コラム

 公開日: 2014-02-07 

「佐村河内氏のバーチャルリアリティー空間に巻き込まれた私達」

今回は、佐村河内守氏の問題について、感想を書きます♪

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「佐村河内氏のバーチャルリアリティー空間に巻き込まれた私達」

私達が映画を見に行くとする。
それはもちろん虚構の世界の話。
でも、映画を見ている間は、
あたかも実体験するかのような感覚を受ける。
それを楽しみに、お金を払って見に行くわけだ。

それでは、もし、こんなことをしてみたらどうだろうか?

映画館で座っているいすから出て、
その映画のスクリーンの中にはいり、
主人公の中に、着ぐるみをきるように中に入って、周りを見てみる。
つまり、映画の世界で起こることを次々と実際に、体験してみる。

その映画がミステリー映画だとしたら、どうだろう?

ミステリー映画の醍醐味は、最後のどんでん返しである。
最後には、それまで考えもしないようなどんでん返しを
実際に体験して、驚き茫然とする・・

今回、突如として湧き上がった佐村河内守氏の件について感じるのは、
まるで、私達がミステリー映画の主人公で、
驚きの結末に遭遇した時の心境と同じなのではないかということ。

結局、私達は、佐村河内氏のつくりあげた虚構のストーリーに取り込まれ
ていたのだ。

今更のことだけれど、佐村河内氏のつくったストーリーを
振り返ってみたい。

黒装束に身を包む、ミステリアスな風貌の中年の男性がいる。
広島の被爆2世で、長年の病魔にために、苦労して生活してきた。
あげく、両耳の聴力を失ってしまい、それでも子供のころに、
独学が学んだクラシック音楽で壮大な交響曲を作り上げる。

つくられた交響曲は、独学なのに、専門家がうなるほどの内容の完成された作品。

そして、被爆者への思いを込めたとされる
苦悩の中から最後に登場する美しいメロディーを聴いた人たちは、
自分たちの人生にも照らし合わせた。

どんなにつらいことがあっても、努力すれば、いつかは
光をみることができるのだ、という希望をもった。

こうして、男性の境遇と音楽に感動した人たちは、
自然と、彼を応援したいと思った。

そして、CDはクラシックでは異例の売れ行き、コンサートは満席、
スタンディングオベーションが男性におくられ、
多くの人の苦しみを救ったヒーローのように、
あがめたてられていた。


ところが、突然、運命の日がやってきた。

男性の影武者である、本当の作曲家が
皆様の前でお詫びしたいということで、
記者会見を開いたのだ。
この映画のすべての「ネタバレ」をしてしまったということ。
各方面、多大な衝撃を隠せない。

メディア、レコード会社、テレビ局、出版社、CDを買った人、
コンサートに足を運んだ人、特集を見た人、すべての人が、
この映画の世界=虚構に取り込まれていただけだったということが、
分かってしまった。


当然、非難が殺到するし、本当の作曲家はもちろん、
宣伝してきたメディアは、お詫びを続けている。
レコード会社や出版社、コンサート企画会社、信じてきた人たち、
みんなが被害を被っている。

しかし、この本当の作曲家は悪者なのか考えてみたい。

まず、この作曲者は、このような行為については、自分から提案は一切していない。
依頼があり、それをプロとして引き受けて、プロとしての持ちうる限りの力で、
仕事をしている。
名声が欲しいとか、お金が欲しいためではなく、依頼があったものを、
責任をもってきちんと受けて、返しているだけだ。

クリエイティブな作業、特に、交響曲の制作など、想像を絶する作業だと思う。
命を削る思いで、つくられた作品だと思う。

そもそも、音楽を仕事にする人は、お金だけ目当てでの気持ちではしていない。
もちろんお金が必要でないということではないけれど、
一言でいうと、「いいものがつくりたい」それだけの思いで、仕事をしているのだ。

依頼されれば、最善の作品を提供したい、少しでも多くの世の中の人に
聞いてもらえれば・・という、ただそれだけの思いで、
この作曲家は仕事されてきたのだと思う。

一般的には、クラシックの音楽家は、さぞかし不思議な存在に映るだろう。
自分でホールを借り、自腹でコンサートを開き、赤字だったりしても、
それでも続けたいと思うような人種がいるなんて、信じられないだろう。

