コラム

 公開日: 2013-01-27  最終更新日: 2013-02-03

「行間を読む」~高村光太郎『レモン哀歌』より 第1回

 国語力、読解力を伸ばすためには、「行間」が読めるようになること、そうなるための指導が重要であることを、先日来ご報告させていただいております。今回は、よりわかりやすく、人口に膾炙している詩の名作の力を借りて、ご案内しましょう。

 作品は、高村光太郎の『レモン哀歌』です。まずは作品をご一読下さい。あとの解説の必要上、各行に番号を記しましたことを、作者および読者のみなさまにお詫び申し上げます。


    レモン哀歌
                高村光太郎

①そんなにもあなたはレモンを待つてゐた           ②かなしく白くあかるい死の床で               
③わたしの手からとつた一つのレモンを            
④あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ            
⑤トパアズいろの香気が立つ                 
⑥その数滴の天のものなるレモンの汁は          
⑦ぱつとあなたの意識を正常にした              
⑧あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ           
⑨私の手を握るあなたの力の健康さよ            
⑩あなたの咽喉に嵐はあるが                 
⑪かういふ命の瀬戸ぎはに                  
⑫智恵子はもとの智恵子となり                
⑬生涯の愛を一瞬にかたむけた                
⑭それからひと時                      
⑮昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして            
⑯あなたの機関はそれなり止まつた              
⑰写真の前に挿した桜の花かげに               
⑱すずしく光るレモンを今日も置かう             
 

 (表記は、旺文社文庫『高村光太郎詩集』北川太一編 によります)

 この詩は、音韻と、一行ごとのかかわり/独立の妙の極致をみせる絶唱ですが、また意味上「行間」を読む上でも、非常に深いものを内包しています。

 「行間を読む」とは、すでに述べた通り、「直接には書かれていない背景や心情を読みとること」です。「行」と「行」の間を読むわけではないのですが、このような詩においては、一行ごとのつながり、関連を考えることにも、深い意味があります。

 では実際に、作品を読み込んでみます。行の番号で示すスパンごとに、

A 文学史的知識を問わない、すなわち光太郎と智恵子のことをほとんど知らない読者の読み方
B 一定程度以上、二人のことを知っている読者の読み方

を示します。

①~④  
 Aにあっては、避け得ない死別に際してレモンをのぞんだ去る者の切ない思いと、それを満たしながらも、決して満たされることのない自身の思いを抑えながら、ひたすらに去る者の魂を浄めたいとねがう見送る者の祈りとを、読みとることができるでしょう。
 Bならば、ここに至るまでの智恵子の病歴と光太郎の苦しみ、「そんなにも」レモンをのぞんだ智恵子の心がいずこより来るものか、そして唯一光太郎の芸術を介して結ばれ合った二つの至純なる魂の交歓が、この一瞬に凝縮され、そして永遠に失われることを予感するでしょう(光太郎のたぐい稀なる詩精神は、ついに智恵子との交歓を、生涯貫き通すのですが)。

⑤ 独立行 
 A、Bいずれであっても、この一行は、鮮烈なレモンの果汁の香りが「かなしく白くあかるい死の床」に一服の清涼剤となることを感じさせます。もちろんBで、『智恵子の半生』を知悉している読者であれば、「私の持参したレモンの香りで洗はれた彼女はそれから数時間のうちに極めて静かに此の世を去つた」等の記述や、「千疋屋から買つてきたばかりの果物籠」のイメージなどを、思い浮かべるかも知れません。

⑥~⑦
 先に指摘した「見送る者の祈り」が果たされ、智恵子の意識は正常になった。Bの読者は、智恵子の七年にわたる異状が、別れに際して奇跡のように回復し、「もとの智恵子」との別れが果たされることに涙するでしょう。が、Aの場合でも、死病の床にある患者が正常な意識をとり戻すシーンとして十分理解され、頭を垂れるだろうと思われます。

※これらのことを、作品を読む際にひとつひとつ意識しながら進むわけではありません。そのように感じとりながら読み進むのが、「行間を読む」ということなのです。すこし長くなりますので、8行目以降については明日、アップさせていただきます。

2017年、新しい入試制度、学習環境を見すえての勉強は言問学舎でこそ!

この記事を書いたプロ

有限会社 言問学舎 [ホームページ]

塾講師 小田原漂情

東京都文京区西片2-21-12 B1F [地図]
TEL:03-5805-7817

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
お客様の声

一年間ていねいに指導していただき、無事合格できました。最後の2ヶ月は毎日徹底的に見ていただいたので、その効果があったようです。ありがとうございました。

合格実績

 本日、2名の大学受験生から、合格の報が届きましたので、本日現在の合格実績をご案内させていただきます。以後、新しい合格があるたびに、更新させていただきます。...

プロへのみんなの声

全ての評価・評判を見る>>

 
このプロの紹介記事
国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師 小田原漂情さん

子どもに国語力をつければ、将来の選択肢が広がります(1/3)

 東京・文京区。地下鉄・南北線「東大前」で下車。東京大学農学部の正門から徒歩1分という学習環境には最高の場所にあるのが緑色のあざやかな看板が目印の総合学習塾、言問学舎(ことといがくしゃ)です。 文京区内や南北線沿線など、地域に住む幼稚園生...

小田原漂情プロに相談してみよう!

朝日新聞 マイベストプロ

文学から評論、古文漢文まで、全領域で「本物の国語」を教えます

会社名 : 有限会社 言問学舎
住所 : 東京都文京区西片2-21-12 B1F [地図]
TEL : 03-5805-7817

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

03-5805-7817

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

小田原漂情(おだわらひょうじょう)

有限会社 言問学舎

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
このプロへのみんなの声

成長の毎日

ありがとうございました。 4年間、お世話になりました。塾で...

A・H  
  • 20代/女性 
  • 参考になった数(0

このプロへの声をもっと見る

プロのおすすめコラム
次回入塾説明会は2月25日土曜日開催!平日もお問い合わせを受け付けしております!

 今日は都立高校入試前、最後の日曜日。言問学舎でも直前特訓に余念がありません。国語の選択肢で確実に正解を選...

[ 総合学習塾・言問学舎 ]

本年度版合格実績を掲載しました!

 今日、2名の大学受験生から、それぞれ合格の報が入りました。ある意味素直すぎる生徒たちで、センター試験の国...

[ 総合学習塾・言問学舎 ]

国語に強い言問学舎・2017年度中学生各学年のご案内

 今日は東京都立高校一般入試(分割前期)の一週間前です。高倍率の都立高入試では、この直前一週間の過ごし方が...

[ 総合学習塾・言問学舎 ]

お待たせしました!今週末は土・日説明会を開催致します!

 バレンタインデーも終わり、2月はもう後半に入りました。諸々の関係で、年明けはなかなか日曜日の説明会が開け...

入試直前最後の日曜日、言問学舎で国語の得点アップを!

 今月10日にはじまった東京都内の私立高校入試は、今日あたりまでに多くの学校で合格発表が行なわれたことでし...

[ 国語 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