コラム

 公開日: 2015-09-10  最終更新日: 2016-07-15

治療例の紹介 不眠症

40歳代の働き盛りのビジネスマンといった印象の患者さんです。仕事上、大変ストレスが強いことから、慢性的にストレスを溜め込み、それが体の深部の硬さとして形作られ、不眠症として表に現れた症例だと思います。このような患者さんは現在、大変多いと思われます。

不眠症の症例①」も参考にしていただけると幸いです。

性別

男性

年齢

40歳代

主訴症状(最もお困りなこと)

5ヶ月前から週に2~3日ほどしか眠れないことが多くなる。

2年前に仕事と学業を取り組み、それが過度のストレスとなったことが原因の一つに考えられる。その時期には、腰部に帯状疱疹も発症した。

その後、心療内科に通院し、レパスを服用。服用している時はよく眠れるが、段々と効果が薄れてきていることもあり、別の方法で不眠症を解消できたたらという想いで来院。

随伴症状(主訴症状以外の症状)

不眠症になってから、眠れない時に動悸が起こることがある。

腰部は左仙骨部に痛みが以前はあったが、現在はあまり気にならない。

診察(初診時)

頸部の付け根から肩部にかけては左右ともゴロっとした硬さがはっきりしており、肩甲骨内側には硬さが連なっています。

肩甲骨内側は第5胸椎を中心に硬さが顕著です。

この頸部から肩部、肩甲骨内側、第5胸椎付近にかけての硬さというのは、不眠症の患者さんの特徴としてあります。

また、第5胸椎は心臓を司る神経が背骨から出ている個所ですので、第5胸椎付近が硬くなると心臓の働きが鈍ったり、心臓に負担がかかったりすることもあり、不眠症になってから眠れない時に動悸が起こることと関係があると言えます。

腰部は以前に、仙骨部に痛みがあったということもあり、特に第4~5腰椎や仙骨部の深い部分に硬さがあります。

治療内容

まず第一に、頸部の付け根から肩部、肩甲骨内側、第5胸椎付近にかけての硬さを鍼で丁寧に緩めながら、体の上部の緊張を和らげることが必要です。この硬さは不眠症の患者さんの特徴でもあり、この硬さを鍼で解消していくことで、深く眠れるようになります。

また、第5胸椎付近が緩んでくれば、動悸などの症状も消失していくと考えられます。

腰部に関しては、特に第5腰椎と仙骨部や仙腸関節は体の要であり、土台となる個所なので、体全体のバランスを整える意味でも腰部を重視する必要もあると考えます。

不眠症の治療ポイント

経過

以下の経過は全記録ではなく、患者さんの変化が顕著なものです。

初診 4月4日
左右肩部にはゴロっと触れる硬さがある。頸部の左から肩にかけての硬さが連なる。左頸部、頸部の付け根、肩部、肩甲骨内側、第5胸椎付近に丁寧に鍼をする。第5胸椎付近は、鍼の感触として、非常に重く、つまったものを感じる。腰部は第1腰椎と第5腰椎、仙骨部に硬さがあり、体全体のバランスを整えるためにも腰部は重視する。

第2回目 4月9日
すぐに眠れるようにはならず、まだ睡眠に関して効果は感じない。睡眠前に動悸があることがある。腰に関しては、特に変化はない。

頸部に鍼をすると、鍼の響きがはっきりとあり、頸部の左に鍼をすると奥歯へ響き、頸部の右は咽喉に響く。肩部の硬さは前回とほとんど変化はない。第5胸椎付近も鍼が入りにくいほど硬い。背中や腰に鍼をすると腹部などに響くことが多い。今日は前回より鍼の本数を増やす。治療後は、ご本人は前回よりも体がスッキリした感じがある。

第3回目 4月16日
この1週間は睡眠導入剤なしでも寝付けるようになってきた。夜中に目が覚めることは度々ある。ご本人、寝ることが楽しみになってきている。ゴルフに行き、腰が以前より楽に感じた。

肩部、肩甲骨内側が緩んできている。第3胸椎付近は左右とも緩んでいて良い状態。第5胸椎付近も鍼が入りやすい。第9胸椎付近のほうが硬さが目立つ。腰部は鍼が腰の深部の硬さにしっかりと当たっている感触がある。