つまり、価値観が、ある意味、現実世界にないのだ。

クラシック音楽というのは、数百年の間、いろいろな時代を経て、
淘汰されなかったものが、受け継がれてきた音楽で、
その楽曲は、人間が普遍的にもつ、情感に訴える力をもっている。

具体的には、人間の感情を揺さぶったり、平穏にしたりする、
和声進行、そして、メロディーライン、リズムがあり、
それが絶妙に混ざり合い、調整を変えたりすることで、
より心地よさや感動をさそう。

それには、生の楽器がもつ、倍音の力も作用している。
これは決して電子楽器では得られないもので、耳に聴こえない周波数をもつ音が、
脳に心地よさを作り出していくのだ。

そして、楽器というのは、ある適度の演奏ができるまでは多くの時間がかるもの。
ちょっとやりたい、という人には敷居が高いし、出来るようにもならない。
このことは、楽器を少しやった人なら、わかっていただけると思う。
そして、またこれが重要なのだけれど、独学では習得は難しいのだ。

楽器習得は(作曲にしてもそうだけれど)必ず、師に師事することが必要だ。
なぜなら、体で覚えていく要素があるし、口伝の要素も大きい。
そして、師匠の教えが作品や演奏に多いに影響している。
このような理由があり、独学で、交響曲をつくり、
しかも、優れた作品だったということに、
専門家がびっくり仰天してしまったのだ。


しかし、残念ながら、そんな「奇跡」は、現実にはないんだ、ということが
ハッキリしてしまった。

私もCDを購入したし、生徒さんにも勧めたし、コンサートにいった人もいた。
私もその世界に取り込まれた一人だった。

何も知らされなければ、ずっと私達は幸せな虚構世界にいられたはずだったし、
佐村河内氏も、それを切に望んでいたはずだった。

私達は、「希望」という夢をみて、幸せで、それに対して、対価を(CD購入、書籍購入などの)払った。
佐村河内氏は、自身の企画を大成功させ、クラシック界にも明るいニュースをもたらした。
本当の作曲家は、自分の作品が世に出る機会が増えて、それが十分評価されることが
できた。

この段階では、だれも被害を被っていない。

しかし、本当の作曲家の「良心」は、今後、ますます大きくなるであろう
佐村河内氏のつくるバーチャルリアリティの世界の継続は許せなかった。
そして、大事な大学の職を失う覚悟で、決着をつける覚悟をされたのだと思う。

でも、今後これが続いてから明らかになるのと、
今、現在リセットするのとでは、
もしかしたら、今のほうが、
まだ被害も少ないのかという考え方もある。

佐村河内氏は、楽譜も読めないし、書けないらしいが、
どうしてもクラシック音楽にこだわったそうだ。
もしかしたら、人一倍、クラシック音楽の世界に憧れていたのかもしれない。

今回のことで、ひとつだけ、佐村河内氏の卓越してすごい才能が分かった。

それは、映画の企画、台本、監督、および、俳優としての演技、
そのすべてを仕切る、総合プロデュース力である。

バーチャルリアリティの空間で成功と名声を手に入れ、
自分が本物のクラシック作曲家と勘違いした男性の最大の落とし穴は、
一番大切な存在である本物の作曲家の内面が、
偽物の作曲家には、到底理解できなかったことだろう。

何度もこの関係をやめようと訴えていた作曲家の言葉を無視し
自分の自己顕示欲だけを満たすことしか考えなかったことが
バーチャルリアリティを終焉させた。

ただ、改めて「交響曲第1番 HIROSHIMA」を聴いたけれど、
やはり、素晴らしい曲だと思う。
高橋選手の「ソナチネ」も、とてもとても美しい。

作曲家のかたを拝見し、
どんな思いで18年間つくってきたのかを考えただけで、
胸が痛くなる。

楽曲の素晴らしさは、たとえ、本当の作者が違ったとしても、
変わりはない。

これらの曲が聴かれ続け、
作曲家、新垣隆氏のご活動が、今後も続いていってほしいと
心から思う。

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この記事を書いたプロ

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音楽家 細川莉夏

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