コラム

 公開日: 2016-07-01 

不正会計の歴史は繰り返す  「帳簿の世界史」で公認会計士・公認不正検査士が感じたこと

「帳簿の世界史」(文藝春秋 ジェイコブ・ソール著 村井章子訳)という書籍をご存じでしょうか。

「帳簿の世界史」、新聞の書評でも紹介されたこともありご存じの方も多いかもしれません。文字通り古代ローマから2008年の金融危機、歴史を帳簿という切り口書かれた本です。たまたま書店で目にして、本の帯の「未来の資産価値を現在に置き換える帳簿が生まれたとき、世界が変わった」ということばに「世界が変わるとは何ぞや…」と手に取りました。歴史と帳簿という切り口もかなりニッチで興味をそそられました。

特におもしろかったのは、フランス革命に帳簿が深く関わっていたということです。ベールに包まれていたフランスの王家の財政が「開示」され、その桁違いの無駄遣いぶりを市民が知ることとなり、それがきかっけで「国王は信頼ならない」ということになるのです。
ちなみに、王家の財政を暴露した「会計報告」は、当時ベストセラーだったそうです。今まで世界史で学んだナポレオンの印象が強いフランス革命に人間臭さとおかしみを感じてしまいました。

この本を読んで感じることは、「歴史は繰り返す」ということです。人は古代ローマの時代から、会計の必要性とやり方を知ってはいました。
ただ、都合が悪くなると帳簿をつけるのをやめてしまいます。このサイクルを何度も何度も繰り返しています。

「繁栄する社会では、よい会計慣行や商業文化が根付き、それを支える健全な倫理観や文化の枠組みが存在し、会計を無視したり操作したり怠ったりしがちな人間の性癖をうまく抑えて」います。よい会計ができることで、「君主は自国の財政状態を常時正しく把握することができ、将来の困難に備えることができる」ようになります。

ただ、ひとたび非常事態(多くの場合戦争)となると、会計の冷徹までの透明性は戦争にかかる莫大なコストを明らかにし、とたんに君主にとって脅威となります。
君主は厳正な帳簿を遠ざけ、その事実を「見ない」という選択をします。
本の中では、この様を「君主は結局、自分が責任を取るべき相手は神であって財務長官ではないと開き直る」と書いています。

こうなると、帳簿をつける人々は、君主の意向をくみ取り君主が望む会計を作ります。そう、粉飾決算をするわけです。
たまに気概のある人が「王様、望ましくない結果だったとしてもこれが真実です。」といえば、処刑されるか左遷されてしまいます。

経営陣や上司の意をくみ取り、不都合な事実を「知りながら」隠して、望まれる数値を作る、この構図は今もなお続く不適切決算の構造となんら変わっていないというわけです。

2500年前のギリシャのヒポクラテスが、「知りながら害をなすな」と言っていますが、いつの時代も職業倫理を守り抜くのは本当に難しいものです。

よい会計が明瞭にかつ冷徹に真実を示すことの裏返しとして、真実を「見せたくない」「見ないことにしたい」場合、いつの時代も帳簿は歪められてきました。
これを防ぐ役割をするのが監査であり、会計はいつも監査とセットで発展、衰退をしてきたようです。

監査が本格的に歴史の表舞台に出てくるのは、1850年代のアメリカになります。この時代、巨大な資本を調達した鉄道会社の決算を監督する目的で、「しかるべき専門教育を受け、職業倫理を備え、世間の信頼が篤い」監査の専門家に白羽の矢がたちました。

決算書の公開を拒み続ける巨大企業を相手にしかるべき権威を持つため、監査の専門家がチームを組むことになり大規模会計事務所が誕生していきます。

なお、イギリスの政治家で株式仲買人のサー・ウィリアム・キルターが1849年に議会で、粉飾決算を見抜けない監査への苦言として「監査は、実際には数値に基づく客観的な判断ではなく、個人的な判断に従って行われている。」と証言したそうです。監査の品質に向けた課題もこれまたあまり変わっていないのかもしれません。

ちなみに、上場会社はJ-SOXにおいて、帳簿が適切に作られる仕組みができているか自らチェックをする、ということが義務付けられています。
「そもそも帳簿は歪められやすい」ということを念頭に置き、どこに帳簿を歪める要素があるのか(財務報告リスク)、それをどうやって克服しているか(内部統制)そういう観点で毎年真剣に評価をしてみるということ、実践できているでしょうか。

「帳簿の世界史」の著者は、エンロン事件、金融危機を経た現在の会計について、「20世紀の会計がやや非人間的になっている」といっています。
実態経済の何十倍もの規模となるお化け金融経済の「実態」を示す会計と監査がどのようなものであるか答えはなく、複雑化しすぎた会計や監査は“特殊な人だけが操れるもの”といった認識となってしまっているように感じます。ただ、この状況に諦めてしまっては、歴史を繰り返すこととなってしまいます。

企業再生で手腕を発揮された冨山和彦氏は、著書の中で「簿記・会計は経営における最高のアート」と書いていますが、会計とは活動の実態を数値にという言葉で表現するもので、数値の後ろには様々な人の決断日々活動がいるものです。

会計の示しているメッセージを、それぞれ自身の言葉に置き換え、会計数値のもつストーリーをそれぞれの立場で語ることができるようにしておくことが「よい会計」に向けて大切なのではないでしょうか。

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