コラム

 公開日: 2015-08-31  最終更新日: 2016-04-25

防災の日と中小企業の防災対策の状況

今年も9月1日の防災の日を迎えます。この時期に防災訓練を行う自治体や企業も多いようです。
一方、企業や組織の防災対策の整備状況については、特に中小企業ではまだ低い水準です。また、弊社の所在地でもある東京都では、首都圏直下型地震の被害想定や東日本大震災の経験を踏まえ、「東京都帰宅困難者対策条例」が施行されています。これは、大地震等の直後に多くの人が帰宅しようとすると混乱を招く恐れがあることから、事業者に対し、災害時における従業員の一斉帰宅の抑制、従業員との連絡手段の確保、全従業員分の3日分の水や食料等の備蓄を努力義務とする内容となっています。この条例は平成25年から施行されていますが、企業の対応状況は十分でないようです。
今回は東京商工会議所のアンケート結果に基づく、中小企業の防災対策の現状と今後について確認します。

中小企業の防災対策の状況(東京商工会議所アンケート結果より)

先日、東京商工会議所は会員企業における防災対策の実態を把握するために実施したアンケート調査の結果を公表しました。
まず、業務継続計画(BCP)の策定状況について確認すると、BCP策定済みの企業は全体の約1/4、防災計画を策定した企業と合わせても全体の4割に満たない状況でした。一方で、BCPも防災計画も策定していない企業は全体の約3割でした。
業務継続計画(BCP)策定状況

従業員規模でBCPの策定状況を確認すると、従業員数が少ないほど、BCPが策定される割合は低下しています。BCPを策定していない理由として、約6割の企業が「策定に必要なノウハウ・スキルがないから」、約5割の企業が「策定する人的余裕がないから」と回答しています。
一方で、BCP策定済みの企業の約7割が、BCPを定期的に見直しており、訓練等も実施しているという結果でした。

次に、「東京都帰宅困難者対策条例」の認知度について確認したところ、全体の6割以上の企業は条例の内容を含め認知しています。なお、この条例では事業者に対し、災害時における従業員の一斉帰宅の抑制、従業員との連絡手段の確保、全従業員分の3日分の水や食料等の備蓄を努力義務としています。
「東京都帰宅困難者対策条例」の認知度

従業員規模別で条例の認知度を確認すると、従業員数が少なくなるほど、条例の認知度が低下しており、従業員規模29人以下の企業では半数以上が条例の内容を認識していないという結果となりました。

それでは、帰宅困難者対策条例の主要項目について確認します。条例では「全従業員分の3日分以上の備蓄」を努力義務としていますが、主要な物品である飲料水、食料品、トイレ、毛布の備蓄状況を確認したところ、努力目標を達成している企業は、飲料水と食料品は半数以下、災害用トイレは3割程度という結果でした。
従業員の備蓄状況

単純に備蓄の有無で見ると、飲料水や食料品を備蓄する企業は全体の8割前後ですが、災害用トイレや毛布については半数近くの企業が備蓄を確保していません。また、グラフには提示していませんが、従業員規模別ではいずれの備蓄品も従業員数が少ないほど、備蓄する企業の割合は低下しています。
なお、帰宅困難者は従業員だけとは限らないので、条例では従業員用の10%分を追加して外部の帰宅困難者に対する備蓄をするよう呼びかけていますが、実施している企業は全体の2割にも満たない状況でした。

次に、災害時における従業員の安否確認手段についてですが、過半数の企業が「メール」「通話」と回答しています。両者については東日本大震災で経験された方も多いと思いますが、通信規制や輻輳により利用が難しくなる可能性が高いため、災害時に有効であるとは言い難いです。一方、災害時の安否確認に有効だとされる「災害用伝言サービス」は全体の3割程度となっています。
災害時の従業員安否確認手段

この質問については複数回答ですが、その中で「メール」または「通話」のみを回答した企業の割合は3割程度存在していました。「特に準備していない」企業と合わせると、全体の4割程度が災害時に有効な安否確認手段を準備できていないという結果となります。

最後に、災害時に帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設として協力できるか確認したところ、7割以上の企業が受入困難という回答でした。
一時滞在施設の協力状況

受入困難という回答をした企業に対して理由を確認したところ、約半数はスペースに余裕が無い、約1/4は備蓄が無いことを理由としています。こちらについては中小企業であるが故、ということもあるのだと考えます。

中小企業に業務継続計画は必要か?

