コラム

 公開日: 2016-07-04 

「サ高住」を不動産的にとらえてみる

平成23年10月に改正高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)施行からスタートした「サ高住」(サービス付高齢者向け住宅)、その登録戸数も平成28年5月には約20万戸に達しています。

誰しも悩むことが予想される老後期の住まい。
今回のコラムでは、その有力な選択肢として考えられる「サ高住」について、平成28年5月の「サービス付高齢者向け住宅の整備等のあり方に関する検討会とりまとめ」などを元に、不動産的視点から取りあげてみたいと思います。

「介護が必要!」その前に考える。安心な老後を送るには「サ高住」ライフは有力


平成27年内閣府「高齢者白書」によりますと、高齢期に介護が必要になった場合、自宅で介護を望まれる方が35%と一番高くなっています。高齢者の持ち家率は8割を超え、住み慣れた場所で安心して暮らしたいという気持ちは私も同じです。自分の親を見ても、やはり年を重ねてから住み替えによる環境変化は、高齢者にとってハードルが高いものと感じます。

しかしながら、その高齢者のみ世帯の持ち家において、バリアフリー、省エネ性能を満たしている住宅は約15%と低く(平成27年住宅宅地分科会資料、国土交通省推計)、必要に応じて介護サービスを利用しながら、自宅で安心して暮らすには、住まいの大幅な機能改善を必要とする実態になっています。

なかでも、自宅にてヒートショック関連で亡くなられる方は年間約17,000人(東京都健康長寿医療センター研究所平成25年報告)と交通事故死をかなり上回る人数になっています。今後、住まいの断熱性能アップも老後期において重要なアイテムになりそうです。

住宅取得時から高齢期の住まい方も配慮した選択(高低差などの土地形状、病院・買い物アクセスを考慮した立地、設計的配慮など)をされていれば、その住まいを持続的に利用できる可能性も高くなります。

初めて住まいを得る、住宅1次取得時平均年齢は約38歳です。子供を授かった家庭では、その年代は子育て真最中であることも予想されます。その場合、住宅取得の目的は当面の子育て問題の解決や、教育環境の整備が主要なテーマになりがちです。住宅取得時に40年後の自分をイメージして、後期高齢期の老後の住まいの配慮まで、考えが及びそうにありません。

しかし、必ず老後はやってきます。今後、単身高齢者世帯は絶対数、割合とも増加する見込で、家族からの見守りや日常のサポートが期待できない場合、多くの単身高齢者世帯は介護保険によるサービスで対応するしかありません。更に、単身で老後期を過ごすことになった場合、家族で住まうことを目的とした住宅では規模的にもそぐわないものになってしまいます。

そのサービスの質を維持し、効率的な介護を目指すには、サービスを受ける側も、環境になじめる元気なうちから、住み替えを前提に集住も視野に入れる必要があると思います。
その中で期待されているのが「サービス付高齢者向け住宅」という賃貸住宅です。




「サ高住」は賃貸住宅。サービスの質は専門家の意見を仰いで


サ高住は施設系の有料老人ホーム、特別養護老人ホームとは違いあくまで賃貸住宅です。提供可能なサービスは事業者にとってまちまちで、利用者としては、認知症・見取りといった難しい状況に置かれたときに、その事業者が「将来的に対応可能か」・「費用面での問題が無いか」の判断が必要になります。サ高住を選ぶ際、情報収集に費用をかけ、その分野の専門家から客観的な見解を得た方が良いかもしれません。





「市街地・駅近」にあまりない「サ高住」。街中「生産緑地」跡地にも期待


平成28年3月に閣議決定された新住生活基本計画(全国計画)によれば、高齢者向け住宅の供給戸数の目標は高齢者人口に対して2.1%(平成26年)→4%(平成37年)が掲げられています。しかし、地域によって供給のバラツキが多く、現状では1%台から3%台と3倍の差が出ています。

今後の単身高齢者の増加は東京圏近郊が著しく、2035年/2010年比は約1.6〜1.8倍になる見込みです。さらに急激な単身高齢者の増加は待機老人問題などの社会問題を抱えることになってしまいます。

一方、東京圏の後期高齢者数は2035年頃にピークを迎えると予想されています。今から高齢者住宅を新設しても20年後には利用者が減少していきますので、建物償却期間の面からも、立地や施設条件の厳しい物件から経営が厳しくなってくるものと思われます。

高齢者向け住宅が立地する土地価格は、低くなるほど高齢者人口に対する供給割合が増加しています。また、都市計画区域や利便性の指標から見ても、サ高住の立地状況は市街化区域以外が33%、駅徒歩圏以外が64%と、一般的に賃貸住宅適地と言われるエリア以外にも建設されている実態があります。さらに、高齢者人口に対する供給割合が高い地域ほど立地条件の悪いエリアでの供給となっています。



これらデータを見ても、サ高住は立地条件が厳しい土地の不動産活用のアイテムになっていることが伺われます。これは今後コンパクトシティ化を目指す自治体にとって、その自治体がいずれ定める立地適正化計画(人が住む地域、住まない地域の峻別)との整合性が問題になってきます。




