コラム

 公開日: 2016-06-04 

東京都中小企業の防災取組状況~帰宅困難者対応を中心に

熊本地震からおよそ1か月半が経過した今、現地では余震も減少し、復興に向けた活動が始まっています。一方、首都圏では、M7規模の地震の発生確率は70%とされており、いつ大地震が発生してもおかしくない状況にあるといえます。
その様な状況の中で、東京商工会議所から、会員企業の防災対策の実態を把握するアンケート調査の結果が公開されました。今回はその内容を確認するとともに、首都圏での地震等対策について考察します。

東京商工会議所のアンケート調査結果

東京都では東日本大震災の発生に伴う鉄道等の運行停止により、多くの帰宅困難者が発生したことを踏まえ、帰宅困難者対策を総合的に推進する条例を制定、施行しています。その条例の認知度を調査したところ、「努力義務の内容を含めて知っている」企業は全体の7割近くでした。逆に言えば、およそ3割の企業は条例の内容を把握していないため、発災時に混乱を招く要因となりかねません。
東京都帰宅困難者対策条例の認知度
従業員規模別に見ると、企業規模が大きくなるにつれ認知度は上昇し、従業員300人以上の企業では「努力義務の内容を含めて知っている」のは9割近くとなっています。

東京都帰宅困難者対策条例では、発災時に従業員の一斉帰宅を抑制し、事業所内に留まらせること、そのために必要な3日分の水や食料などの備蓄に努めるとされていますが、実際の備蓄状況を確認すると、「全従業員分の3日分以上の備蓄」のある企業は、飲料水や食料品では半数以下に過ぎません。また、災害用トイレの備蓄状況はより低い状況であり、全く備蓄されていない企業も半数近く存在します。
物資等の備蓄状況
従業員規模別に見ると、企業規模が大きくなるにつれ備蓄状況は改善され、従業員300人以上の企業では飲料水、食料ともに備蓄のある企業は9割淫場となっております。熊本地震での被災地でも問題になりましたが、行政の支援は被災状況によって地域差が発生するため、3日分の備蓄でも足りない状況になるかもしれません。また、夏場における災害用トイレの不足は、伝染病等の二次災害を引き起こす可能性があります。
さらに、買い物客や観光客などの従業員以外の帰宅困難向けに、従業員用に加えてその10%程度の備蓄をするよう東京都では呼びかけていますが、実施しているのは2割以下の企業に過ぎませんでした。

大地震等が発生すると通信規制や輻輳により携帯端末によるメールや通話が利用できない可能性が高くなることを踏まえ、東京都帰宅困難者対策条例では、従業員との連絡手段を確保することを努力義務としています。しかし、調査結果から「メール」「通話」が過半数を超える結果となりました。一方で、「災害用伝言サービス」や「独自に整備した安否確認システム」は3割前後に留まっています。
従業員に対する安否確認手段
従業員規模別に見ると、従業員300人以上の企業では「独自に整備した安否確認システム」が6割以上と、突出した結果となっております。独自の安否確認システムを整備するにはコスト面の制約もありますが、災害用伝言サービスについては無償で利用できるので、より確実な手段での安否確認を行う様、社内ルールを整備すべきだと考えます。

東京都では災害時に帰宅困難者を受け入れる民間の一時滞在施設を募集していますが、協力に前向きな企業はわずかであり、7割以上の企業は外部の帰宅困難者を受け入れることは難しいと回答しています。その理由として、スペースの問題を上げる企業が半数以上となっています。
一時滞在施設としての協力に対する考え

大地震等の災害に遭った場合の企業活動について、BCP(事業継続計画)の策定は有効です。しかし、「BCPを策定済」と回答した企業は全体の約1/4程度に過ぎず、防災計画を策定した企業と合算しても約4割でした。一方で、BCPや防災計画を策定していない企業は約3割でした。
BCPの策定状況
従業員規模別に見ると、「BCPを策定済」と回答した企業は従業員規模が大きくなるほど増加しており、従業員規模300人以上の企業の約6割がBCPを策定しています。一方で、従業員30人未満の小規模企業では、BCPや防災計画を策定していない企業が約半数となっています。

