コラム

 公開日: 2015-12-08 

戦国武将好きな社長が語る「ビジネスは戦争だ!」は大間違い

ビジネスを戦争に例えるのが好きな世の中


書店のビジネス書コーナーへ行くと、「マイケル・ポーターの競争戦略」とか「リアルオプションと経営戦略」といった分厚い「戦略本」が威風堂々と鎮座しています。


私自身は、「戦略」という言葉をあまり使いたくないのですが、ほかに替わるべき適当な言葉がないので、渋々使うことが多くなってしまいます。


ご存じの方も多いでしょうが、現在ビジネスの世界で普通に使われている「戦略」「戦術」という言葉は、「戦争」用語です。


いったい、いつからビジネスが「戦争」になったのでしょうか?


日本の歴史を振り返ってみると、江戸時代以前の「商い」を武士の行う「戦」としてとらえていたという印象はありません。


現在に至っても、少なくともお客としてモノを買ったりサービスの提供を受ける時に、戦場に赴く覚悟をもって挑むことはないはずです。(最近増えているモンスター・クレーマーの場合は、違うかもしれませんが・・・)


本来、商い=ビジネスは、モノを媒介とする平和的なコミュニケーションであり、戦争の例えで語るのはおかしいはずだと思います。


それでも書店には「戦略本」が並び、「戦国武将に学ぶ経営戦略」という本が実際に存在します。


実際の会社においても、管理職を「指揮官」と呼び、「お前たちが兵隊さんをいかに使いこなすかに、会社の業績がかかっているんだ!」と罵声を飛ばしている社長が殿と呼ばれていたりします。


その流れに便乗するかのように、経営コンサルタント側も、「社長の軍師」とか「経営参謀」などと、自分自身にキャッチコピーを付けることが多くなって来ています。


さらに1900年代半ばくらいから、「勝ち組」とか「負け組」という言い方が一気に社会に蔓延しました。


「俺は勝ち組だ」などと自ら公言して憚らない人がたまにいますが、個人的には、ビジネス会話の中に「勝ち組」「負け組」という言葉を使う人に対しては、その知性を疑うようにしています。


経済成長がもたらした功罪とは何か


『孫子』の兵法において「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と書かれているように、戦争においては百戦百勝は目指すところです。失敗から多くを学ぼうというスタンスは許されていません。


しかし、ビジネスにおける「負け」の状態は、おそらくビジネスに取り組む者にとっては、避けることが出来ない重要なプロセスではないでしょうか。


それにも関わらず、勝ちとか負けとかのコンテキスト(文脈)の中で、ビジネスを捉える考え方の根底に潜むものは、ビジネスとは「最小の努力で最大の成果を得る」のがお徳だ、と考えている無意識に持っている信念に他なりません。


いったいいつから、最初は自分が他人より余分に持っているモノの「交換」をする、というコミュニケーションとして始まったビジネスを、戦争という例えによって語るようになってしまったのでしょうか。


原因は、資本主義経済の発達です。


交換に供されるリソース(資源)が豊富にあった時代は良かったのですが、グローバリゼーションの名のもとに市場規模が拡大し、人口が爆発的に増加し、高度経済成長を続けているうちに、地球上のリソースの有限性が見えてしまったのです。


その結果、ゼロサム・ゲームといういう言葉に象徴されるように、ビジネスが社会の限られた資源の奪い合いとして認識され、企業をその獲得機関として考えるようなビジネス観が支配的になってきたわけです。


戦争とは昔から「陣取り合戦」と言われてきましたが、ビジネスが資源の奪い合いの態様を示すようになれば、戦争とみなすことは頷けます。


国家が行う戦争においては、軍人も人民も戦争の勝利という最終目的のための重要な資源と考えられています。


だから、いかにして戦いを有利に進めるか、そのためにはどのような位置取りをすべきか、といった戦略論議が、戦争に模したビジネスで「勝利」するためにも不可欠な条件と考えるようになったのです。


戦争とは、まさに結果が全てであって、戦略や戦術の評価は、「勝ち負け」という結果によって自動的に行われます。


だから、「戦略は良かったけど、戦術が悪かった」などと言い訳してみても始まらないのです。


同様にビジネスの世界でも、資本主義の発達により、企業という組織の巨大化が起こるに伴い、大人数を統制する軍隊のように、単純で分かりやすいゲームにせざるを得なかったのでしょう。


戦争を前提とすれば、「結果だけが重要で、プロセスには意味はない。無駄は徹底的に省くべし」 当然こういう考え方になります。


そして、戦っている相手は競合他社になりますが、その視点の置き方が古臭くなっています。


これまでは、競争相手に勝つことで業績が確保できたかもしれませんが、これからの時代に目線を向ける先は、顧客であることは間違いありません。


その顧客と戦って勝つというのは、おかしな話です。


戦史物を読んで教訓にするのが好きな社長は、そろそろビジネスを戦争に模すことを卒業することを考えてはいかがでしょうか。

清水 泰志

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