コラム

 公開日: 2016-03-06  最終更新日: 2016-03-10

見落とせない「住まいの新たな評価軸」 〜住宅内事故に直結する断熱・家計の負担を軽くする省エネ性〜

日本はオイルショック以後、産業を中心に省エネに努め、全体のエネルギー消費量は1990年-2012年比では3%の伸びにとどまっています。しかしながら建築物、住宅のエネルギー消費量の割合は30%以上の伸びと突出しています。





東日本大震災以降、より一層エネルギー需給がひっ迫している背景から、建築物の抜本的な省エネ対策として、該当建物は基準クリアを要件とする「建築物省エネルギー法」が平成27年7月に公布されました。

今回のコラムでは、より一層の性能強化が求められる日本の住宅の断熱性能について、現状と方向性を探ってみたいと思います。


進まぬ現状。ヒートショックが潜む断熱性の低い住宅


現在の住宅ストック約5,000万戸の住宅性能の内訳を見ますと、約40%が未だに無断熱の建物になっています。その後何度か基準改正が行われましたが、次世代省エネ基準とされた平成11年基準を満たす住宅は、全体の5%という低さです。データ集計が行われた平成24年まで、13年という時間があったにもかかわらず、平成11年基準をクリアする住宅は普及していません。断熱性能基準を満たすことが建築確認許可の要件になっていなかったことが原因かもしれませんが、それにしても日本人は暑さ、寒さに対し「がまん」で対応することが得意なのでしょうか。

しかし、住宅内の寒さに関しては特に健康上の問題があることが、データでも明確になりました。東京都健康長寿医療センター研究所の平成25年研究報告によりますと「2011年の1年間で入浴中のヒートショック関連死推計は約17,000人(内高齢者は14,000人と推計)」という結果が出ています。これはその年の交通事故死亡者(4,611人)を大きく上回る数値です。同研究所は、「冬場の住戸内の温度管理で予防すること」「建物の断熱性能を上げること」を強く提言しています。

日本の夏は蒸し暑いので「風通しの良い家をよし」とする吉田兼好の「住まいは夏を旨にすべし」ですと、超高齢化社会の日本では、重大な事態を身近に目の当たりにすることも考えられます。データから見ますと断熱性能には、交通事故以上の注意を払う必要があるかもしれません。








オリンピックイヤーに義務化される断熱性能基準。業界の構図が変わる?


新たな断熱性能基準が平成25年に規定され、平成27年4月に完全施行されました。新たな基準は「温熱環境・省エネルギー消費量」に改正され、外皮の断熱性能と、一次エネルギー消費量(住宅は冷暖房、給湯、換気、照明の一次エネルギー消費量と太陽光などの創エネルギー換算値で評価)に分けて評価することになりました。外皮断熱性能(窓、外壁、天井、床)はほぼ平成11年基準ですが、計算法の変更(建物床面積当たりから建物外皮面積当たりへ)とエリア区分が6区分から8区分に変更され、より比較評価できるものへ変えられました。

政府は2020年に新築物件からこの改正省エネ基準を義務化へ向けて、体制整備を進めていく予定としています。特に零細な工務店では平成11年基準での住宅施工事例が低い実態となっていますので、技術指導をどのように進めていくかが課題となっています。その点、大手住宅メーカーでは既に制度を先取りした商品開発を進めていますので、改正省エネ基準義務化でも大きな制約にならないと思われます。

基準や制度が高度化するにつれ、新築物件は年間300棟以上供給する大手やフランチャイザ―に集約される可能性もあります。その翼下に属さない、年間5棟程度の施工実績の町の工務店は、リフォーム工事を担当することになるかもしれません。自動車メーカーと町の修理車検工場のような関係も考えられます。


「暖める」ほうがコスト高。効率の良い暖房を考える


住まいの冷房と暖房のエネルギー消費量のうち、どちらが多いか感覚的にとらえますと、冷房がエネルギーを多く使っているイメージを持ちます。工場、オフィス、店舗などを含めた全体の使用電力は、夏の高校野球の試合頃にピーク報道がなされますので、どうしても冷房のエネルギー負荷が高いイメージが定着しています。

しかし、仮に住宅においての温度差で比較してみますと「夏場は外気33℃、室内26℃の場合、温度差7℃」「冬場は外気8度、室内22度の場合、温度差14℃」となりますから、圧倒的に暖房の熱負荷が高いことは考えたら理解できます。

