コラム

 公開日: 2016-09-08 

トランジションの陥穽 ~人生の転機~

「人の転機の説明は、どうも何だか空々しい、その説明が、ぎりぎりに正確を期したものであっても、それでも必ずどこかに嘘の間隙が匂っているものだ、人は、いつも、こう考えたり、そう思ったりして行路を選んでいるものでは無いからでもあろう。多くの場合、人はいつのまにか、ちがう野原を歩いている。」(太宰治 『東京八景』)

さすがに太宰は人生の転機というものをよく見抜いています。
人生が上手く行っている時、人は無意識のうちに転機を乗り越え、いつの間にか別の人生を歩んでいるものです。
それは、外的な変化が現れる客観的な転機と心の転機とのタイミングが一致しないので、その時点で意識的に人生行路を選択しているという実感が得にくいからです。

私たちの身心は、時間の経過とともに成長し、成熟し、衰えるという変化を経験します。
また、人生の中で身を置く環境や出会う人間関係も時々に変化し、それに伴って自分の内面も動き、変化します。
その中で絶妙のバランスを取って生きることが人生です。
絶えず動いているのでダイナミックなバランスです。

日常生活では変化が小さいので、小さな動きでバランスを保てます。
ところが人生の節目で、今までのやり方では乗り越えられない急激な環境の変化に遭遇し、心の変化が追い付けず、打ちのめされてしまうことがあります。
例えば、いきなりリストラされるような場合など。

或いは、普段の生活では気付かない小さな心の変化の積み重ねがいつの間にか大きくなり、外的な環境との途方も無い乖離に立ちすくんでしまうこともあります。
例えば、自分の仕事にいつの間には大きな違和感を持ち、既に心が会社から離れてしまった場合など。

このような場合、外的環境の変化と内面の変化との時期がずれているためにバランスを失い、罠にはまったように身動きが取れなくなります。
これがトランジションの陥穽です。
それでは、身動きが取れなくなるというのはどういう状態なのでしょうか。

それは、SOC(Sense of Coherence、首尾一貫感覚)が保てなくなる状態です。
SOCは、A.アントノフスキーの健康生成論で、人間が精神的に健康であるのはどういう状態か、という研究で提唱されている概念で、次の3つの要素から成り立っています。

ひとつ目が「把握可能感」で、これは人が内的或いは外的環境からの刺激を受けた時に、それを混沌としたものでなく、或る程度秩序だった情報として把握出来る感覚です。
この把握可能感が高いと、将来起こりうる事態が予測しやすくなります。

ふたつ目は「処理可能感」で、人に降りそそぐ刺激に見合う十分なリソースを自分が自由に使えると感じている感覚です。
この処理可能感が高いと、人生における出来事は対処可能な経験として、応じることが可能なチャレンジと捉えることが出来るようになります。

みっつ目は「有意味感」で、人が人生を意味が有ると感じる感覚、つまり、生きていることによって生じる問題はエネルギーを投入するに値し、関わる価値が有り、無いほうが良い重荷というよりは歓迎すべき挑戦であると感じられる感覚です。

これら3つの感覚は、普段の日常生活では低くても十分に対処出来ますが、トランジションに直面した時には、高くないと乗り越えるのが厳しくなります。

人は誰でも生活世界に「境界」を設けており、その境界の外で起こることは、把握可能であろうがなかろうが、処理可能であろうがなかろうが、さらに有意味であろうがなかろうが、大した問題ではなく、重要なことでもありません。
SOCの高い人は、境界の設け方が柔軟であり、不要なものは境界の外に置いてエネルギーを節約し、トランジションのような人生の重要課題は境界の中に置いてきちんと対応するしなやかさを持っています。

それでは、SOCの高くない人が把握可能感や処理可能感や有意味感や境界の柔軟さを身に付けるにはどうしたら良いのでしょうか。
それは、自分の身体感覚に素直に、日常生活をていねいに営むことで少しずつ、着実に身に付いて来ます。

身体は最高のアンテナであり、その感度をみがくことによって、把握可能感やものごとの重要性の判断力が上がるので、境界の適切な設定がしやすくなります。
また、学習と身体感覚を組み合せることによって、処理可能感や有意味感が育成されて来ます。

トランジションの陥穽に全く陥らないように予防することは不可能ですし、はまった陥穽からこうすれば抜け出せるというノウハウは有りませんが、SOCが高ければ、自分のリソースを自由に使い、トランジションを生き抜きやすくなることは確かです。
このテーマの具体的な内容については、11月に三鷹で講座の開催を予定しています。

この記事を書いたプロ

オフィス・メイウッド [ホームページ]

産業カウンセラー 服部治夫

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TEL:0422-44-8919

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