コラム

 公開日: 2016-07-01 

不正会計事例研究~東芝調査報告書②~

東芝の不適切会計の第2弾です。その後詳細版も公表され、報道を見る限り整理の仕方としては、

・「チャレンジ」と称した無理な利益目標に対するプレッシャー

・上司にものが言えない組織風土

・適切な会計に対する意識の欠如

が背景にあったものということになっているようですね。

今回から、上記の要因についてそれぞれ考えていきたいと思います。

なお、下記の記述は、東芝の個別の事情・事実について述べているわけではなく、東芝の委員会報告を受けて一般的な考察をしているものです。この点、ご理解・ご了承ください。



■「チャレンジ」と称した無理な利益目標に対するプレッシャー

多くの方が指摘している通り、企業が利益を目標に掲げ、それを達成するために必死に取組を行うこと自体は何ら問題ではないでしょう。そしてその目標が一見達成不可能な目標とすることで、現実の継続でなく、イノベーションが生まれる原動力となっていくということにもなりうるというものです。経営の神様と言われる稲盛和夫氏は著書「生き方」の中で、IBMからの始めての大量発注に対応したことを回想する中で、「いっけん無理だと思える高い目標にひるまず情熱を傾け、ひたむきな努力研鑽を惜しまない。そのことが私たちの能力を、自分自身もびっくりするほど伸長させる。あるいは眠っていた大きな潜在能力を開花させる。」といっています。

では、今回の件は何が問題だったのでしょうか。つまり目標達成のために「不適切な会計処理」という手段を選ぶことにならないよう、この件から何を学び、何に留意すればいいのでしょうか。

この点、第三者委員会報告書では特に突っ込んだ記載はありませんが、一見難しい利益目標を「達成」したプロセスや手段について、特に説明も求められず、「なんとなくよろしくないことが行われていることはわかっているけれど、業績目標は達成している。」というような形になっていなかったのでしょうか。

例えば不適切な会計により利益が達成された部門に、業績連動のボーナスが支給され、誠実な会計を行っている部門が利益未達成で「激しく叱責」をされれば、各事業の経営者はどういう行動をとるでしょうか。当然ながら、不適切な会計でもなんでも行って、業績維持に奔走するでしょう。そして、次第に不適切な会計の業務処理自体が日常業務化し、善悪の判断もにぶってきます。「危機や破局は一夜にして生じるものではありません。それは問題が長い間隠ぺいされ、症状が悪化するままに放置されてきた結果」(プロフェッショナルマネージャー ハロルドジェーン著 プレジデント社)となるのです。

経営者にとっての業績プレッシャーは非常に重いものです。「なんだかんだいっても、会社とその最高経営者は、そして経営チームの全員は、“業績”というただひとつの基準によって評価されてしまう。」(プロフェッショナルマネージャー ハロルドジェーン著 プレジデント社)のです。業績プレシャーはビジネスである以上当たり前。ただ、その結果がどのような素晴らしいイノベーションで達成されたか、そのプロセスについて注意を払うことが必要です。不適切な方法や怪しい方法での利益達成が行われていれば、原理原則を貫き厳しく対処すべきです。

不適切な会計行うために、取引先に請求書の改ざんや在庫の引き受けをお願いし、社内資料を改ざんし、会計監査人に実態とかけ離れた嘘の説明資料を作るための時間は、本当にもったいない無駄な時間です。東芝の経営者の方が、後日「今回の件で従業員の信頼を失った」(日本経済新聞 7月30日 朝刊)とありましたが、そのような非生産的な業務を、優秀な従業員が行っていたのは会社にとっても大きな損失です。

そして、最近は業績連動型のボーナスが当たり前になっていますが、業績連動が占める部分を多くするのであれば、その業績を示す数値の「質」が担保されるようなチェック体制を行い、適切な数値で物事を判断するべきです。大部分の人は人事評価の評価軸にしたがって行動を変えます。マネジメントはそれを肝に銘じて、上がってくる情報、数値に注意を払うべきと考えます。

「帳簿の世界史」(文藝春秋 ジェイコブ・ソール著 村井章子訳)でも指摘されていますが、歴史上も君主にとって冷徹までに真実を示す会計は、例えば戦争を行う場合、莫大なコストを明らかにし、君主にとって脅威となります。そうると、君主は厳正な帳簿を遠ざけ、その事実を「見ない」という選択をします。こうなると、帳簿をつける人々は、君主の意向をくみ取り君主が望む会計を作ります。つまり粉飾決算です。た経営陣や上司の意をくみ取り、不都合な事実を「知りながら」隠して望まれる数値を作る、今回の構造と何も変わりません。

それでは、適切な会計を貫くためにはどのようにすればいいか。先ほど、残念ながら人は人事評価の基準に従って行動をする、ということを書きました。であれば適切な会計をことで評価される部門があるべきです。これはある程度の規模の企業であれば、コーポレート部門等の管理部門が背負っているはずです。いわゆる本社機能部門には売上目標、業績目標は課されていないはずです。これらの部門は、会社のマネジメントが正しく判断できるような適切な情報をマネジメントに上げることが責務になるはずです。

例えば本社経理部は、「適切な会計数値をタイムリーの集計し、マネジメント、投資家等の利害関係者の意思決定に資する情報をあげる」という目標に対してどうだったかを評価されることになるはずです。

今回、東芝の第三者委員会報告書においては、コーポレート部門における内部統制について次のように記載されています。

「財務部は、決算処理に関する関与としては、主として、各社内カンパニーが作成した決算をとりまとめて連結決算のための対応を行うのみであり、各社内カンパニーにおける会計処理が不適切であるか否かをチェックする役割を果たしていなかった。 逆に財務部は、社長月例における「チャレンジ」の原案を作成するなど役割を担っており、当期利益至上主義の下で、各社内カンパニーに対して目標達成のプレッシャーを与える過程に関与していたのである。また、一部の案件においては、財務部の担当者自身が不適切な会計処理が行われている事実を知りながら、何ら指摘・是正するなどの対応をとっていない事実も見られた。さらに、財務部の担当執行役であるCFO自身が不適切な会計処理に関与している場合には、財務部による内部統制は全く機能していなかった。」

コーポレート部門の目標、目標管理、人事評価をどのように実施していくべきか、コーポレート部門の監査をどのように実施していくべきか、難しい課題です。

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