家庭内の用途別エネルギー消費量を見ますと、冷房より暖房が10倍以上消費しています。それでも日本人は冬場の省エネ対策として、部分間欠暖房(家全体ではなく、人がいる部屋を暖房。いないときは暖房しない)の習慣が定着しています。トイレ、洗面、浴室などは常時人がいませんので、居室との温度差があるのは当たり前で、慣れてしまっているかもしれません。しかし冒頭で取り上げましたように、ヒートショックによる健康被害対策のことも考えますと、住戸内の温度差を無くし、省エネもしなければならない時代に変わっていくことになります。

最近は発熱源となるIT機器が家庭内にも多く普及し、減らすことは難しいと思います。そのような中で、住宅の省エネルギー化をはかるには、暖房、給湯、照明の効率化を進めることになります。それは照明器具のLED化、給湯は潜熱回収型・水栓の省エネ化、暖房は高効率エアコンの採用・建物の高断熱化が必要になります。





窓に注目!「窓の性能」で変わる冷暖房の省エネ効率


住宅の部位別の熱の出入りをみますと、夏は窓から7割の熱が入り、冬は窓から5割の熱が出ていく計算例があります。この数値から見ますと「窓が無い家は一番断熱性が高い」ということになりますが、そのような家には誰も住みたくないと思います。まずは「窓の断熱性能を上げ、落葉樹の植栽や、簾などで夏の日射を遮る工夫は効率的な省エネにつながる」と理解することが重要です。

また、冬場は窓からの日射の取り入れも、熱を享受できる有効な省エネ方法となります。日当たりが確保できる南面道路の敷地は、より開放的で省エネ性能も優れた高性能な敷地と言えるのではないでしょうか。敷地条件を見極めることも(北、東西道路では南側隣地建物の影の影響を受けにくい、敷地の空き寸法の確保が出来るか否か)住宅の省エネ性能を考えるうえで重要になります。






忘れてはいけない、「気密」の重要性


当然ながら断熱性能を有効にするには、建物の気密性能もセットで考える必要があります。隙間風が入り込む家では、いくら厚みのある断熱材を使用しても意味がありません。また、断熱層の中で気密が取れていない箇所がりますと、内部結露の問題も心配になります。見えにくい部分での結露は建物躯体の耐久性低下やカビの発生によるアレルギー問題につながる可能性もあります。

平成11年省エネ基準に規定されていました気密性能基準(C値=相当隙間面積)は、平成21年に除外されてしまいました。それまで各住宅メーカーでは「C値データ」をカタログに掲示し競い合っていました。しかし、その性能は施工精度で大きく性能が左右されもので、実質性能のバラツキが多く、図面上のスペックで規定することは難しい性能でした。正確には完成後に測定器を設置しその性能を確認するしかなかったのです。

完成後の性能判定では図面による事前審査よる規定もできませんので、省エネ基準から除外されたものと思われます。しかしながら、研究者の前真之氏は「気密なき断熱は無力」と提言していますように、気密性能は住まいの断熱性能と合わせてこだわりを持つ必要があります。

リフォームでの断熱改修を考えた場合、新築より難易度が高いものと思います。それは対象の建物に使用された材質、納まり、施工精度を熟知し、断熱材の欠損や隙間をつくらず、結露問題を発生させない設計、施工能力が問われる難問です。後に窓位置変更などの建物外皮部分を変更するリフォームをしないよう、ライフプランに合わせた事前計画の詰めが、賢い選択につながるものと思います。

住宅を購入する消費者としましては、その住宅業者の断熱性へのこだわりだけではなく、気密性能の保持のために、どのような納まり、施工基準を持ち合わせているか確認したいものです。


日本も断熱後進国から脱却、新たな住まいの評価軸へ


日本の省エネ基準や窓の性能は、欧米の基準に比べまだ低いものになっています。アメリカの一部の州では、熱伝導率が高いアルミサッシの販売が規制されていたり、日本では性能が高いと言われている窓が、ドイツでは最低基準の窓であったりします。それだけ日本は「断熱後進国」のようです。またイギリス、ドイツでは住宅の売買・賃貸の際に、計画時評価、運用時評価としてのエネルギーパス明示(燃費の表示)をしています。それらの国は日本より寒さが厳しく、住宅のエネルギー消費量も多くなっていますが、断熱、結露に対する意識が根本的に違うのかもしれません。

日本においても平成28年4月から、該当する建物に対する省エネラベリング制度が始まります。それは家電製品の省エネ性能や自動車の燃費性能のように、建物においても性能比較しやすくなりますので、省エネ性能は「新たな住まいの評価軸」になる可能性を秘めています。

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