コラム

 公開日: 2018-03-13 

相続放棄の基礎知識 その2

【今日のポイント】

 前回に続いて、相続放棄に関する基礎知識を紹介しています。 今回の内容はやや専門的な内容にも踏み込んでいますが、基礎知識として知っておくべき内容と思います。



【特殊な相続人による相続放棄】

 さて、相続発生によって相続人になる人は一般の成人だけではありません。 

1)未成年の相続人の場合
 相続人である子供が未成年の場合は親子間に「利益相反行為」が発生する危険性があります。 この場合は未成年の子供の利益保全の為に家裁に対して「特別代理人」選任請求をしなくてはいけません。

 なぜ? 実の親子なら利益相反にはならないのでは? と思いがちですが、例えば子供に言い含めて相続放棄を認めさせれば親の取り分は当然ながら増額になります。 嫌な話ですが、実の子供でも相性がある場合、溺愛する子供の為にと画策するケースです。 他にも親の名義の不動産を未成年の子に売却する場合に、親が代理人であれば、親の思惑の価格で売却契約が結べます。 

 このように子の利益が侵害されない為にも、特別代理人を選任する必要があるのです。

2)成年後見制度の適用の場合
 仮に、既に相続人に対して成年後見を開始している場合、相続放棄の申述は後見人が行います。 被後見人の場合は後見人が相続の開始を知った日から3カ月以内に、被保佐人の場合は保佐人の同意を得て申述を行います。 相続人の中に制度適用が必要と思われる人物がいるような場合には早急に後見制度の利用を考えて下さい。 当該の人物の状態によって任意後見か法定後見かも決まってきますので、この点にも注意が必要です。


【遺産分割協議と相続放棄】

 遺産分割協議とは遺言がない場合、又は遺言があっても相続人全員が協議の結果合意した内容であれば有効になる遺産相続の方法の一つです。

 遺産分割協議で注意すべきは「協議終了はそのまま財産の処分行為となり、イコール単純承認」と見做される点です。
いったん協議書を作成(合意)した後でマイナス財産が発覚した場合、協議書の内容に関係なくマイナス財産は相続されるのです! 

 また協議書の中で「相続人Aは遺産相続を放棄する。」と記載しても、対外的には効力は発生しません。 仮に兄弟3人で相続する時に裕福な2人が協議書の中で相続放棄を謳い、返済能力のない残りの一人に故意に負債を含めた財産を相続させるという内容で合意した場合、債権者からすれば請求できる相手が絶対に返済不可能な相続人しかいないという惨状になってしまいます。 遺産分割協議はあくまでも「身内の話し合い」であって第三者はその経緯や内容を窺い知ることは不可能です。 このような不公平を排除する為、判例でも「遺産分割の対象たる相続財産中に、相続債務は含まれない。」とありました。 協議書の中でいくら債務放棄を謳っても第三者である債権者には全く効力はありません。

 事実上いったん合意した遺産分割協議の撤回は至難の業ですから詳細な財産調査を踏まえてうえで協議を開始するよう注意が必要です。


【相続放棄の撤回・取り消し】

 3カ月の熟慮期間内に一度は相続放棄を決めて申述し認められたものの、その直後に多額のプラス財産が判明した。 まだ3カ月の熟慮期間内であれば相続放棄の撤回は可能でしょうか? 

 これは出来ません。 いったん放棄をしたら期間内であろうと撤回は出来ないのです。~民法919条

 では、取り消しはどうでしょうか? 撤回と取り消し、何が違うのでしょうか? 

