コラム

 公開日: 2016-02-15  最終更新日: 2016-02-19

これからの住宅に求められる性能(1) 耐震性

地震調査研究本部にて2014年4月に発表された長期評価では、首都圏(150km×150km)の範囲で今後30年以内にマグニチュード7クラスの直化型地震の発生確率は約70%とされています。地震多発の日本において、住まいは家族を守るシェルターと考えた場合、耐震性能は初めに着目したい性能です。
今回は住まいの耐震化施策の変遷を踏まえ、耐震性の観点から何を重点にしていくべきか改めて考察してみましょう。


新耐震基準のきっかけ、宮城県沖地震


日本の国土面積の世界に占める割合は約1%ですが、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の内、約2割は日本周辺で発生しています。記憶に新しいところでは2011年東日本大震災、2004年新潟中越大震災、1995年阪神淡路大震災など、尊い人命、資産を失う大きな災害がありました。
過去、大きな地震の後に建築基準法も改正され耐震基準が強化されています。

旧耐震、新耐震という言葉も普及し、一般の方も耳にする機会も増えています。この新耐震基準は1978年に発生した宮城県沖地震を受け1981年6月1日に建築基準法施行令が改正されました。
それ以降に建築確認許可を取得した物件を新耐震建物、それ以前を旧耐震建物と分類しています。建物の完成年月日ではありません、あくまで建築許可年月日です。
この改正では中地震の場合、建物荷重の20%の水平力を受けても壊れない、大地震の場合は荷重の100%の水平力を受けても倒れないという基準が設けられました。

阪神淡路大震災での鉄筋コンクリート造建築物の被害状況は
旧耐震(  〜1972年以前)大破・中破13.4% 小破  6%  軽微・無80.6%
旧耐震(1972年〜1981年) 大破・中破   5% 小破6.7% 軽微・無86.3%
新耐震(1981年〜     ) 大破・中破 1.6% 小破5.6%  軽微・無92.7%
データから見ても新耐震基準での被害は明らかに低下しています。


旧耐震・新耐震基準建物の実態と関連政策


全住宅ストックの内、新耐震基準を満たす建物は平成25年において約82%になっています。政府では耐震改修の補助、建替えの促進を進め、平成37年には耐震化率97%を目標に平成28年3月に住生活基本計画の改定を進めています。達成すれば、今から10年後には既存住宅のほぼ全数が新耐震基準になります。





この中で旧耐震の分譲マンションが約100万戸あり、その耐震診断と補強工事若しくは建替えが必要になります。高経年マンションは所有者も高齢化が進み、賃貸に出す物件も増え、管理組合の運営が難しくなる傾向です。建替えするには、予算の確保と5分の4の賛成という区分所有法の高い壁を乗り超えながら進めていく必要があります。

さらに東京都では、平成23年に「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化促進条例」が公布されました。これは震災時に緊急輸送道路が建物の倒壊による閉塞を避けるため、その沿道の旧耐震建物の耐震化を促進する目的で制定されたものです。
対象となる旧耐震建物は耐震診断が義務化され、耐震化工事推奨対象になります。耐震診断を実施しない建物は公表される規定になっており、平成26年度末で耐震診断実施が確認できない建物は259件ありました。

この条例では「該当旧耐震建物は既存不適格」と同じような扱いを受けることになります。それらが公表されることで、資産価値にも影響が出る可能性があります。
ちなみに平成27年7月時点で対象沿道建物の耐震化率80.4%、耐震診断実施率は91.8%です。このような条例は各自治体で施行されていますので、旧耐震建物は助成制度も含め一度自治体に確認することをお勧めします。


「マンション建替え円滑化法」も改正。耐震化への糸口たるか


地震・津波などの自然災害から建物の構造にダメージを受け耐震不足になる事例も発生し、補修するには多大な費用が掛かり、かつ予算的に建替えも計画できないマンションも出てきました。これらを打開するため2014年(平成26年)に「マンション建て替え円滑化法」が一部改正され、耐震不足認定マンションは建替えの他、5分の4の区分有者の賛成で敷地売却後管理組合を解散し、区分所有関係を解消できる手法も選択できるようになりました。
それ以前は区分所有の解消には民法の規定から全員の合意が必要で、実質不可能な状態です。敷地売却による区分所有の解消は欧米で多く取られている手法で、区分所有者による「建替え」にこだわっていたのは日本の特徴のようです。

