コラム

 公開日: 2015-12-30 

危険対策・管理責任・相続問題など不動産価値に直結する「がけ条例」

既に「がけ条例」という言葉をご存知の方は業界通ということになります。
業界人であれば一度は必ずその条例の対策を検討する経験を積みます。がけ条例は建築基準法に基づき都道府県による建築基準法施行条例でその規制がなされ,それに適合していませんと築造コスト、対策コストが思った以上にかかり不動産の価値に大きく影響します。
今回は、債務超過状態の不動産ともなりかねない「がけ条例」につきまして説明をしていきたいと思います。


「がけ条例」とは


まず、建築基準法上の「がけ」の定義は斜面の傾斜度30°以上で敷地高低差2mを超える土地です(但し硬岩盤のものは除く)。
規制の内容は、下図のように「がけ上」に建築する場合は「がけ下」から高低差の1.5倍の離れ、「がけ下」の場合は「がけ上」から高低差の2倍の離れを取る必要があります。土砂崩れなどの防災上の観点から、「がけ」の所有者でなくとも「がけ下」の方にも負担がある規制です。



都市の「自然がけ」はもはや住宅地


関東地域の台地では、その端部や河川の浸食谷で「がけ」の状態が形成されています。土質が関東ローム層でおおわれており、がけの傾斜度30°を超えると土砂崩れの危険があります。この角度を「安息角」といい多くの自治体では傾斜度30°以下で規制しています。但し、横浜市などでは関東ローム層であれば安息角を35°以下(がけの高さ5m以上の場合)の規制です。自治体によって条例、規則が異なる場合がありますので、事前調査、相談が重要になります。

スキーをされる方はご存知と思いますが傾斜度35°を超えるゲレンデは、自分が斜面に立った時の目の高さも加わり絶壁に感じてしまう角度です。都市部ではこのような自然がけの地形においても宅地開発され住宅地として多く利用されています。


高額な施工費になりがちな「がけ」対策の擁壁工事


離れが確保できない場合の対策としましては、「斜面を30°以下に削る」「規準に合う擁壁を構築」「基礎を支持層まで到達させる」などがあり、さらに「がけ下」の敷地では「防護壁を構築」「建物のがけに面した部分を無窓のRC造にする」などがあります。一般的には「RC造擁壁」か「間知積み擁壁」を構築し、敷地を平坦にする造成を施す事例が多くなっています。

建築基準法では2m以上の高さのある土留めを擁壁と規定しています。当然ながらその擁壁も「がけ条例」の対象となります。「がけ」の表記からは「自然がけ」のイメージが先行してしまいますので、その人工の構造物を「がけ」と表現されますと言葉のイメージと合わずピンときません。

しかし都市部の住宅地においては敷地面積を有効に利用する手段として「がけ」を支える擁壁構築は「がけ条例」対策の有効な手法です。しかし、そのRC擁壁の構築はボーリング調査による土質と地盤の強度、土圧や建物の荷重などに基づく構造設計が求められ、多くは不同沈下対策の基礎杭を必要とし高額な施工費になってしまいます。住宅取得、相続に際して「がけ条例」の適用を受ける物件は事前の擁壁予算把握がポイントになります。


都市部に多く潜む「がけ」=斜面住宅地


さらに高低差で「がけ」をとらえますと、敷地高低差2m以上の土地は住宅地では意外と身近にあります。斜面の傾斜度15%(角度8.6°)の土地であれば、住宅の敷地は平坦にするため一般的に多い戸建住宅の敷地間口14m〜15mですと、敷地の斜面下側で隣地や道路との高低差は2mを確実に超えてしまいます。

「日本の斜面都市」((財)日本開発構想研究所 西沢氏)の研究報告では、傾斜度15%以上のDID面積(DID=人口集中地区:4,000人/㎢の基本単位区が隣接し人口が5,000人以上となる地区)が一番多い都市は横浜市でその面積は4,734ha、続いて長崎市、広島市、神戸市となっていました。都道府県別では神奈川県の斜面住宅地が最も多く、坂の町が多いということになります。神奈川県では国道や私鉄の多くは平坦な部分を通り、その周辺の斜面に住宅地が広がっているイメージを以前から持っていましたが、データ的にも裏付けされ納得した次第です。