 取り消しとは相続放棄の申述の時点で「何らかの問題があった場合」に放棄の効力をなかったことにするという意味です。 例えば先に述べた未成年者が親権者の同意を得ないままにした場合や、成年後見の対象者である被後見人が行った場合や、被保佐人が保佐人の同意を得ないでした場合等があります。 他にも詐欺、又は強迫の結果による場合も取り消しの対象になります。

 但し、これにも「期限」が設定されています。
・取り消しが出来ると気づき、取り消しが出来る状況であればその時点から6カ月を経過した場合。
・取り消しが可能な場合であってもその事実に気付かないまま相続放棄から10年が経過した場合。
 共に取り消しは出来なくなります。


【3カ月の熟慮期間の意味】

 一般的に相続放棄というのは負債の相続を拒否する為に起こす行動です。
特に相続発生前から多大な負債の存在を認識していた場合は先ず放棄ありきで考えを進めます。ですが、それが裏目に出るケースも中にはあるのです。

 私の知人に起こった実例では被相続人であった父親の負債を知っていた知人が相続発生直後に相続放棄をしたいと私に相談を持ちかけてきました。 3カ月の期間があるのだから念のため相続財産を洗い直してはという私の声には耳を貸さず、放棄の手順についてだけアドバイスを求めてきたのです。 どうも晩年の父子関係はあまり芳しいものではなかったことは言葉の端々から感じていましたので私も本人が了承しているのだからと、それ以上話を続けませんでした。

 ですが、約1年後に当人と会う機会があった際に「放棄した後になって自分が知らなかった父親名義の預金類が見つかった。それもかなりの額のものが。 負債をチャラにしても十分お釣りがくるほどの・・・」と、苦笑して告げられました。 やはり目の前の負債に拘ったための性急な(放棄の)決断だったのです。 もっと穿った見方をすれば、他の兄弟は父子関係の実態を知っていて財産の存在について知らんふりをしていたのかもしれません。 

 相続放棄はミツバチの針と同じで一度しか行使できません。 時機を失して負債を相続することも避けたいですが、過剰な反応をして性急に放棄を決めてしまい、みすみすプラスの財産の相続を手離すことは、より避けたいものですね。
 
 3ヵ月という期間は長くもあり、短くもある期間です。 最大限有効に活用することで悔いのない決断を出すようにしましょう。


【相続放棄の手続きの注意点】 

 相続放棄は相続人各自で出来ると前回紹介しましたが、自分が相続放棄をすれば、相続権は第二順位の相続人に移ります。 相続権自体は消滅したわけではないのです!
 
 事例として、親に多額の負債が判明したため子供全員が合意の上で相続放棄の手続きを済ませた場合、仮に親に兄弟姉妹が健在であれば(叔父叔母等)相続権は(=負債)彼らに移るのです。 中には故意に相続放棄の事実を親族に知らせないで負債を押し付けた例もあるようですが、知識不足から不可抗力で親族に迷惑をかけることもあるのです。

 当然ですが、自分達にも降りかかってくる可能性がある問題ですから、相続権の範囲内で各自の生活状況等の実態を正確に把握しておくよう交流を図ることが大切です。


 【相続財産管理責任】

 さて、相続放棄の手続きは滞りなく終了したので田舎の空き家はもう自分の物ではなくなった、後は野となれ山となれ…
では済まされないこと、ご存知でしたか?

 民法940条に「放棄によって相続人になったものが相続財産の管理を始めるまでは相続放棄したものに管理責任がある。」と明記されています。

 上記の場合、空き家が倒壊して隣家に損害を与えたり、屋根や壁の崩落などで人的損害を生じさせた場合、新しい相続財産の管理責任者が管理を開始する前であれば、相続放棄をしたものに管理責任があるのです!

 このような不動産を所有し、相続放棄をした場合は早急に管理責任者に管理を始めてもらうよう働きかけないといけないのです。


【相続放棄の通知】

 最後に、相続放棄の手続きが完了した後に想定しておく手続きについて簡単に紹介します。

 仮に故人の債務の返還請求への対応として、債権者に対して「相続放棄申述受理証明書」の提出をします。
この前の段階で通知される「受理通知書」だけでも相続放棄の事実は伝わりますが、通知書に同封されている交付申請書の提出でこの受理証明書を取得しておくことをお奨めします。

 これは相続放棄した財産の中に不動産があり、これを代わりに相続した者が相続登記する場合には必須の書類となるためです。 

 立つ鳥跡を濁さず、ではないですが、関係者に対して十分な配慮を心がけることも大切な手続きでしょう。 

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