コラム

 公開日: 2016-07-01 

学ぶということ 知識詰め込み時代の日本教育を受けた公認会計士のつぶやき

先日、東京大学が推薦入試(AO入試)を始めるという報道がありました。東京大学に続き、京都大学も新規の入試スタイルを始めるとのことで、これまでAO入試に消極的であったといわれるいわゆる旧7帝大でも今後AO入試の流れが一気に加速するのかもしれません。

英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が発表する「世界の大学ランキング」で日本の大学の順位が大きく順位を下げたということが話題になりました。東京大は43位(昨年23位)と大きく順位を落とし、26位のシンガポール国立大(同25位)にアジア首位の座を明け渡し、日本勢は上位200校に入った数も、昨年の5校から、東京大学と88位(同59位)にランクされた京都大学の2校になってしまい、昨年200位以内に入っていた東京工業大、大阪大、東北大はランク外に姿を消してしまったとのことです。

受験シーズン目前の今日は、「教育」「学ぶ」ということについてについて少し考えてみたいと思います。

私自身は「第2次ベビーブーム世代」です。私が通っていた公立中学校は11クラス、公立高校は14クラス、1クラス45名。いつも競争だったいわゆる「受験戦争世代」「知識詰め込み」の世代です。

よく言われることですが、日本史は縄文時代から始まり江戸時代が終わるころに時間切れ、近現代史はほとんど学んだ記憶がありません。倫理の授業は面白いと思いながらも、受験科目ではないのので、数学の内職をしながら片耳で聞いていました。

そして、せっかく入った大学も「大学は遊ぶところ」といった雰囲気に流され、授業にはほどんど出ていませんでした。また、たまに授業に出てたとしても、数百人入る大講堂の中で、一方的に
行われる講義に全く興味が沸きませんでした。
それでも単位は取得できてしまい、そして経済学の学位を取得して卒業してしまいました。そして若い頃はそれで何も困りませんでした。

ところがです。社会人になり、経験を積めば積むほど自分の知識の薄さ、教養の無さに愕然とすることが多くなりました。
日本人らしさとは何か、なぜそうなのか。日本の社会や経済は、なぜ現在のようになっているのか。日本文化のすばらしさとは何か。
自分の言葉で考えてきちんと話をすることができないのです。

「何かを始めるに遅すぎることはない」と歴史、倫理、宗教、経済学の本を少しずつでも読み続ける毎日です。

もちろん同世代の方でもご自身で気付き、きちんとした自分の言葉で考える力、教養を身につけている方もいらっしゃるでしょうから、教育のせいだけにはできないのですが、少なくとも学校の勉強だけでは、今世界で起きている様々な状況に興味を持ち、自分の言葉で考える必要性を感じることはできませんでした。

むしろ、思考をストップさせて、物事をわかりやすく単純化し、「回答」を器用に導き出す訓練をされて来た気がします。このような頭の構造となっているので、
毎日起きる世界中の様々な出来事に対して「回答」が見つからず、「このままでいくと世界はどうなってしまうのだろう。」という漠然とした不安ばかり覚えてしまう気がします。

恐らく私のように漠然とした不安を抱える人は多いのでしょう。最近のベストセラーには「もう一度よむ山川世界史」「もう一度読む山川日本史」といった教科書の読み直しの
本を始め、歴史、教養、数学、経済学といった学びなおしの本が並んでいます。



これまでの日本の教育は、「いわゆる名門の高校では、学力を高くして名門大学の入学試験に合格できるような教育しかしていないし、名門大学においては、
意図的に社会に出てからエリートとなるような教育などせず人文・社会・自然科学の学問を教えるにすぎない」と言われてきました。(「日本のエリート」橘木俊詔著)ただ、社会に出てからは学問に加えて、コミュニケーション能力、判断力、リーダーシップ等々の能力も学問以上に必要となります。これまでそのような分野での学校教育はあまり行われてきませんでした。

