コラム

 公開日: 2016-09-29 

心の拠りどころはどこに? ~不換紙幣の時代のカウンセリング~

前回のコラムで紹介した某都立高校で日本史の教師をしている友人と、授業見学後に昼食を共にし、授業に関しての話題に花が咲きました。

板垣退助が自由民権運動に勤しんでいる頃、松方正義が大蔵卿となり、松方デフレと呼ばれる緊縮財政を実施しました。
その関連で、友人は財布から千円札を取り出し、兌換紙幣と不換紙幣の違いについて説明しました。
「兌換紙幣は金と交換出来るから価値が有るのだけれども、不換紙幣は交換出来なくても人々が通貨としての価値が有ると思っているから通用しているんだ」

昼食時に私は友人に「不換紙幣について説明するくだりを聴いて、王権も同じだと思った」と言いました。
「王権?」
「王様の権力のことだよ。最初は帝王神権説とか王権神授説とかで、王権は神から賦与されたものだとして権威付けたでしょう。でも、次第に王権は神による権威付けを必要としなくなった。兌換紙幣と不換紙幣に似ているでしょう」
「ああ、確かにそうだね」

最初はシャーマンや預言者のような神の声を聞くことが出来る特別な能力を有した者が指導者となって統治していましたが、統治すべき民の規模が大きくなって来ると、軍事力や行政能力を持つ者が指導者として台頭し、王政を敷くようになります。
この時、王は絶対権力の裏付けを神に求めました。
これが帝王神権説或いは王権神授説と呼ばれるものです。

そして、王政の時代が長く続き、王の権力が安定して来ると、神の権威の裏付けが無くとも絶対王政が盤石になって来ます。
しかし、時代が下って、国民が経済力や知識を得て来ると、絶対王政を維持することが難しくなり、やがて主権が国民に移り、立憲君主制の下で王政が存続するようになります。
現代のヨーロッパでは、国王は「君臨すれど統治せず」で、国民の支持があってこそ国王でいられる状態、と言っても過言ではありません。

ここまでものすごく大雑把に王政を軸として述べて来ましたが、中には、革命によって王政が倒されて共和制に移行する国も有りますし、共産主義政権が誕生する国も有りますので、話を王権に限って単純化するのは乱暴だと思います。
が、むしろ、かつては神秘的な権威を背景に、絶対的な権力を持った支配者が君臨していたのに対し、民主化された現代では、国民の信任によって政権が安堵される構造に変わっている点では、先進国のあらゆる政権に普遍性が有ると言えます。
村上春樹の『1Q84』の中で、ビッグ・ブラザーが死に、リトル・ピープルが現れて来るのは、上記の変遷の寓意のようにも読めます。

シャーマンや預言者や絶対王政の王のようなビッグ・ブラザーは光と情報を独占して支配の源泉としていました。
大昔は太陽や月しか光源が無く、その光は有難いものでした。
しかし、やがて蝋燭やランプが発明され、ガス燈、電灯と次第に強力な人工的な光源が普及して来ると、自然光の有難味が薄れて来ます。

大昔、情報はビッグ・ブラザーに独占された貴重なものでした。
しかし、やがて印刷技術や通信技術の進歩によって、情報は拡散して行きます。
現在のインターネット時代には、情報が溢れて有難味が無くなり、かえって本当に大切な情報がどこに在るのか見えにくくなってさえいます。
光と情報が拡散するに連れて、政治の主体はリトル・ピープルの側に移って来ます。

現代技術文明のお蔭であまねく光と情報が行きわたるのですが、それは自然由来のもので無く、リトル・ピープルの存在基盤には脆弱性が有ります。
ビッグ・ブラザーが取り込んでいたエネルギーや情報は自然に根差しており、それらはシンプルで適量であったので、精神的に安定し、自信を持ってリーダーシップを発揮出来ました。

一方、リトル・ピープルが浴びる光や情報は量的には過剰と言えるほどですが、複雑でノイズが多く、クオリティは低いのです。
量は物質的なものですが、質は精神的なものです。
そのため、リトル・ピープルは精神的に安定せず、自分の信念が持てずに他人に同調したり、徒に対立したりします。

兌換紙幣は金という自然由来の確固とした価値の有るものを根拠としてその価値を維持していましたが、不換紙幣はそのような自然由来の価値の根拠を持っていません。
現代のリトル・ピープルの手元には不換紙幣しか無いのです。

ですから、現代人は心の中で精神的な兌換紙幣を求めています。
ヨガや瞑想や仏教にその道を求める人もいるでしょう。
新興宗教やカルトに求める人もいるかも知れません。
有効な道は色々有ると思いますが、全ての人に合う道は有りません。
自分のオリジナルの道を探し求めたい人もいると思います。
そうした人の旅の伴をすることもカウンセラーの使命であると私は心得ています。

この記事を書いたプロ

オフィス・メイウッド [ホームページ]

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