コラム

 公開日: 2016-01-25  最終更新日: 2016-01-26

データから読み解く、日本の住まいの実状と深刻な問題

毎年の新設住宅着工数は経済指標にもなっている関係から、報道で取り上げられる機会が多いと思います。しかし、この指標は、住宅取得予定の消費者には「現在ブームであるか」などと気になる数字ですが、既に取得済みの方には自分の住まいがストック全体の中でどのような位置づけになっているか把握できません。今回のコラムでは日本の住まいの全体像を各データから紹介してみたいと思います。

住宅を取得しない働き世代。老後のマネープランが重要

持ち家世帯率(住宅取得率)を見ますと、世帯主年齢60歳代以上ですと近年安定して約8割の方が持ち家を所有しています。バブル以前の右肩上がりの成長が期待されていた時代までは、社会人になり家庭を持つと住まいを取得することは一つの目標であり、ステータスであったと思います。自分自身もそうでした。

しかし、近年は住宅1次取得者層といわれる30、40歳代世帯主の持ち家率が低下傾向です。これは低成長、デフレ経済、非正規雇用増加、晩婚化、生涯未婚率上昇などを反映した結果なのかもしれません。独身では職場に近く、商業施設が整った地域で1R、1LDKの引っ越しなどの融通が利きやすい賃貸で十分という気持ちも理解できます。また、兄弟姉妹の人数が少なくなれば、いずれ両親、祖父母が建てた住まいをその立地次第で利用する機会も増え、自ら新規に取得する必要が無い場合も考えられます。さらに一人っ子同士が結婚すれば将来親の家が余る可能性も高くなります。






以前のコラムでも取り上げましたように気になる点として、非正規雇用増加などが第1次取得層の持ち家率を低下させている理由である場合です。賃貸のままでその条件の方が高齢期を迎えたときに受給する年金も少なく、経済的な破綻に結びつきやすくなることです。さらにマクロ経済スライドの発動などで、将来の年金所得代替率が低下することも見込まれており、追い打ちをかけることになります。

賃貸のままで老後期を迎える場合、現役時代から老後期を見据えたライフプランを整えておく必要があります。それは老後資金に加え家賃分の資金を事前に確保する必要があるということです。

2014年版家計調査によりますと、家賃を含まない平均的な高齢夫婦無職世帯の家計支出は約27万円/月です。その内訳は年金などの定期収入分が約21万円、約6万円を貯蓄から取り崩しています。高齢単身無職世帯では支出が約16万円/月、内貯蓄からの取り崩しが約5万円/月。当然ながら1人だからといって生活費は夫婦世帯の半分になりませんので、単身になった場合のライフプランも事前検討を要します。


減少傾向にある住まいの公的セーフティーネット


今まで住まいのセーフティーネットの役割を果たしてきました公営住宅は、財政的な理由から増設されず減少傾向です。平成25年度応募倍率は全国平均6.6倍、東京都は26.6倍の狭き門になっています。更に現在の公営住宅ストックの中身をみますと、築年数30年以上が約6割を占め、性能、築年数からいずれ利用の限界も見えてきます。





平成27年度は住生活基本法の基本計画見直しの年にあたっており、審議会の重要テーマにこの住宅セーフティーネット対策もあがっています。今後の政策として民間の空き家を借上げ公営住宅に転用する方針も平成28年1月に報道されました。しかし空き家は立地、築年数、性能などの面で利用が難しい根本的な理由を抱えている可能性もあります。再活用するにはハードルが高く、手を入れたとしても費用対効果が見込まれない物件も多いと予想しています。この空き家問題は別の機会にコラムでその詳細を取り上げたいと思います。

当然ながら借上げ公営住宅制度は、政府が誘導しようとしている性能、規準を度返しすることは無いと思われます。したがってこと制度は条件を満たした賃貸住宅を建築することで、新たな相続対策として活用される可能性があります。資産家にとって公的な存在の借り手は利益が薄くとも賃貸経営を安定化させ、安心して不動産活用により相続財産評価額を下げ、相続税の節税効果を高めることになるからです。へたをすれば賃貸住宅の空き家を増加されることにもなりかねません。タワーマンションの評価法を見直す方向性のように、そろそろ相続財産評価の考え方も人口減少時代を反映したものに変える必要があるかもしれません。