しかし、いわゆる名門大学がAO入試という形で、暗記で得られる知識以外の能力を重視した入試を実施することで、学校教育や塾でも討論中心の授業や、
コミュニケーションを必要とするようなチーム学習等に力を入れるところが出てくることになると思います。

先日見たテレビでは、ディベートを中心とした授業を取り入れた塾の定員がいっぱいで塾側もビジネスチャンスと捉えているとか。また、海外の大学に送るための塾も盛況で、英語だけではなく、ディベート力も鍛えるそうです。海外の大学に進学するための学習塾の高校生のクラスのある日のディベートテーマは、「人工知能全盛時代に向けてあなたは?」
これまでの詰めこみの授業、回答への最短距離を見つける授業とは明らかに目指すものが変わってきているようです。

日本の大学も、名門大学が入試で求める能力が変わることで、そこを目指す教育が変わっていく、つまり、「評価基準が変われば、行動様式が変わる。
、そのような形で教育全体の「質」が上がるのであればそれは望ましいことかと思います。



一方で、「一生懸命何かを勉強して将来何かを為したい」というチャレンジ精神も失われてしまっているという話もあります。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査結果によると、管理職を目指したいと考える男性社員は43%、女性に関してはなんと13%弱という結果が出ています。
(女性管理職の育成・登用に関する調査 2015年4月16日)

このレポート自体は、上記割合の男女差に注目して、家庭との両立等が理由で女性が管理職を「あきらめざるを得ない」状況を分析していますが、男性社員側も過半数が
「現状のまま、管理職にならなくていい。」「(無理して頑張らなくても)ほどほどでいい。」と回答している点も注目に値するのではないでしょうか。

日本が成熟社会になっているため、何を幸福と捉えるかの価値観が多様になっているということが背景にあるのでしょうか。
それ自体否定すべきことではありませんが、そもそも、努力をして勉強をすること、勉強をして、きちんとした知識と教養をもった独立した一人の人間となることは、
正しく生きていくうえで大切なことです。このことを教育で伝えていく必要があるように思います。

少し古い引用ですが、福沢諭吉が「学問のすゝめ」でこのようにいっています。

「独立の気力がない者は、国家を思うことも切実ではない。独立とは自分で自分の身を支配し、他人にたよる心がないことである。自分で物事のよしあしを
判断して誤らずの行動するものは、他人の知恵にたよらず独立している。(中略)独立の気力がない者は、かならず人にたよる。人にたよるものは、かならず
人を恐れる。人を恐れるものは必ず人にへつらう。つねに人を恐れてへつらう者は、しだいに面の側が鉄のように厚くなり、恥ずべき事を恥じず、論ずべき
ことを論ぜず、人さえみればただ腰をかがめるばかりである。」

背筋がピンと伸びて、学ぶことの大切さを知ることができる言葉です。

一方で、貧富の差は広がっており子供の貧困問題は深刻です。教育を受けたくても受けるチャンスが与えられず、親世代の格差を子供が引き継ぐことになっている
ことも社会問題化しています。

多様性を認めつつ、頑張っている人が報われる社会、頑張ろうと思う人にはチャンスが与えられる社会にしないといけないわけです。

例えば、一定以上の所得がある人は、将来の日本を背負ってたつ子供のための基金に必ず寄付をするという形で財源を確保していくというのはどうでしょう。

メラネシアに「クラ交換」という儀礼的なカヌーの贈与があるそうです。この贈与では「気前のよさ」を誇示することが最も大切だそうです。
カヌーを買う方は、なるべく「高い」価格を提示し、カヌーを売る方はなるべく「安い」価格を提示する。経済学と真逆の減少が起きるそうです。
これは、評価基準が「気前のよさ」であるがゆえの行動様式となるわけです。

