コラム

 公開日: 2016-04-04 

住宅メーカーのスタンダードとなるZEH(ゼッチ)を考察する

「ZEHの概要を知る」———政府が本格的に力を入れるZEH


日本も参加した2015年12月の第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)は、新たな温暖化防止を目指す国際協力の枠組み「パリ協定」を採択しました。

「パリ協定」の要件は、今世紀末までに世界平均気温上昇を産業革命以前から2℃未満に抑えることです。(このままですと今世紀末までに世界平均気温が4〜5℃上昇する見込み。その場合は海面上昇、気候変動などの被害が想定されています)

日本はその会議で、2030年度の温暖化ガス排出量を26%の削減目標を掲げました(2013年度比)。その削減目標を達成するには「日本のエネルギー消費量全体の約3割を占め、そして、年々消費量が大幅に増加している住宅・建築部門の消費量を抑える必要がある」と政府は判断を下したようです(住宅・建築部門消費量は2010年/1990年比で1.35倍)。

その対策の目玉となるのがZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及と考えられています。特に長期優良住宅は75年から90年の耐用年数が想定されており、今年の新築物件から断熱性能を満たし、エネルギー消費量の少ない住宅を建築しなければ、今世紀中の目標達成に影響が出てきます。

2014年に政府が定めたエネルギー基本計画では、「2020年までにZEHを標準的な新築住宅とする」(主要住宅メーカー年間施工件数の50%以上をZEH(略称名:ゼッチ)とする)と言う目標が盛り込まれていました。さらに平成27年12月にその目標達成のために「ZEHロードマップ」を取りまとめ、平成28年度予算においても引き続きZEH支援事業が組まれています。政府もその普及に本腰を上げてきました。

あと数年で名称として一般化すると思われる「ZEH」。その詳細や背景、立ち位置を2回に分けてレポートしたいと思います。





『ZEH』(ゼッチ)とは


日本における『ZEH』は、ZEHロードマップ検討委員会で平成27年12月に下記のように定義されました。
「外皮断熱性能を大幅に向上させ、高効率設備システムと再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量収支をゼロとすることを目指した住宅」

ZEHは下記イメージ図にあるように、高断熱外皮性能、高効率冷暖房、高効率給湯器、高効率照明、省エネ換気設備と再生可能エネルギー導入、HEMS(ホーム・エネルギー・マネージメント・システム)で構成されます。

HEMS(へムス)は、住宅における消費・創出エネルギーを「見える化」し、各機器のコントロール機能も兼ね備え、エネルギーの節約を目的とした装置です。ダイエットするには毎日体重計に乗り、意識を高めことから入る手法と似ています。

さらに建物の外皮性能は再生可能エネルギーを除き、基準エネルギー消費量(2013年基準)から一次エネルギー消費量を20%以上削減と定義されました。

再生可能エネルギーを加え一次エネルギー消費量削減率が75%以上100%未満となるZEHをNearly ZEHとして位置づけ、太陽光発電に適さない地域・土地などに対処し、南北に長い国情に合う基準も取り入れています。












欧米先行のZEH(ゼッチ)


日本のZEHは欧米から遅れてスタートしました。平成24年度から経産省補助事業として開始された時点では、一次エネルギー消費量削減率の要件の設定がなく、申請代行する住宅メーカーの建物仕様もまちまちでした。補助事業執行団体(一社)の「環境共創イニシアチブ(SII)」が定めた基準及び手続きにおける「エネルギー収支条件」が満たされ、性能の高い物件から順次補助を受けられる状態でした。

ZEH支援事業は平成24年度から開始されているのに、建物定義があいまいであったとは不思議です。日本にとって、それだけ試行錯誤でスタートした面が否めませんが、逆に言えば「斬新的な試みを残した状態でのスタート」という余り過去にない建築政策と思います。

今までの建築関連政策は、問題発生後に改善・新設される事後対策が多かった感があります。しかしZEH支援事業は欧米に習い、かつエネルギー政策を担う経産省主導で進められたことが斬新的スタートの原因かもしれません。