本当は昭和40年代から溢れている住宅


住宅土地統計調査からみますと、現状の住宅ストック数6,063万戸は総世帯数5,245万世帯を約16%も上回り、約850万戸が空き家の状態です。

このデータから見て驚いたのは、既に住宅ストック数は昭和43年に世帯数を上回っていたことです。平成になっても年間の新設住宅着工戸数が現在の2倍近くの170万戸の業界を経験した自分にとっても、長年、如何に数量を充足させることが続けられてきた結果であるか改めて実感した次第です。

2014年の住宅土地統計調査速報の「空き家率13.5%に上昇」報道から注目された空き家問題、実家問題は昭和40年代から既に内在していたことになります。

当初推計されていました2010年より2年ほど早く2008年には日本の人口減少が始まり、世帯数も2019年がピークと推計されています。これからの高齢化と人口減少を考えますと旧耐震の空き家除却に補助や税優遇があるように、利用価値が低い建物は除却を進めていくよう様々な政策インセンティブが取られていく可能性が高いと思います。






わずか3.2%‼ 性能を満たす住宅ストック数


既に量的には住宅ストック数は満たされていますが、性能別で現状分析しました国土交通省のデータをみますと、構造、断熱、バリアフリーの各性能とも満たし、将来に継承可能な住宅はたった200万戸のみで、ストック総数から見ますと3.2%です。これも驚愕の数値です。

年を追うごとに新たな基準、法律が施行され既存住宅の性能が追い付かないのは理解できます。しかし、ここまでの数値の低さは毎年の新設住宅において、性能をより高度へ誘導する政策、消費者の理解、業界の取り組みの歩調がうまく合わなかった結果と受け止めています。それは前回のコラムで取り上げました20%台という性能を評価する住宅性能表示制度利用率の低さにも如実に表れています。

まず今後、2020年に新設住宅への義務化が予定されています改正省エネ基準へのすみやかな移行に期待したいものです。さらに長期優良住宅などの推奨性能住宅への税優遇を強化する政策が進められれば、性能に対する意識が大きく変わる可能性が高いと思っています。





性能・ニーズにミスマッチな既存住宅活用


住生活基本計画の見直し方向性から、今後はさらに新設住宅性能重視、既存住宅性能向上への誘導政策が実施される可能性が高いと思います。しかし、既存住宅の改修による性能向上は費用対効果や利便性向上が見込まれるか疑問の残るところです。

そもそも世帯人員が将来的に減少すること、さらに人口の高齢化が進むことは既知の事実であり、それを世帯人員が多かった時代のある意味ミスマッチしている建物を既存住宅活用の旗印のもとに「まずは活用あるべき」とするのではなく、基準に満たない建物は除却、建替えも前提に誘導されることも必要かと思います。

戸建住宅では建物配置も含めて、構造的な制約から1階のプランゾーニングは改修では変えられない部分も多くバリアフリー化の限界も出てきます。さらに断熱、気密、耐震性能を向上させるには、下地まではがしスケルトン状態にする必要があります。また給排水管、配線の更新も考慮しますと、再建築に近い金額になりかねません。

既存住宅活用にあたっては消費者側でも個々の物件毎に将来的な家族のニーズに合うか、まずは基本的条件の見極めがさらに重要になってくると思います。

裁量がきく戸建住宅も立地、敷地条件とライフサイクルコストで考える


最後に、消費者にとって全体像とその経緯が分かりますと問題点が見えやすくなり、新築、既存利用どちらにおいても求めるべき方向性が定まってくると思います。

まず性能などのイニシャルコストに重点をおくことが住宅のライフサイクルコスト低下に結びつき、安全性が高まりより快適に過ごせます。もし日本人の質素、堅実な国民性が将来価値へ目を向けることへの障害になり、結果的にお得になることの気づきを妨げているのであれば、残念ですが強制力を持たせた制度にならなければ住宅性能の改善ができないのかもしれません。その際は部材の量産効果でのコスト低減に期待したいものです。

さらに住宅の長期利用を考えますと、次世代(相続人、既存購入者)へ住まいを継承することが前提となります。マンションに比べ取得者の裁量がききやすい戸建住宅の選定にあたっては、まず立地を含めた敷地条件の見極めが継承力を高めます。それは新築取得世代としての重要な出口戦略ポイントになるのかもしれません

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