今は、報酬ランキング、利益ランキングが公表され、「報酬の高さ」「利益の多さ」が成功の基準となっていますが、所得や利益の横に例えば、「寄付金額ランキング」
を合わせて同時に発表し、大々的に評価される空気があれば、子供の貧困対策財源も確保できると思うのですが、そう単純にはいかないのでしょう。

ところで、多様性を認めるという点で気になる報道がありました。

先日テレビで、「モンスターペアレンツ」についての報道を目にしたのですが、学芸会の桃太郎で、「うちの子が主役(桃太郎)でなければ、学芸会に出席させない」
という親がいたため、全員が桃太郎役とした劇を行ったというものでした。笑い話にしか思えないのですが、おそらく学校も親も大真面目なところが怖いところです。

世の中は、全員が主役では成り立ちません。主役がいて、それを支える多くの人がいてそしてそれぞれの役目をきちんと果たすことが必要になります。
たとえ主役でなくても各々の役目を果たすことで誇りを持つことができ、それがやりがい生きがいとなるはずです。

そして主役で輝くひともいれば、サポート役として輝く人もいます。
さまざまな人がお互いの強みを知り、活かし、協力し、思いやることができるから人間は強いはずです。
そのような生きる上で大事なことを、幼い頃の集団生活から学ぶはずです。
ところが「主役以外は価値がない」ような事を親がいい、そのわがままが通ってきた子供たちが大きくなって社会に出たとき、誰が縁の下の力持ちとなって社会全体を支えるのでしょうか。

「俺の目から見ると、あんたは他の十万もの男の子と別に変わりない男なのさ。あんたの目から見ると、おれは十万ものキツネと同じなんだ。だけど仲良くなると
この世でたった一人の人になるし、おれはあんたにとってかけがえのないものになるんだよ。」(「星の王子さま」サン=テグジュペリ著))

人と人の関係(絆)を守る責任と勇気、その絆を大切にする人間らしさ、時には仲間を全力で支えることでことを為しえる達成感は、生きる力になると思います。
学校もそのような信念を持ち、モンスターペアレンツへ対峙していく強さも必要なのでしょう。ただ、それを学校だけに任せればいいというわけではありません。
他の親も協力しないと、大切な子供に生きる力を身に付けさせることができなくなってしまうかもしれません。

多様性とわがまま、大人の世界でもありますよね。お互いの個性を認め尊重することと、自分勝手な理由で我を通すこと、この違いをきちんと見極めて、判断をしないと「言ったもの勝ち」といった
変な風土になりますが、「声の大きいもの勝ち、言ったもの勝ち」結構、蔓延していたりしませんでしょうか。

「日本にはどうして宗教が根付かないの?」「日本文化の特徴は?」「日本人の誇りって何?」日本人は、そのような文化的、歴史的、宗教的な背景に弱いと言われてきました。
これまで、私たちは、「日本を考えること=日本を好きになること(愛国心)」は、なんとなく、戦前の軍国主義に繋がるとのイメージで封印されてきたように思います。ただ、ごく自然に考えると自分の国を知り、好きになること自体に何も悪いことはないように思います。

今年は戦後70年。秋の国会で安保法制をめぐるデモや報道を通じて、日本人が日本人であること、国を守るということはどうあるべきかということ、
憲法はどう解釈すればいいかということを考えるいい機会だったかと思います。

また、最近のパリの同時多発テロ等を見ると、武力行使をしない日本が果たすべき役割に何があるのか、民族と宗教、そして国家という難題にどう向き合っていけばいいのかを考えざるをえなくなっています。

もちろん正解はありません。それでもマスコミのセンセーショナルでキャッチーなコピーだけで物事を単純化して理解するのではなく、答えがない問題や複雑な問題
を投げ出さず、きちんと考え自らの考えを整理しようとすること、忙しい毎日の中で本当に難しいことですが少しずつ実践をし、次の世代に伝えていくことが学ぶことの基本なのかもしれません。

この記事を書いたプロ

株式会社エスプラス [ホームページ]

公認会計士 辻さちえ

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