コラム

 公開日: 2015-12-02 

「仕事だから一生懸命やる」では危うい経営者の心得

弊社に相談にみえる経営者の方は、みなさん真面目という共通した特長があります。



そして、経営者として一流のプロフェッショナルになろうという志を持っている方も多いのです。



でも、経営者に求められるプロ意識が最近変わってきたと思います。



その変化を知らずに、昔ながらの意識で努力を続けていると、これからの時代その真面目さがかえって仇となる可能性があります。



そこで、これからの時代の経営者に求められるプロ意識とは何かを探るために、先ずはある有名なアスリートに注目してみましょう。



プロ野球の世界には、イチローという知らない人がいないほどの名プレーヤーがいます。



イチローは日本にいる時からたくさんの語録を残していますが、4000本安打達成後、インタビューに答えてこんなことを語っています。


(日米通算といえども、4000という数字は米国でも2人しかいないが、と聞かれて)

ヒットを打ってきた数というよりも、こういうときに思うのは、別にいい結果を生んできたことを誇れる自分では別にないんですよね。

誇れることがあるとすると、4000のヒットを打つには、僕の数字で言うと8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね。

それと常に、自分なりに向き合ってきたことの事実はあるので、誇れるとしたらそこじゃないかと思いますね。



4000本のヒットの数より、その倍以上の8000回の悔しい思いを乗り越えてきているところを誇りたいとは、何ともイチローらしい。



そして、さらにこんなことを語っています。


(1本のヒットの大切さ。ヒットを打つということを聞かれて)

プロの世界でやっている、どの世界でも同じだと思うんですけど、記憶に残っているのは、うまくいったことではなくて、うまくいかなかったことなんですよね。

その記憶が強く残るから、ストレスを感じるわけですよね。

これは、アマチュアで楽しく野球をやっていれば、いいことばっか残る。でも、楽しいだけだと思うんですよね。

これはどの世界も同じこと。皆さんも同じだと思うんですよね。

そのストレスを抱えた中で、瞬間的に喜びが訪れる、そしてはかなく消えていく、みたいな。

それがプロの世界の醍醐味でもあると思うんですけど、もっと楽しい記憶が残ったらいいのになあというふうに常に思っていますけど、きっとないんだろうなあと思います。



「プロ」の世界ではうまくいかなかった記憶ばかりの残るためにストレスが多いが、それがアマチュアとの違い。でも、ストレスがあるからこそ「瞬間的な」喜びを感じることができる、とのこと。



イチローはここで、「プロ」という言葉を使っていますが、「プロ」の仕事の条件とは具体的にどんなものでしょうか?



イチローは、4000本安打を達成した後のインタビューで、こんなことを語っています。


(年齢を重ねて、自分はどう成長し、成熟したかと聞かれて)

自分は野球選手として、人間として成熟できてるかどうか、前に進んでいるのかどうか、ってことはいまだにわからないんですよね。

そうでありたいということを信じてやり続けることしかできない。

実は、今までは自分が成長しているとか、前に進んだってことを明確に感じることはできていないんですよね。

それがこれからも続いていくんでしょうけど、どこかの時点で野球とはこういうものだ、打つこととはこういうことだ、生きるということはこういうことだとか、そういったことが少しでも見えたらいいなとは思いますけども、現時点では皆さんの前で発表できることはないです。

(満足することはあるのかと聞かれて)

僕、満足いっぱいしてますからね、今日だってものすごい満足してるし。

いや、それを重ねないと僕は駄目だと思うんですよね。満足したらそれで終わりだと言いますが、とても弱い人の発想ですよね。

僕は満足を重ねないと次が生まれないと思っているので、ものすごいちっちゃいことでも満足するし、達成感も時には感じるし、でもそれを感じることによって、次が生まれてくるんですよね。

意図的に、こんなことで満足しちゃいけない、まだまだだと言い聞かせている人はしんどいですよ、じゃあ、何を目標にしたらいいのですか?

