コラム

 公開日: 2018-07-13 

「終わった人」とライフキャリア・プランニング


現在上映中の舘ひろし主演の映画「終わった人」が面白い。「定年って生前葬だな・・・」で始まる内館牧子のベストセラー小説の映画化作品。ほぼ原作通りのストーリーで、定年を迎えたエリートの悲哀をコミカルにかつシリアスに描いています。主人公(63歳)と年齢が近く、定年後の昨年サラリーマン生活を終えて組織開発コンサルタントとして再出発した自分にとってはまさにドンピシャリの映画、あっという間の楽しい2時間でした。何が面白いかはネタバレしますのであまり詳しくは控えるとして、ここではサラリーマンであれば避けられない定年をテーマに人生100年時代のライフキャリア・プランについて考えてみたいと思います。

まずは最新データから。65歳以上の高齢者は3461万人(2016年9月15日推計)で、総人口に占める割合は27.3%。よく言われるように日本の人口の4人に1人以上は65歳以上の高齢者になってきていてその割合は年々増えつつあります。また、就業率も先進国で最も高く高齢者の21.7%、730万人が働いています。65歳で定年を迎えても、その後かなりの人が働き続けていることが分かります。そして、高齢者雇用の70%超は非正規の職員・従業員となっていますが、働く理由としては、自分の都合の良い時間に働きたいからが最多(31.7%)となっていて、家計の補助(20.1%)と続き、次の専門的な技能を生かすは1割強に留まっています(14.9%)。それほど専門性を活かしたキャリア選択が実現できておらず、時間給を中心とした軽微な単純労働が中心であることが想像されます。また、定年後に就いた仕事が生きがいにまで昇華して受容できているのかどうか、疑問にも感じられます。

一方で、現在の日本の65歳時点での男性の平均余命は19.55歳。つまり平均すると84.55歳。女性は24.38年で、同じく89.38歳まで生きる現状があり、こちらも年々伸びてきています。

要は、健康でまだまだ働きたいという人がどんどん増えてきていて、その意味で現在の定年65歳は人生100年時代の通過点でしかなく、その後現役時代に匹敵する、人によってはさらに長い時間を過ごす訳ですが、現実的には現役時代の経験を活かせるような生きがいにまで結びつく充実したキャリアを実現できていない可能性があるのではないかということです。そのような現実を前に、「あなたならどのように生きますか、どのように働きますか、どのように考えて、そしてどのように準備・行動しますか?夫婦は?家族は?・・・」と問いかけているのがこの映画の主題だと思います。

映画の主人公にように東大卒で大手銀行出身という絵に描いたようなエリートサラリーマンであっても、定年後まで会社が面倒を見てくれる訳では当然なく、何も準備していなければ、定年と同時に、お約束のように「夢なし、趣味なし、仕事なし、そして我が家に居場所なし」の現実が待っているということになります。

では、どのような準備を進めていけば良いのでしょうか?一例ですが、有名なスーパーのライフキャリア・レインボウ(1950年代に提唱され今日的にも十分な普遍性があるキャリア理論の古典)を参考にして、人生全体を俯瞰的に見て、自分の価値観や強み、現状の役割などを総合的に考えてキャリアプランを考えるライフキャリア・プランニングの方法があります。

もう少し具体的に言えば、まずは今までの自分の仕事のキャリアを棚卸します。いわゆる職務経歴書を作成するイメージです。この際の注意点は、どのような仕事をしたかという以上に、そのキャリアを通じて獲得したスキルや経験値は何かということを明らかにすることです。そのようにして積み上げたキャリア=自分は何ができる人(強み、マーケット価値)と、自分の価値観、やりたかったこと、生き方、今の自分の役割や状況などを掛け算して何が出てくるか、といいうことを考えていきます。

私の例で恐縮ですが、私の場合は、長い人事領域でのキャリア(採用、研修、人事企画、キャリア支援、労務管理)×長い管理職・経営者経験(組織経営、BPR、人財育成、組織活性化)×人に教えて喜んでもらうことに幸せを感じる価値観(学生時代の学習塾経営が原点)×世の中の役に立ちたい人生観(ディズニー哲学から学んだこと)などから、現在の「組織開発コンサルタント」としての居場所を見つけました。今から思えば、自身の42歳での解雇・失業・転職経験も踏まえ、会社に対する幻想が消えていたこともあり、50歳あたりから手探りで準備行動をしていた気がします。その後55歳過ぎには役職定年にもなり、様々な分野の関心のあるセミナーへの参加や、仕事以外の2枚目の名刺の作成。さらには資格取得(産業カウンセラー、キャリア・コンサルタント、レジリエンス・トレーナーなど)、NPO法人でのボランティア活動(キャリア相談)など、かなり積極的に活動を強化していました。明確に定年後の働き方をデザインできたのは定年直前だったと思いますが、10年越しの準備期間になりました。

良寛和尚の「散る桜 残る桜も 散る桜」。主人公が映画の中で何回かささやくセリフですが「限られた命の中で、悔いの残らないよう生きましょう」という、昭和23年団塊の世代ど真ん中生まれで70歳となる原作者内館牧子さんと、定年前世代で56歳となる中田秀夫監督の見る人への温かいエールと感じられました。

「終わった人」とは大変シニカルなタイトルですが、人生は命尽きるまで「終わってはいない人」なのです。さて、あなたならどうしますか?

この記事を書いたプロ

オフィス中村

経営コンサルタント 中村正巳

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