第3回目 4月23日
寝つきの良さは継続できていて、睡眠導入剤は服用していない。動悸も寝る前にはない。朝までに2回ほど目が覚めてしまい、目が覚めると10分ぐらいで寝付けることもあるが、寝れない時もある。

頸部は左のほうがはっきりとした硬さがあり、鍼の響きもしっかりとある。肩部は右のほうが硬いが、触れて以前より余裕がある。第5胸椎付近が緩んでいて、微かな硬さがある程度。第9胸椎付近は右のほうが張りが強い。腰部は初診時より柔軟性が高まっている。

第4回目 4月29日
寝つきは良いが、夜中に1~2回、目が覚める。以前のように寝ることに悩むようなことがないので、気持ち的にも楽になってきて、仕事に対しても積極的な考えを持てるようになってきた。以前は、今ある仕事をこなすのに精一杯であった。腰に関しては、歩行中に左足に体重が乗る時に、右仙骨付近が痛む。長時間、立ちっぱなしでいると腰痛がある。

肩部~肩甲骨周辺が前回よりも柔軟性が高く感じる。第5胸椎付近も微かな硬さが残るのみ。第9胸椎付近は特に左の張りがとれてきている。腰部は第5腰椎と仙骨部の間に硬さがはっきりと現れていた。この近くに帯状疱疹の痕があり、治療のポイントであると感じた。

第6回目 5月14日
この2日間は寝付くまで時間がかかった。仕事のストレスが強く、仕事に対する考え方を変えたい。

肩部、肩甲骨付近の緩んだ感じは維持できている。第1胸椎の左は硬さがはっきりしている。第9胸椎付近は右のほうが硬く、鍼の響きが強くあったようだった。

第7回目 5月22日
この1週間は寝つきが良い。3時間おきに目が覚めてしまうが、基本的に目が覚めてもその後、すぐに寝れる。今後は朝まで熟睡できるようになりたい。

肩部は緩んでいるが、第1胸椎は左に硬さがはっきりとある。

第8回目 5月28日
体全体の体調が良い。前回の治療後、便が驚くほど大量に出た。胃腸が活発に動き、お腹が痛いことはなかったが、便が大量に出た。睡眠は寝つきは良いが、2~3時間おきに目が覚める。

肩部~背部にかけて、より背骨に近い所を重視する。腰部は右のほうが硬さが残る。

第10回目 6月11日
寝つきは良いが、夜中に目が覚めるのは変わりない。体調としては、この2~3週間は今までの40数年間で最も良いように思えるほど。

頸部は左の外側に硬さが残るが右はない。頸部の付け根は左が硬さがなかなか取れない。この硬さが取れると、睡眠に大きな効果が出そう。

第11回目 6月24日
この1週間で2日ほど一晩通して寝れた。腰は以前は30分、立ちっぱなしだと座らないとならなかったが、最近はそのようなことはない。

第1胸椎付近を重視する。腰部は硬さが左はほぼ取れたが、右はかなり硬い。

第14回目 7月16日
土日は朝まで起きずによく眠れた。

肩部は右が鍼の感触としてはあまりはっきりとしたものがなかったが、ご本人は鍼の響きが強くあった。第9胸椎付近の硬さが目立ち、ストレスが強いように思える。

第15回目 7月23日
週末が良く眠れ、平日、途中で目が覚めることがあっても、その後も寝れる。今までで最も良い睡眠状態に思える。胃の調子が少し落ちている。

肩部、第5胸椎付近は、硬さが連なるのではなく、硬さがしぼれている。

第18回目 8月21日
今回から治療のペースを隔週に1回とする。1週目は問題なかったが、2週目は、暑さと仕事のストレスが重なり、寝つきが悪いことが何度かあった。胃の調子は問題なく食欲もある。

全体的には、隔週でも悪化するようなことはない。肩部、第5胸椎付近、右腰部を重視。

第23回目 10月9日
この1週間は比較的良く寝れている。途中で起きることがあってもすぐに寝れている。

第1胸椎付近の硬さははっきりしている。第5胸椎付近の硬さは広範囲ではない。

治療期間、治療間隔(頻度)

