コラム

 公開日: 2015-05-27 

精神疾患が疑われる社員に対して強制的な受診命令は可能か

 取引先からの電話に大声を出したり、職場で同僚や部下を罵倒するようなことを繰り返し行う社員がいます。職場の雰囲気は当然のように悪くなり、取引先との信頼関係も損なわれてしまいます。会社としては、その度重なる行動から精神障害の疑いを持ち、安全配慮義務を含め、適切な対応をとるためにも本人に対し産業医への面談を何度も勧めていますが、拒否し続けています。
 
 このような社員に対し、強制的に受診命令をすることができるでしょうか。




就業規則への規定と注意点

 このような場合、本人は自分が精神的に不調をきたしているという自覚がない(病識がない)場合が往々にして見受けられます。そのため、いくら本人に対して産業医との面談や医療機関への受診を進めても、「自分は正常であるからその必要はない」と主張するのです。

 そこで使用者が労働安全衛生法で義務とされている健康診断以外の受診命令をするには、まずは就業規則にその旨を規定することが必要となります。例として「会社は必要があると認めた場合、社員に対して医療機関での受診を命じることがある」と規定します。そして、この根拠規定があることを前提に医療機関での受診を命令し、本人がその命令に従わないのであれば懲戒処分を行うこととすることで、本人に医療機関での受診を強制する方法が考えられます。

 ここで注意が必要なのが、就業規則上に規定することで、使用者は受診命令をする「権利」を持つことになりますが、権利を持つことと、その行使が有効であるかは別の問題となるのです。ひとつ間違えると、権利の濫用を問われる可能性があります。とりわけ、(1)自分が精神疾患に罹患していることの確認をするというネガティブな行為を強制するという側面があること、(2)懲戒処分を行う前提となる事理弁識能力が病状により欠如している場合があること、この点からも慎重に判断する必要があります。実際に裁判例でも、会社から受診を強要されたり、嫌がらせを受けたとして損害賠償を請求された事例があります。

労務提供拒否という対応も

 そこで、社員への受診命令でトラブルにならないための手段として、受診命令の正当性を証明する客観的な根拠が必要になります。具体的には、対象社員の行動を観察し、特異な行動や症状、他の社員に悪影響を与えた事実などを明確に記録し、文書に残しておくことが必要となります。

 それらの事実を根拠にして、本人に医療機関への受診を勧め、産業医との面談を命じます。そしてこれらの事実も文書に記録として残しておきます。それでも受診に応じない場合には、本人が任意の医療機関を受診し、健康に問題がないことを自身で証明しない限り、労務提供をを受けないという対応が良いでしょう。このように対応することで、万一社員との間でトラブルとなっても、就労による病状の悪化が懸念される以上、安全配慮義務の観点からも労務提供の受領拒否には正当な理由があると認められることでしょう。


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