ZEHのコア「一次エネルギー消費量評価」は4項目のカタログ値


ZEHの定義にある、「一次エネルギー」とは何でしょうか?
一次エネルギーとは、石油・石炭などの化石燃料、原子力燃料、自然から得られる水力・太陽光などのエネルギー源を指します。それらを加工した電気・ガスが二次エネルギーと言われます。

ZEHは、「住宅に使われる対象となる二次エネルギー消費量を一次エネルギー消費量に換算し、そこからオンサイトの太陽光発電システムで作られた創エネ分を差し引きして、年間の一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロとなる」住宅を指します。

ZEHの対象となる住宅は戸建住宅が想定されています。
それはマンションなどの共同住宅は、後述する太陽光パネル搭載量が確保しづらいことが要因と考えられます。マンションは、非住宅用途で定義されるZEBの延長線上で取り扱いが定まってくるものと思います。

一次エネルギー消費量の換算対象は「冷暖房」「換気」「給湯」「照明」の4項目です。コンセントにつないで使う家電や調理で使用するエネルギー消費は対象としていません。それらを入れてしまいますと家族構成や、家電製品の使用頻度でばらつきが多く、住宅本体の省エネ性能評価が出来なくなるからです。

しかしながら、制度をよく理解せずに「年間の一次エネルギー消費量がゼロになる住宅」というセールストークをみると、すべてのエネルギーがゼロになると勘違いしそうです。

日本の場合、エネルギー消費量の収支評価は設計上の評価(想定値)となります。実質的な運用時の評価ではありません。自動車の燃費でカタログ値と実際の燃費に差があるように、冷暖房、給湯、照明は居住者の使い勝手で変化するものですので、設計上の性能と同じになる保証はありません。しかしながら、この制度では一定の基準で評価されますので、住宅メーカーやプランの違いでの建物の性能差評価はできます。

アメリカは世界の中で世帯当たりの住宅エネルギー消費量が最も多い国ですが、家電・調理のエネルギー消費量も評価し、尚且つ運用時の評価(実質値)も対象となっており実利的です。一方、現時点でのイギリスやEUが推奨する評価制度では、設計時(想定値)評価のみとなっています。

余談ですが、「新しい言葉」は当然ながら定義の範囲を正しくとらえることから、理解が始まります。近年、建築業界でも制度新設、改正されることが多く、そのたびに業界関係者でも頭を悩ますことになります。一般の消費者の方は住宅取得する機会も限られますので、住宅の将来価値を維持するために、建築制度を理解し、方向性を見極めるのは至難の業と思います。


太陽光発電システムは創エネの要


創エネ対象となる太陽光発電は「オンサイト」(建物敷地内)で発電されたものが対象ですので、実質的には屋根に搭載された太陽光発電システムとなります。

ZEHを極めるには、太陽光発電に向いた建築敷地の選定(形状、面積、高低差、隣接建物、気候風土)も念頭に入れる必要があります。発電量に影響のある屋根形状、日射は建築地の敷地条件でも決まってくる部分があります。南面に効率的に太陽光パネルが設置できる条件ですとコスパが見込まれます。また東西面に分散した配置では、発電効率が悪く費用対効果が低下します。

ちなみに平成26年補正予算分での太陽光搭載容量の平均は5.29kwでした。
この数値を、ZEHを考えるうえでのひとつの基準としても良いかと思います。

以前のコラムでもお伝えしたように、戸建住宅では敷地条件から「住まい方」が決まる要素が多く、プランニングで解決できる限界があります。それだけ建設地の選定は利便性の条件も含め、とても判断が難しいものです。


重要な項目、外皮性能と省エネ性


ZEHでまず重要にしたい項目が、建物の断熱性能である外皮性能です。外皮性能は地域別に定められ、建物の基準エネルギー消費量の計算において、窓などのガラス面を多く取り、リビングに吹き抜けを設置すると計算上不利になります。
若い世帯に人気のある「リビング階段」などは燃費効率を考えると難しい計画となります。

これからのプランの着眼点は「開放性<断熱性」になるかもしれません。もしくはコストアップさせずに、開放性を維持できる外皮性能の追求が、大手住宅メーカーの差別化要素となることも考えられます。

次回は、他の認定住宅との違い、ZEHの日本における制度と現状をお伝えします。

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