治療期間: 6ヶ月
(睡眠導入剤の服用なしでも眠れるようになった…2週間)

治療間隔:
初診~4ヶ月間: 週に1回
その後: 隔週に1回

患者さんご自身が感じられた変化

鍼治療を受けるまでは、睡眠導入剤を服用しないと寝れない状態になっていましたし、徐々に睡眠導入剤の効果も薄れてきているような気がして、何か他に手がないかという想いでした。

鍼治療は今回が初めてでした。正直に言うと、受ける前は、本当に不眠症が鍼治療で改善するのだろうか、と疑っていました。

寝付くことに関しては、3回目の鍼治療の時には、睡眠導入剤なしでも、寝付けるようになりました。

その後は、夜中に目が覚めてしまうことが続いていたので、朝まで起きずに寝れるようになりたい、と思い鍼治療を継続しました。

一時期は、朝まで眠れたこともあったのですが、その頃から仕事も忙しくなり、週に1回の通院が難しく、なかなか集中して治療を受けられずにいました。今後は何とか時間を作って、通院できるようにしたいです。

私が驚いたのは、睡眠に関して、良い結果がでたこともですが、鍼治療を始めてから、体調が今までの人生の中でも最も良いのではないか、と思えるほど体調が良くなったことです。

具体的には、便通がしっかりとあり、体が軽く感じるといったことです。特に、便秘症といったことではなかったのですが、こんなにも溜まっていたのかと思うほど便通が一時期ありました。体の中に溜め込んでいた老廃物が排出された気がします。

それと伴に、精神的にも仕事の面でも積極的に考えることができるようになり、様々な効果に自分でも驚いています。

考察

頸部から肩部にかけて、肩甲骨内側、第5胸椎付近といった個所に硬さが現れるという不眠症の方の特徴が、この患者さんの場合も明らかでした。

その硬さは長年に渡って形作られてきたものであり、簡単に完全に取りきれるものではありませんでした。それでも、治療を開始してから、2週間弱で睡眠導入剤と縁を切ることができ、多少の波はあるものの、寝つきに関しては早い段階で、かなりの改善がみられました。

その後、2~3時間おきに目が覚めることが続き、一時期は朝まで眠れる状態があったものの、それを維持することはなかなか難しいことが続きました。

治療を始めてから週1回の治療のペースが4ヶ月間、続けていただき、その後は月2回のペースで継続されました。

上記の経過にあるように6月~7月に朝まで眠れることがあり、腰の状態や体全体の体調も大変良い状態となったところで、ご本人の意向で月2回の治療となり、その後は、2~3時間おきに目が覚めることが多くなっていってしまいました。

その後は、体のメンテナンスの意味も込めて、月2回のペースで6ヶ月ほど継続していただきました。

私としては、頸部の付け根と第1胸椎付近、右肩部の硬さは最後まで残り、その硬さが取れるまでは、週1回のペースで継続していただけると、さらに良い結果が出せたのではないかと思いました。

この患者さんの場合、ご本人からお仕事に関するお話しを聞かせていただく限りでは、相当ストレスの強い責任あるお仕事をされていると思います。そのストレスが慢性的に、頸部の付け根と第1胸椎付近、右肩部といった個所に硬さとして形作られ、それがさらに悪化すると、頸部、肩部、肩甲骨内側、第5~第9胸椎付近にまで硬さが連なり、それが不眠症という形で表に現れてきていたと思います。

ご本人は、初診時には、睡眠導入剤などの薬剤がエスカレートし、薬剤と縁が切れなくなることを恐れて、他に方法はないかという想いで、当院を訪ねていただきました。

その薬剤とは非常に早い時期に縁を切ることができ、仕事に対しても前向きに取り組めるようになってきたと仰っていただき、私も大変嬉しく思いました。

私としては、もっと熟睡していただけるよう、治療を徹底したい思いがありましたが、お忙しい方ですので、限られた時間の中で精一杯の治療をさせていただきました。

ビジネスマン

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