コラム

 公開日: 2015-12-02  最終更新日: 2015-12-07

アップルもついに陥ったイノベーションのジレンマ ~ iPhone6s

iPhone6s/plusに感じるアップルの変化



iPhone6s/plusが9月12日に売り出されてから3ヶ月弱が経過して、私の周囲でもiPhone6s/plusを手にしている人が多くなりました。



一年前のiPhone6の発表のときは、新型iPhoneを誰よりも先に手に入れたい人たちが、アップルストアの前に1週間以上前から泊まり込みをする姿が、連日ニュースで流されていました。



しかも昨年は、ワケの分からない人々がたくさん列に紛れ込んでいて、騒動にまで発展していましたが、今年は新型iPhoneの発表を泊まり込みで心待ちにする人の姿が、話題にすらなりませんでした。



昔から、アップルの商品を熱烈に愛するエバンジェリストがたくさんいますが、どうやらアップルというブランドの神通力も、少しづつ色あせている気がします。



それも無理はありません。アップルの新商品から、サプライズに値する目新しさが、年を追うごとに失われているからです。



一昨年の新製品の発表で、iPhone5C、iOS7、指紋認証、docomoでの取り扱い開始が発表されたとき、情報量は多いけれどイノーベーティブという点ではすでに物足りなさを感じました。



昨年のiPhone6の発表のときは、画面サイズが大きいplusがラインナップされたことは、アップルの中では目新しいことでしたが、Android陣営ですでに6インチクラスの画面サイズの端末が出ていたので、イノベーティブさはほとんどありませんでした。



それでも昨年は、今までにない製品であるApple Watchが発表されましたが、今年は既にある製品のバージョンアップ版の発表しかなく、ますますイノベーティブさは失われた感があります。



ただし、Apple Watchは当初”iWatich”と名付けられると思われていましたが、フタを開けてみるとApple Watchとなっていました。



このネーミングの変更はアップルの自信の無さの現れなのでしょう。実際、Apple Watchは市場に新たなムーブメントを起こすことが出来ていません。



それと、iPhone5s/5c以降、新商品の情報が頻繁に事前にリークされるようになり、しかもその情報が正確だというところも、アップルに起きた変化の一つです。



つまり、ジョブズがこの世を去ってから、アップルの情報管理力が低下しているということになります。



ジョブズが生きていたころは、新しい製品を出すたびに、イチイチ発表を匂わせ、もったいをつけ、ジョブズ入魂のプレゼンテーションで大々的に発表し、熱が冷めないうちに即座に世界中に流通させていました。



そして何よりも、そのすべての過程をアップルは完全にコントロールしていたのです。



これらの事実からわかることは、アップルの、というよりはジョブズの頑なともいえる集中と選択路線と価値重視の戦略から、市場シェア獲得の戦略へのシフトが、確定的になったということです。



その証拠に、製品としてのサプライズは起こせなくても、iPhone6s/plusの売れ行きは絶好調なのです。


アップルに変化が生じた理由とは



昨年のiPhone6/plusから、販売方法そのものが高額な下取りプログラムや月々サポートなどで、価格を下げシェアを取りに来ています。



シェアを気にしないというジョブズ流からすれば、大転換というほかないでしょう。



ところで、なぜiPhone6s/plusは売れているのでしょうか?



特に6plusの売れ行きが良いことから考えると、画面サイズという極めてシンプルな便益に、ユーザーの多くは飛びついたことになります。



製品が複雑なウォンツ型から、シンプルなニーズ型へと変容したのでしょう。



ジョブズが、ブラックベリーをはじめとする「キーボードスマホ」を、「こんなのアカン!」と切り捨て、iPhoneを紹介した瞬間から、スマホ時代は幕を開けました。



その時点では、iPhoneを求めるユーザー・ニーズはどこにもなく、ジョブズによってはじめてウォンツが喚起されたわけです。



しかし、最初は新たなウォンツを喚起するイノベーティブな商品であったとしても、生活を「楽にする」「便利にする」という欲求にアプローチしている限り、それは時間の経過とともに「なくてはならないもの」へと変化していく、という悲しい現実があります。



そして、ニーズ対応型の製品になった途端、ユーザーはベタなスペックの違いを求めるようになります。



今回、iPhone6s/plusがかつてないほど売れているという事実が指し示すことは、イノベーター理論に照らして言えば、iPhone自体がレイト・マジョリティ向けの商品になったということです。



もともとアップルの戦略は、業界のスタンダードを狙わないことでした。



マイクロソフトのビジネスモデルがデファクト・スタンダード狙いとするなる、アップルのそれは、ブロックバスター(圧倒的な大ヒット製品)狙いだったはずです。



しかし、企業規模が大きくなったうえに、カリスマ創業者が亡きアップルは「新しい市場の創造」から「現実の市場への適応」への転換を図った、あるいは余儀なくされたと私の目には映ります。



高い利益率を守る、ブランド価値を守る、シェアを気にせずユーザーを確実に囲い込む、というジョブズの思想から、アップルの今回の発表イベントは、アップルが限りなく普通の企業に近づいた記念イベントだったのかもしれません。


アップルで起きていることは他人事ではない



製品にはプロダクト・ライフサイクルがあるので、イノベーティブな製品は最初のうちは、イノベーターやアーリー・アダプターだけが受け入れるだけです。



しかし、普及を進めるため、あるいは普及が進んだ結果、主たるユーザーが、レイト・マジョリティへと移っていくことは、よくあることです。



「次のイノベーティブなモノやコトを生み出せるかどうか」 このことこそが重要なのです。



現在のアップルについて言えば、iPad以降イノーベイティブさを売りにしたブロックバスターが出てこないという点にこそ、課題があります。



変化に対して受身にならずに、自ら変化を次々と生み出し、高付加価値を市場へ提供し続けることこそ、アップルに限らず規模の大小・国籍の別を問わず、企業経営において最も重要な戦略的課題であることを、経営者は自覚する必要があります。



「アップルほどの企業だから、そんなこと出来る」と、最初から諦めている社長もいますが、それは誤解です。



全ての会社には「本物の強み」があり「実現した未来」がある。それを生かしてビジネスを展開すると決断するところから、すべてが始まるのであり、ジョブズもその一点からスタートしています。



「自分はなぜ今の仕事をしているのか?」経営者としてあらためて自らに問い掛けてください。

清水 泰志

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