コラム

 公開日: 2016-07-01 

企業不正の要因を考える ~プッシャーに善悪はあるか~

東芝の有価証券報告書が、4か月遅れた9月7日に提出されました。新聞報道に
よると、過去の決算の利益の減額は総額2248億円にのぼるそうです。
不適切会計の発覚後、金額の大きさに加えて、いわゆるガバナンス優良会社と
言われてきた会社の不祥事ということで非常に大きな注目を集めています。
その東芝の不適切会計の要因の一つに、「チャレンジ」と称する業績プレッシャー
があったということが第三社委員会報告書でも指摘されています。
また、ビズサプリのメルマガvol.2でもご紹介しました「不正のトライアングル」
で、不正の要因の1つに「プレッシャー」があるとされています。
今回はこのプレッシャーについて少し考えてみたいと思います。

■ 1.プレッシャーは悪か


業績プレッシャーは悪なのでしょうか。

多くの方が感じているように、企業が一定の利益目標を掲げ、それを達成する
ために一丸になって取り組むこと自体、珍しい話ではないでしょう。
クライアントの方からも、「いやぁ、あれぐらいのプレッシャーはかけるよね。」
とか「うちも業績が悪くなったら、これぐらいはあるんじゃないかな。」
という声をお聞きしました。
また、利益目標を一見達成不可能な目標とすることで、画期的なイノベーション
が生まれる原動力となっていくこともよくある話です。稲盛和夫氏は、著書
「生き方」の中で、「いっけん無理だと思える高い目標にひるまず情熱を傾け、
ひたむきな努力研鑽を惜しまない。そのことが私たちの能力を、自分自身でも
びっくりするほど伸長させる。あるいは眠っていた大きな潜在能力を開花させる。」
といっています。いわゆる「一皮むけたな。」ということです。
そして、経営者にとって業績プレッシャーは重いものです。「なんだかんだいっても、
会社とその最高経営責任者は、”業績”というただ一つの基準によって評価されて
しまう」(プロフェッショナルマネージャー ハロルドジェーン著)ものです。
業績プレッシャー自体は悪ではないでしょう。


■ 2.プレッシャーに良し悪しはあるか

では、「いいプレッシャー」と不適切会計に手を染めるような「悪いプレッシャー」
に違いは何なのでしょうか。

それは、「利益目標を達成したプロセスや手段について関心が払われているか」
ではないでしょうか。

例えば不適切会計により利益が達成された部門に業績連動のボーナスが加算され、
適切な会計を行っていて利益未達成だと「激しく叱責」されることがあれば、
当然ながら不適切な会計でもなんでも行って業績達成を目指すでしょう。
「結果(業績)さえよければ、その過程はなんでもOK」ということになると、
不適切会計を行う業務自体が通常業務と化し、善悪の判断も鈍ります。
業績は、様々な事業の努力やプロセス改善の結果です。本来は、その達成プロセス
(how)に上席者は関心を持つべきと考えます。

結果だけを出す、つまり業績を達成するために、優秀な従業員の皆さんが
知恵を駆使して不適切な会計のスキームを考え、取引先に請求書の改ざんや、
在庫の引き受けをお願いし、会計監査人向けに社内の資料を改ざんした説明資料を
作成している時間は、なんとももったいない時間です。

ちなみに、いくらプロセスを重視しても上席者がコンプライアンス違反を奨励する
ような行動をとった場合、それはもはやプレッシャーの良し悪しのレベルの問題
でないことは一言加えておきます。


■ 3.過度な恐怖心は生産性を下げる
あるでしょう。「ストレスが高くなるほどパフォーマンスはよくなるが、ある一線を
超えると、パフォーマンス自体が低下する、つまりどこかに最適ストレスがある。」
という法則が心理学の世界ではあるそうです。

例えば、「会社の存亡の危機だ。」とか「この目標が達成できないと事業をやめるぞ。」
といったプレッシャーを毎月与え続けるといったことがこれにあたるのでは
ないでしょうか。このような過剰なプレッシャーのもとだと思考や行動が硬直
してしまうそうです。過剰にプレッシャーを与え続け、危機感をあおるのは逆効果
なようです。

では、最適プレッシャーはどこにあるのか。もちろん簡単な回答はありませんし、
個人差ももちろんあるでしょう。経営層だけでなく、部課長も含めてリーダーとなる
人は、それぞれの立場で自分が率いるメンバーが置かれている現状をよく観察し、
知っておくことを心がけ、メンバーの思いに敏感になっておくことが必要でしょう。


■ 4.風土と仕組みの両方が必要

いいプレッシャーを最適な程度にかけるためにはどうすればいいのでしょうか。
これには、「良好な組織風土」と「ガバナンス、内部統制」といった仕組みの両輪が
必要です。

「良好な組織風土」とは何か、それを築くにはどうしたらいいのか、
これは今回のメルマガではとても書ききれないため別の機会にしたいと思いますが、
一言でいえば「会社が明るいこと」に尽きると思います。
会社が明るくなるために最近は多くの会社で様々な取組が行われています。
例えば、オフサイトミーティングや、家族を交えての職場懇親会、
コーチングやメンター制度の導入、職場行事の復活等々があります。どの施策も
コミュニケーションを重視し、相互理解を進めて職場を前向きで明るいものにしていく
ものです。このような取組を「無駄」と冷めて考え、ひたすら「業績数値」で
人を見るような雰囲気となっていると危険信号かもしれません。

また、「ガバナンス、内部統制」といった仕組みのポイントとしては、本社機能
の設計(権限と評価)をどのように行うかにあるかと思います。

例えば、コーポレート経理の本来の業務は「経営判断や投資家に資する適切な
財務報告をタイムリーに作成することであること」のはずです。東芝の委員会報告書
では、コーポレート経理の役割は「連結作業をすることだけにあった」と指摘
されていますが、適切な財務報告を作成するためには、事業の経理部門の
「モニタリング機能」を持つよう設計されるべきです。
そしてその部署の評価は、「経営判断や投資家に資する適切な財務報告を
タイムリーに作成できたかどうか」で判断をしていくことが必要です。
もし、経営者不正であれば、監査役や監査委員会と連携をしていくことも必要です。

貴社には、「適切な財務報告」を行うための機関や部署がありますでしょうか。
その機関や部署は、たとえ経営者不正であっても指摘できるような仕組になって
いるでしょうか。

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