今後の住宅需要を考えますと、この流れは耐震不足マンション以外に管理不全の高経年マンションの解決策の手法として広がる可能性もあります。敷地評価が低いマンションは事前に建物解体費用の積み立ても必要になるかもしれません。


より安定した構造を目指した2000年基準とは


次に2000年(平成12年)に耐震基準が再度改正され、「ねじれ」に対する強度を保つために偏心率(建物の重心と剛心のずれの度合)が規定され、耐力壁のバランスが重要視されるようになりました。さらに地盤調査に義務化、接合部金物の規定も加わり木造建物の耐震化が進みました。

木耐協による2014年調査結果では、新耐震基準で確認許可を取得し、2000年6月(平成12年改正前)までに建築された木造戸建住宅(10,366棟)の耐震診断を実施したところ、約85%の住宅に何らかの耐震性の問題がある結果となっていました。

これは新耐震基準を満たした建物でも、耐力壁バランスが悪いと地震力によってねじれてしまうことにもなります。たとえば日当たりの要望から、南面のリビングに大きな開口部を設け、北面に無窓の壁が多いケースなどです。内部耐力壁もリビングがある為に南側には寄りませんのでバランスを欠いた建物になりやすいです。その間取りの要望を満たすにはかなりコストアップしますが、建物構造を木造から鉄骨ラーメン構造などへの根本的な変更が必要となります。

特に建築許可年月日2000年6月1日以降が構造的に大きな節目になります。先に示しましたように、2000年6月の改正以降は1981年の新耐震基準より安定した構造を得られる基準ですので、もし既存住宅購入を検討する際は2000年6月以降(築年数では約14年程まで)の確認許可取得物件を意識して検討されるのも良いかもしれません。

しかし、その基準を満たしている戸建住宅は図表にありますように全既存住宅5,210万戸の内11.6%の約605.3万戸と推計されています。既存住宅を検討する場合、どちらかといえばエリアを限定して探される方も多く、築年数からもその売却物件に出会う機会は、まだ少ないかもしれません。





災害、事件ごとにアップデートされる耐震基準。常に最新版に注目


2007年(平成19年)にはいわゆる耐震偽装事件「姉歯事件」を受け、構造計算手法が大幅に改正され、ピュアチェック制度(二重チェック)が導入されました。この改正で設計業務が大幅に遅れ、その年の建築着工数が低下し官製不況とも揶揄される事態になりました。
このように大きな災害・事件がありますと、それに呼応するように法律が改正されていきます。

平成28年度も建築基準法改正予定があり、超高層建築(高さ60m〜)の長周期地震動に対する規制強化がなされます。既存建築物に対しても新基準でのシミュレーションを促し、タワーマンションなどの一定の用途の建物は詳細診断費用、耐震化計画策定費用、制震改修費用などには耐震対策緊急促進事業支援を利用可能予定です。
このように法律、基準は適宜改正される可能性がありますので、取得済みの住まいが新築時の基準で適法でもその後の法令に適合しているか否か、常に注意を払う必要があります。それが自然災害の多い日本での重要なスタンスです。


地震保険もお得になる!「住宅性能表示制度」利用の戸建て住宅


住宅性能評価を受け、最高ランクの耐震等級3(耐震得級1(建築基準法基準)の1.5倍の強度)を取得しますと、地震保険が50%引きになります。近年地震保険はエリアによって大幅に上昇していますので、安心が増し保険がお得になる制度です。戸建住宅は施主の考え方次第で耐震等級最高ランクを取得しやすくなります。

耐震得級3を取得するには、耐力壁の1、2階の重なり、平面的なバランス、大きな吹き抜けを設けず2階床水平構面の確保などが必要になりますので、複雑な建物シルエットが希望ですと取得が難しくなります。
逆に太陽光発電システム搭載を希望する場合は、建物シルエットと南面屋根形状をシンプルにし屋根面積の最大化をはかる必要がありますので、耐震等級3が取得しやすくなると思います。

地震大国日本において、耐震性能・地震保険の観点から検討しますと、嗜好はインテリアやエクステリアで追求し、建物計画はシンプルにすることも一案と思えます。

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