コラム

 公開日: 2016-10-06 

シンプルに生きる ~『レッド・タートル』のエッセンス~

マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の映画『レッド・タートル』を観ました。
前回、自然との距離が遠くなった現代技術文明社会で生きる私たちの精神的脆弱性について書きましたが、逆に、現代技術文明から切り離されて自然の中で生きることになったらどうなるのか、というテーマを描いている作品であり、興味深く鑑賞しました。

男は不本意なかたちで無人島に漂着しました。
現代社会に住む私たちは自然に憧れますが、さすがに現代文明と全く隔絶した無人島に永住したいとは思いません。
男はいかだを組んで脱出を再三試みますが、不思議な力によっていかだが破壊され、男は島に引き戻されます。

三度目にいかだに乗って海に出た時、男は赤い海亀に出会います。
果たして赤い海亀がいかだを壊した犯人なのかどうかは明らかではありませんが、男は赤い海亀に邪魔されたと思い込みます。
男は、砂浜に上がって来た赤い海亀を殴り、仰向けにひっくり返します。
赤い海亀はそのまま動かなくなりました。

しばらく経っても全く動かない赤い海亀を見て、男は心配になり、頭に水を掛けてやったりして世話します。
すると、赤い海亀の甲羅の胸元が割れ、甲羅の中に眠っている女が姿を現します。
それはひなが卵から孵る様を思わせます。
男の赤い海亀を気遣う心が卵を孵化したかのようです。

女は甲羅から出ると海で産湯に浸かります。
その姿はヴィーナス誕生を思わせます。
女は誘い、逃げ、男は追いかけます。
無言で繰り広げられるシーンは動物本来の求愛行動のように、シンプルで、ピュアで、美しい。

女は自分を島に運んで来た乗り物である甲羅の抜け殻を海に押し流します。
男も組み立て中のいかだを海に押し流します。
二人とも島に留まると心に決めた時から、島はパラダイスに変わります。

二人は力を合わせて島での生活を築き上げます。
やがて二人は男の子を授かります。
三人家族で過ごす他愛ない日常。
男の子は少年に成長し、三人は幸せな生活を送ります。

パラダイスにも危機は訪れます。
或る日、突然、津波が島を襲います。
海岸近くの森林はなぎ倒され、男も女も息子もバラバラに流されてしまいます。
波が引いて、探し求め合う家族。
母と息子は出会いますが、父親がいません。

父を探しに走る息子。
やがて、父親が沖合の流木にしがみついているのを見付けます。
父親のもとに泳ぎ寄る息子。
父親は元気を取り戻し、二人して岸にたどり着きます。
逞しく成長した息子。

青年となった息子は、外の世界を見たいと思い、島を出て行く決心をします。
或る日、青年は青い海亀たちに護られながら旅立ちます。
息子の巣立ちを見送る父と母。
二人はもはや島を出ようとは思わず、島で余生を過ごそうと心に決めています。

男と女はその後も島での生活を味わい、楽しみます。
男は年取り、髪がすっかり白くなりました。
そして、或る日、男は眠るように息を引き取ります。

女は男の掌の上に自分の手を重ねます。
すると、その手は赤い海亀の手に変わります。
赤い海亀に変身した女はそのまま海へと還って行きます。

ユング的な解釈をすれば、赤い海亀は男のアニマ(魂)で、この世で生きづらさを感じている男が自分のアニマを得て、充実した人生を送る物語、のように観ることも出来るかと思います。
魂は不滅なので、亀のように長寿の動物に譬えられ、全ての生命の源である海から来て、海に還って行く、ということかも知れません。

ただ、私は余りそうした解釈にこだわらない方が良いと思います。
現代文明社会に生きる私たちは漠然と自然と触れ合ったシンプルな生き方に憧れを抱いていますが、提示される具体的なモデルは具体性を持っているが故に、自分とは縁遠く感じられてしまいがちです。
この『レッド・タートル』はアニメ映画故に、現実的・具体的な生活例としてではなく、シンプルな生き方のエッセンスを私の心の中に落としてくれました。

自給自足の生活では、全ての仕事(生産活動)が自分自身の生活に結び付いています。
そこでは、仕事をする自分と生活者としての自分との分離・対立や矛盾は有りません。
従って、本音と建前の使い分けの必要が無く、いくつものペルソナを被る必要も無く、生き易いでしょう。
また、自分の五感と手足を使って、ローカルな世界で身体性に即した生活をしているので、精神的ストレスは極めて少ないでしょう。

このアニメ映画から得られたシンプルな生き方のイメージは、いつでも心に呼び起こすことが出来ます。
それは生きて行く上で助けとなるリソースを豊かにしてくれます。
そのことをとてもありがたいと感じました。

この記事を書いたプロ

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