でも同族承継を最初から考えるのを止めることが望ましいと思います。


最近、日本を褒めそやすテーマの一つとして、世界的に見て老舗企業が多い国だという話があります。


この主張の根拠になっているのが、韓国銀行が2008年5月に発表した「日本企業の長寿要因および示唆点」と題する報告書です。


この調査報告書によると、世界中で創業200年以上の企業は5,586社(合計41カ国)あり、このうち半分以上の3,146社が日本に集中しています。


この調査結果は正しいとして、日本に老舗企業が多い理由はどこにあるのでしょうか?


その答の一つは、「同族承継に拘らなかったから」だと考えています。


より厳密に言うと、明治時代以前の日本においても、基本的に同族承継を考えていたが、現在のやり方とは異なっていました。


江戸時代の商家の考え方は、無条件に男系子息に経営を引き継ぐのではなく、最も優秀な番頭と娘を婚姻させることで、血統の永続性と経営の手腕を担保するという一粒で二度美味しい方法が主流だったのです。


冷静になって考えてみれば、古の商人の視点は合理的で現実的なものだと思います。


家とか血の系譜は引き継ぎたいが、企業の持続性を高めるためには優秀な経営者が必要です。


そのためには、息子に必ず経営を引き継ぐことに拘ることは、息子が常に優秀な経営者としての資質を持っている保証がない以上、極めて危険な賭けですから。


だからこそ、血の系譜の存続は娘に託し、経営の手腕は外部調達するという、現代風に言い替えると、資本と経営の分離をする発想がすでにあったからこそ、老舗企業になり得たのではないでしょうか。


社長が自分の息子に会社を継がせたいと考えるようになったのは、大東亜戦争後の僅か70年のことに過ぎません。


それでも、世の中全体が、右肩上がりで成長していたり、少なくとももっと安定性が高かった時代は、ボンクラな息子が後を継いでも何とか会社が存続することができました。


しかし、付加価値の低い労働集約的な仕事がどんどん新興国へ流出して、日本の産業全体が情報産業化していく中、大志もなく能力も低い経営者が舵取りする会社は遅かれ早かれ潰れる運命にあります。


経営者に求められる資質が30年前とは比べものにならないほど高度化しているのだから、仮に自分の子供が「会社を継ぐ」と言ったとしても、その器にあらずということがどんどん増えるでしょう。


だとするなら、最初っから同族承継を考えることをやめて、時間をかけて、次世代の経営者を一から見つけ育てる取り組みをするしかありません。


そんな時間はないというなら、自分一代限りで会社を清算することも意味のある選択肢の一つになるはずです。


後継者が不在ならM&Aでどこかの会社に買ってもらえばいいという考え方も最近の流行ですが、特許に守られた技術があるような製造業ならいざ知らず、卸売業とか建設業のような受注型のオールドエコノミーに属する業種では、買ってくれるような会社はないと思った方がいいです。


最終的には清算する方向で経営をするなら、誰かに言われるまでもなく、無闇に借入金を増やすことも避けるでしょう。自分で返さないといけないのですから。


また、ハッピーリタイアメントを可能にするために、退職慰労金の原資とするべく内部留保を積み上げるとか、オフバランスの資産の積み上げをするという真っ当な努力を自然とするようになり、かえって経営が健全化するかもしれません。


住宅の二世代ローンではありませんが、「どうせ子供に継がせるんだから」という思いがあるために、無節操な経営をして、結果的にそのツケを後継者に回している経営者は、決して少なくないのです。


とにかく、最近事業承継というテーマは、相続とかM&Aといったキーワードのもとで、出口戦略をどうするかという観点で取り上げられることが多すぎます。


それはイコール考えていることが泥縄ということで、もっと早い段階で着手すべき課題であるという本質を忘れているということを意味します。


選択肢を多くすることが、事業承継成功のポイント


事業承継に経営者がもっと早い段階で意識して取り組めば、選択の自由度が高まります。


選択の自由度が高いということは、それだけストレスが少なく、しかも選択した方針の成功率が高まるということなのです。


そのうえで、なお結果として同族承継が行われることはあるでしょう。


でも、おこぼれに預かったわけではない事業承継が行われていれば、企業にとっても前経営者にとっても現経営者にとってもハッピーなはずです。


「会社は子供に継がせればよい」と考えている経営者の方は、事業承継の本質について、深く考えることをお勧めします。

清水 泰志

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