東京都帰宅困難者対策条例に基づく事業者の対応

上記で説明した通り、東京都では東京都帰宅困難者対策条例を制定し、平成25年4月から施行されています。首都圏で東日本大震災が発生した際に外出しており、その日のうちに帰宅できなかった人は約28%であり、およそ515万人と推計されています(首都直下地震帰宅困難者等対策協議会 最終報告資料より)。今後、首都直下型地震等の大規模災害が発生した場合、道路や建物等の被害が大きくなり、帰宅することはさらに難しい状況になると考えられます。そのため、東京都では大規模災害時にはむやみに移動を開始せず、安全を確認した上で、職場や外出先等に待機すること、事業者はこうした帰宅困難者を留まらせるための取組に努めるよう求めており、その内容を取り纏めたのが東京都帰宅困難者対策条例です。条例の中で事業者に求められている内容は、以下の通りです。

(1)計画策定と周知
事業者は事業継続計画(BCP)や防災計画を策定するとともに、その中で従業員等の施設内待機に関する計画も策定する必要があります。その内容は冊子等を配布し、従業員に周知します。冊子については電子データの場合、発災時に電源喪失等により確認できない可能性、携帯端末の電源消費を抑える、等の理由から紙媒体の方が良いと考えます。

(2)施設内待機のための備蓄
従業員等が自社の施設内に待機するため、必要な水、食料、毛布、簡易トイレ、衛生用品(トイレットペーパー等)、等をあらかじめ備蓄する必要があります。備蓄品については、建屋の被害や円滑な配布等を考慮し、分散して保管することも検討すべきです。なお、発災後3日間は救助・救出活動を優先させる必要があり、物資の支援が受けられない可能性があるため、最低3日分の備蓄が求められています。3日分の備蓄量の目安は以下の通りです。
・水:1人当たり1日3リットル、計9リットル
・主食:1人当たり1日3食、計9食
・毛布:1人当たり1枚

(3)施設の安全確保
大地震はいつ発生するかわからなにので、いつでも従業員が施設内に待機できるよう、日頃からオフィス設備の転倒や落下等の防止対策を行うことが必要です。また、オフィスビル等に入居している場合は、建物の耐震・免震の状況を確認すべきです。今回の熊本地震の様に大きな地震が連続した場合、建物や周辺の安全が確保できない可能性があるので、その場合は行政機関等が開設する一時滞在施設に従業員を誘導させるよう、移動の基準策定や誘導路の確認等を行うべきです。

(4)安否確認手段の確保
事業者はあらかじめ、発災時における従業員との連絡手段を定めることが必要です。また、待機している従業員が家族等との安否確認手段を確保する様、従業員に周知する必要があります。安否確認手段については、発災直後は電話の輻輳や通信規制、停電や破壊による携帯基地局の機能停止等を想定し、独自の安否確認システム、または災害用伝言サービスや災害用伝言ダイヤル、またはSNSの利用を検討すべきです。

(5)帰宅ルールの策定
帰宅可能な状態になっても、従業員を一斉に帰宅させることはせず、居住地や家庭事情等を考慮した帰宅順序を策定することが必要です。また、帰宅した際には安全に帰宅したことを伝達する様ルール化することも重要です。

(6)訓練等による手順の確認
大地震等が発生した場合に計画したことをスムーズに実行できるよう、上記で定めた内容について定期的に訓練を行うことで従業員に習熟させることが必要です。

(7)従業員以外の帰宅困難者の受入対応
都内では様々な場所に多数の買い物客や観光客が存在します。災害が日中に発生した場合、こうした買い物客や観光客も帰宅困難者となります。行政でも一時滞在施設を開設しますが、十分に確保できない可能性が高いと想定されます。そのため、事業者も可能な限り行き場のない帰宅困難者を受け入れることが望まれます。その際には、社内の重要施設に部外者が立ち入ることの無いよう、部外者の待機場所を明確に区別する必要があります。

参考情報
東京商工会議所、「「会員企業の防災対策に関するアンケート」2016年調査結果を取りまとめました
東京都、「東京都帰宅困難者対策条例」のページ

上記内容に関連して、ご相談や質問などがございましたら、お気軽にご連絡ください。

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