その将来的な問題に対して、「検討会とりまとめ」では、「サ高住などの高齢者向け住宅は地域包括ケアの中心的な役割を果たすため、医療施設、公共交通機関とのアクセスなど、街づくりの中での政策的な立地誘導が求められる」と提言しています。

個人的には、1992年に改正され30年間の生産緑地法の適用を受けた都心部の農地が、期限が切れる2022年から、農業継承問題などを理由に市場へ供給されるケースもあるとみています。その土地に対し、税優遇と補助金の組み合わせをすることで、元生産緑地の「まちなかサ高住」も夢ではないと思われます。すでに不動産活用関連の業者さんは、生産緑地を所有する農家へアプローチを掛けているのではないでしょうか。

コンビニ出店と同じ? 「サ高住」の大半はサブリース


サ高住の土地建物の大半はサブリースにより運営されています。施設の事業者による土地所有は約5割、建物所有は約4割に留まっています。その原因は土地からの所有では、初期の事業費が嵩み経営が厳しくなることや、エリアの需給関係が厳しくなった場合の撤退コストのリスクヘッジの意味合いもあると思います。

また、事業者が自ら物件を選別し取得、開発するためのスタッフコストを考えますと、地主に不動産活用を提案する業者との連携で、持ち込まれる案件の検討をした方がより効率的になります。高齢者向け住宅は、コンビニなどと同じように地主、開発業者、事業者それぞれの立場での商材になっているようです。


「サ高住」は高齢版シェアハウス。自立→介護を見据えた設備仕様の充実が必要


サ高住の1棟当たりの住戸数平均は32戸、10戸〜30戸未満は50.9%と全体の半数を占めています。住戸床面積の平均は22㎡ですが、中央値的には20㎡〜25㎡未満が61.6%で、全体の約8割が25㎡未満です。都内のワンルームマンションの平均床面積が25㎡弱ですから、それよりも狭い住戸面積になっています。




設備状況はキッチン・浴室も完備されている割合は22%と低く、その設備が無い分、床面積もワンルームマンションより狭くなっているとも考えられます。不動産投資的に見ますと、各居室にキッチン・浴室設備を設けない場合、1戸当たり100〜150万円程コストダウンでき、1棟平均32戸ですから、1棟あたり3,200〜4,800万円コストダウンができます。将来的なメンテナンスコストも考えますと、キッチン・浴室を設けない計画は魅力的になります。

これら床面積、設備状況からみますと、利用者側は自分の借りている部屋で、調理をしなくてもよい(できない)、好きな時にシャワーや入浴をしなくてもよい(できない)利用者に限定されてきます。近年、賃貸物件は物件毎に自立性、個別性の確保されている建物計画が前提でしたが、近年都市部で増加しています「シェアハウスの高齢者版」ととらえることも出来ます。このような賃貸条件では、まだ自立生活できる高齢者にとって、検討に値する賃貸物件になっていないと思います。当初考えられていたように、自立できているうちから、介護を見据えて移り住む物件を望むのでしたら、アメリカで発祥したCCRCの日本版が普及するのを待つしかないと思われます。まだサ高住の市場では、利用者利便性の視点が、投資的に重要視されていないようです。

自分が知る限りのサ高住では、利用者が一般の賃貸住宅と同じように自由に出入りしているイメージはありません。どちらかと言えば、人気を感じさせない建物のイメージです。
バルコニーを設置していない建物は特にそのように感じます。おそらく、コスト削減・転落防止のためにバルコニーを設置せず、防火上の安全策はバルコニー以外で確保しているのでしょう。

「長生きリスク」にならないために複数のマネープラン・リスクヘッジを!


サ高住の入居費用平均は9.9万円/月(大都市圏11.7万円/月、地方圏8.5万円/月)です。高齢者対応物件になっているか否かは別にして、浴室・キッチン付きの近隣ワンルーム賃貸物件と比べれば倍以上の金額になっていると思われます。これは家賃の半分が日中の見守り、生活相談費用にあたることになります。家賃は地方の方が当然安くなりますが、しかし、その分、利便性が低くなるとも限りません。むしろ東京圏近郊の方がそれなりの家賃で、利便性が低いケースも考えられます。

検討会とりまとめでは、サ高住の立地適正化が課題として取り上げられています。利便性を考慮した自治体の誘導エリアに建築されたサ高住は、さらに家賃が高くなる可能性があります。その場合、サ高住は、ますます経済的に余力のある高齢者の住まいの選択肢になってしまいます。

利用費高額化対策や立地適正化への対応策として、既存建物の転用による有効利用、分散型サ高住などの取り組みが一部で始まっています。これから費用対効果の検証がなされると思います。低コスト運営手法の開発は、私自身も将来の利用者として期待しています。

どのタイプのサ高住を利用するにしても、現在の平均的な年金収入ではサ高住の家賃分は見込めません。その分の貯蓄の取り崩しか、持ち家の活用などによる家賃分の捻出が必要になります。誰も自身の寿命確定は事前に出来ません。参考程度に平均余命を確認したり、両親や親戚の年齢を重ね合わせたりすることぐらいです。「長生きリスク」と言うマイナスイメージの言葉がよぎらないためにも、いくつかのパターンでの老後期キャッシュフロー検討を行い、事前に老後期の住まいの選択肢を多く持てることがリスクヘッジにつながると思います。

この記事を書いたプロ

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