コラム

 公開日: 2016-07-01 

粉飾決算に対する会計監査 公認会計士が思うこと

東芝の粉飾決算が明るみに出て約1年になります。

先日、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授で公認会計士の浜田康先生の著書「粉飾決算~問われる監査と内部統制~」を読みました。

長銀、三洋電機、東芝の粉飾決算について記載されていました。

特に、東芝の件については監査経験者としての立場から、どのような監査を実施していれば何がつかめたのかといった分析をされていました。とても理論的で詳細で、非常に感銘を受けました。詳細は、著書を見ていただくということで、感じたことを書きたいと思います。

東芝の会計監査が「実際に」どのように行われていたのか、なかなか本当のことはわかりません。ただ、東芝の件に限らず、大きな不正を見逃す、いわゆる「監査の失敗」をした場合に「こういう監査をすればよかった」というような振返りや、事例研修は大手監査法人を始め、会計士協会でも行われています。

ただ、それはもっぱら「不正を発見する監査技術(テクニック)」に着目されているように思います。もちろん監査技術は必須です。東芝の案件についても、ロスコンやバイセル取引をどのように監査するか、知らなければ何も始まりません。

しかし、私はこの監査技術が、大手監査法人に「ない」とはとても思えないのです。数千人もの会計士がいる組織です。長年の経験で培った監査技術の積み重ねがないはずがありません。「何」をどのように監査すればいいかは、100%わかっているはずです。

このような中、すでに知っている監査技術を復習して、「あとはねじり鉢巻きで頑張れ」といっても結局同じことが繰り返される気がします。

問題は、そのテクニックを使って「ちゃんと監査ができなかったのはなぜなのか」、そのできない理由の徹底的な検証が不足しているような気がします。

・リソースが足りない

・クライアントとうまくやっていかないといけない(クライアントを失うわけにいかない)

・いい監査をしても評価されない

・そもそもいい監査とは何か、誰にとっていい監査か。

等々

いろいろ議論すべき点が挙がると思います。この理由を考え、その理由を取り除くためには根本的に何をすべきか考えていく必要があると思うのです。

本当にリソースが足りないなら、どのようにそれを解消していくのか。欧米と比較して報酬が安く、そのためにリソースが確保できないのであれば、クライアントを説得をしていく必要があります。説得の過程で喧々諤々の議論をすべきです。「重箱の隅をつつくような監査して、小さなミスを見つけて鬼の首とったみたいな監査して」みたいな批判がきちんと受け止めた上で、自分たちの監査の技術・手法を説明すべきです。

決算発表までの時間が短く、とてもまともな監査ができないのであれば、どのぐらいの時間があればまともな監査ができるのか、議論しないといけません。

ベテラン(監査責任者)が現場に関与できないのはなぜか。それをどうやって解消していくのか。こういう事件があると、上位者の関与が極端に少なかったことが指摘されるわけですが、監査責任者の関与はどのようにあるべきで、その関与をしていくために、理論上、監査責任者は何名必要なのか。今、何人足りないのか。その人数と質はどんな計画で確保していくのか。どのような人が監査責任者としていい評価を得られるのか。

クライアントから報酬をいただきながら、厳格監査をするという制度設計に限界はないのか。そもそも、監査業務での監査法人間で差別化の必要があるのか。むしろ業界全体でレベルアップすべきものではないのか。

財務報告に対して誠実性がないビッグネームの会社(例えば、今回の東芝)を業界全体でどう取り扱っていくべきなのか。特定の監査法人が厳しくしたとしても、他の監査法人が受注してしまっては元も子もないわけですから。

監査と監査制度に議論すべき論点は山盛りです。

監査の失敗案件については、守秘義務もあり、その本当の理由が表に出てくるものはありません。ただ、上記のような、議論には、守秘義務とは関係がないものも多くあるように思います。こういう議論が会計士業界で盛り上がればいいような気がします。

この記事を書いたプロ

株式会社エスプラス [ホームページ]

公認会計士 辻さちえ

東京都中央区八丁堀1-4-5 川村八重洲ビル5F 平成通り沿い、鉄鋼会館斜め向かいの白いビル [地図]
TEL:03-4405-9225

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
株式会社エスプラス、代表取締役、辻さちえさん

不正対応でで大切なことは予防! 健全な企業を維持するには専門的ノウハウが必要です。(1/3)

「企業の多くは、不正が起きてから内部統制や内部監査を見直すことがほとんどです。しかし、私の長年の経験から申し上げますと、不正が起こってからではなく、起こる前から予防することが、優良企業を維持する重要なポイントとなります」と、笑顔で優しく教...

辻さちえプロに相談してみよう!

朝日新聞 マイベストプロ

長年の大手監査法人経験を生かし、管理部門の問題を徹底解決!

会社名 : 株式会社エスプラス
住所 : 東京都中央区八丁堀1-4-5 川村八重洲ビル5F [地図]
平成通り沿い、鉄鋼会館斜め向かいの白いビル
TEL : 03-4405-9225

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

03-4405-9225

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

辻さちえ(つじさちえ)

株式会社エスプラス

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
本社と現場の距離 ~倫理&利益の発想~

「事件は現場で起こっている」ちょっと古いですが「踊る大捜査線」のセリフがありますが、本社と現場の距離は...

[ 組織運営 ]

COSO&ACFE 不正リスク管理ガイドを公表

10月もあっという間に後半に入りました。街はいつから始まったのかハロウィン一色です。これが終わるとクリスマス...

[ 不正・不祥事 ]

監視カメラと心の監視カメラ

四国のお遍路さんがブームになり、よくテレビも放映されるようになりました。そもそも「お遍路」は、弘法大師(空...

[ 不正・不祥事 ]

ドーピングとオリンピック ~組織ぐるみ不正の難しさ~

リオデジャネイロオリンピックまであと2日です。ジカ熱、テロ、治安悪化、不況等々多くの不安材料がある中、日本選...

[ 不正・不祥事 ]

女性会計士を増やすためには ~女性の公認会計士協会会長誕生の記事から~

7月20日の日経の朝刊に今度、公認公認会計士協会史上初の女性会長、関根愛子さんの記事が載っていました。女性会計...

[ ダイバーシティ ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