うれしかったら喜べばいいんですよ、というのが僕の考え方ですけどね。



イチローも自分の成長とか成熟には無関心ではないが、いまどの程度の達成度合いかは分からないと言っています。



彼ほどの求道者であれば、どれほど日々未熟な自分を罵りながら生きているかと思っていましたが、何と毎日満足して生きているとのこと。



特に「満足したらそれで終わりだと言いますが、とても弱い人の発想ですよね」という一文には感銘しました。



ここにイチローらしさが明確に現れているのではないでしょうか。



実は、マリナーズへ移籍して1年目である2001年にイチローは、本物「プロ」を理解するために重要なことを語っています。


「メジャーリーグへの挑戦は、何も大きな決断ではないんです」



日本でどれだけ活躍できていたとしても、メジャーリーグへ最終的に挑戦するかどうか、夜も眠れぬほど悩んだとしても、何の不思議もないはずです。



単に、野球のレベルの違いに留まらず、文化や言葉の壁を乗り越えるということも含めて彼がメジャーリーグで成功出来るかどうかは未知数のはずだからです。



そうしたことが分かっているのに、どうしてこのように大胆なことが言えるのか。それほど自信があったのだろうか。いや、イチローの考え方はこうなのです。


すごい決断であるかどうかは、野球が職業であるか趣味であるかということです。

野球を仕事としてだけ捉えていれば、今の自分に満足するでしょうから、あえてメジャーリーグに移籍してリスクを背負うのは大きな決断でしょう。

でも、僕にとって野球はまだ趣味の部分が非常に大きいので、何も大きな決断ではないんです。



「一番好きなことは、仕事にするな」



よく聞くアドバイスです。



仕事となると自分の好き嫌いだけで決めることはできない。意にそぐわなくてもやらなければならない時もある。



そういうことが続くと、だんだん楽しくなくなる。だから、「一番好きなことは、仕事にするな」と人は言います。



仕事だから厳しいのは当然、でもプロである以上手を抜かず精一杯やり抜く。



でも、その代わり休日は趣味に没頭する。趣味は好きだからこそのめり込める。仕事と趣味は違う。こう考えている「プロ」は今でも多いはずです。



一方、イチローは野球は「仕事」だけれども「趣味」として楽しんでいる。そして「趣味」の部分が大きいからこそ、どんどん追求したくなる。




少なくとも『100%仕事』の感覚になってしまったら、もう自分を磨こうというふうにはなっていきません。



これが、イチローの結論です。



「プロ」の定義については、人それぞれ諸説あろと思います。世の中の成功者と言われている人々もいろいろな表現で「プロ論」を語っています。


プロに絶対的に必要なことは、自分の信念というか自分の考えをどんな状況でもはっきり述べられること。2つ目は嫌なことから逃げないこと。3つ目は健康、これはもう絶対です。(永守重信 日本電産社長)

基本的にプロというのは、ミスをしてはいけないんですよ。プロは自分のことを、人間だなんて思っちゃいけないんです。百回やっても、千回やっても絶対俺はちゃんとできる、という強い気持ちを持って臨んで、初めてプロと言えるんです。(王貞治 福岡ソフトバンクホークス球団会長)

素質を持たない努力だけの人では駄目です。本来、その才能を持った人が競い、磨き上げていくのが、プロの世界なんですよ。いかに真剣に仕事に取り組むかで勝負が決まるし、その真剣にとりくむ姿勢をどれだけ持続したかっていう、そこがプロとアマの違いでしょうね。(藤沢秀行 囲碁名誉棋聖)

優勝を目指して戦っていることはもちろん、プロは高度な技術をお客さんに見てもらわなければならない。どう考えてもプロの世界ではミスは許されないし、厳しくて当たり前なんです。(野村克也 東北楽天ゴールデンイーグルス名誉監督)



どれが正解でどれが誤答ということではなく、これらの「プロ論」には一様に悲壮感が漂っています。



私たちは、自分の仕事を選ぶとき(それは就職、転職、起業、後継に関わらず)真剣であればあるほど「プロ」になることを志します。



しかし、真に卓越した本物の「プロ」になるためには、逆説的ですが「100%仕事感覚になってはいけない」というイチロー的な考え方は、これからの時代の仕事そして経営に大きなヒントを与えています。



そのためには、イチローにとっての野球と同じくらい自分が取り組めることを見定めることを意味します。でも、実はそのような本物のミッションを持てないことに多くの人の悩みどころがあるのですが、それは探し方次第で見つかるのです。



動的安定経営の実現にあたっては、経営者の「好き」を探り当てることが避けて通れないのです。

清水 泰志

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