全国的には傾斜度1%未満の平野部のDID面積が51.8%と大半ですが、利便性が高い都市部では斜面の宅地化が進み、先ほど述べましたように身近に「がけ」が存在します。
戸建分譲住宅の広告で「日当たり良い南ひな壇の分譲地」と謳われる物件を見かけたりしますが、それはその中の物件によっては、敷地に擁壁などの「がけ」を生じている可能性があるということにもなります。分譲業者は一部の区画で擁壁が必要になっても、そのコストは全区画の造成費用に含めますので、その区画だけに擁壁コスト分を販売価格に転嫁することはありません。しかし、その後の管理責任は擁壁を含む土地所有者になります。


擁壁も建物と同じように管理対象。隣地の擁壁にも注目


擁壁を含む敷地の場合、施工後もその擁壁の状態に変質(不同沈下、はらみ、クラックなど)が見られないか定期的な点検も必要です。個人所有の場合はマンションのように予算を組み大規模修繕前の事前調査などは実施しませんので、問題点を事前に把握する機会が少ないと思われます。しかし、所有者は「万が一の場合、工作物の所有者責任を負う」という認識と「法律、規準の基礎知識を持つ」という意識が重要になります。法規制上からも「がけ下」の所有者は隣地擁壁の状態にも注目することが必要です。


再構築は手痛い出費。擁壁工事は専門家のチェックが必須


「がけ」対策の多くは擁壁の構築で対処されています。しかし、その擁壁を工作物申請、完了検査などの正規手続きを経ずに構築しますと、不適格(違反状態)になり不動産価値を大きく毀損してしまいます。さらに擁壁工事完了後の土留めの追加などの形質の変更や地下車庫設置などの形態の変更でも不適格になりえます。
このような形質や形態の変更は構造条件が異なってしまいますので、補強対策では合法的にならず再構築が必要になるケースもあります。また、不適格擁壁は隣地に「がけ条例」対策を強いることにもなりかねません。

立地によって擁壁の再構築は施工上も住宅地の面積、前面道路幅員からも工事車両による通行止めなど近隣の協力無しではかなり難易度が高い工事になってしまいます。さらに冒頭でお伝えしたように土地の価格より擁壁の再構築費用がかさむ「債務超過状態」もありえます。

さらに前回でご案内しましたように、建築基準法42条2項道路に面した敷地のセットバックを伴う擁壁の構築は細心の注意が必要になります。担当の設計者、施工業者だけに頼ることだけではなく、セカンドオピニオン的に有償による外部専門家のチェックを入れることもお勧めしたいです。


不動産購入、相続の準備は正しい現状把握から


「がけ地」「既存擁壁」に隣接している場合は、まず「その所有者はだれか」という意味合いからも、がけや擁壁部分の境界確定が必須です。先にも述べましたように、ご自分が所有している敷地が隣地所有のがけや既存擁壁の「がけ下」の場合でも「がけ条例」の対象になります。

中古物件の仲介では不適格擁壁の影響を受ける場合「この物件はがけ条例の適用を受けます」との告知までで不動産仲介業者は法的な問題はありません。そのような場合は具体的な影響度合い、予算把握のためにも専門家への調査依頼が必要です。
また相続の準備については,被相続人の土地が「がけ条例」に適合しているか否かの現状把握も考えますと、税理士の方のみではその判別が難しいと思われます。さらに相続税評価において「がけ上」の土地については「がけ地補正率」など評価制度がありますが「がけ下」の場合の規定はありません。

購入検討の不動産、所有不動産、相続予定の不動産が2m以上の敷地高低差がある場合は建築規制上の問題が無いか、活用が可能か事前に専門家の門を叩いては如何でしょうか。「早めの現状把握」から正しい判断が生まれます。

次回以降から建物の性能、構造につて解説をしていきます。

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