業務継続計画(BCP)の策定状況について毎回様々な調査結果を紹介していますが、今回もやはり、中小企業にとっては荷が重たいという結果になっております。
BCPは大企業のものであって、中小企業では必要のないものと考えてはいないでしょうか。BCPのサービスと言えば、大手のSIベンダーやコンサルタント会社がバックアップセンター構築や安否システム等のサービスを提供していることもあり、そもそもコストが高すぎて手が出ない、とうイメージを持たれる方も多いです。しかし、こうしたサービスはあくまでも実現手段の一つに過ぎません。
むしろ、中小企業にこそBCPは必要です。大地震等の被災による影響を受けやすいのは、体力の少ない中小企業であり、被災時に右往左往することなく、従業員の安全と資産の保全を行った後、早期の復旧や立て直しを図ることで生き残りを考えなければなりません。BCPで大切なのは、災害等に直面した際の自社の方針や行動基準であり、それに合わせて、可能な範囲で手段を選択して、生き残る道をつくることです。
東日本大震災後の企業倒産に関するレポートでは、被災による建物倒壊等の直接的被害よりも、仕入先や納品先の業績悪化等、外部環境に由来する間接的理由で倒産した企業が圧倒的に多いことが報告されています。
ノウハウのある人材の不在、社内のリソース不足、コスト面での負荷の高さ、などを理由にBCPを策定しないというアンケート結果でしたが、人材については私共の様な外部の専門家を活用することで解決できます。また、取引相手や別地域の同業他社などと連携し、相互に補うことで無駄な投資を抑制することも可能となります。自分たちが生き残った後、会社をどう立て直すかという視点で、BCPを検討してみてはいかがでしょうか。

大量の帰宅困難者の対応に向けて

アンケート結果から、特に中小企業では帰宅困難者への対応が十分でないという結果となりました。首都直下地震が発生した場合、必要とされる帰宅困難者の一時滞在施設は約92万人分と想定されています。しかし、現状では約19万人分の確保に留まっています。また、備蓄量についても以下の量が目安とされています。
・水 :1人当たり1日3リットル、3日間で計9リットル
・主食:1人当たり1日3食、3日間で計9食
・毛布:1人当たり1枚

一般に、大規模な災害に直面した場合の支援として、自助・共助・公助という考え方があります。

・自助:自分自身で自ら(家族も含む)の命や身の安全を守ること
・共助:近隣や地域コミュニティで相互に助け合って当該地域を守ること
・公助:行政や警察、消防、及びライフラインを支える各社による公的支援活動

以前から公助には即時性が十分でなく、また、被災後最低3日間は自力で持ちこたえることが要求されています。自助についても勤務先等の自宅の外で被災した場合や高齢者等の弱者については限界があります。そのため、近年は共助による地域コミュニティレベルでの相互支援が大きな役割を果たすことになると考えられています。共助では、地域の企業や事業者との連携が重要視されています。企業や事業者には地域住民よりも堅牢な建物を有する、通信設備等が整備されている、といった優位性があるため、地域の災害対応や復旧の一時的な拠点となりうる存在ですが、どのような事象が発生した場合に相互がどのように対処するか日常的に話し合うことが肝要と考えられます。特に東京の場合は、地域住民に加えて、日中は多数の通勤者や通学者が存在します。また、外国人旅行者も今後増加する一方です。よって、帰宅困難者のインパクトは非常に大きくなることが予想されます。
個々の中小企業は体力にも限りがあるので、アンケート調査の結果となることは仕方がありません。しかし、共助の考え方で地域の企業や自治体が協調し、相互補完することで、被災時により多くの人々の助けとなるよう対応していかなければならないと考えます。

計画を策定して終わりではありません

以上の様に、共助の考え方に基づく業務継続計画(BCP)を策定することが重要ですが、計画は策定して終わりではありません。計画に沿って実際に動いてみたら、思わぬところに障害があったり、社内設備の変更や社会環境の変化から取り残されていたり、という理由から計画自体が形骸化しているという事態が大いにあり得ます。そのため、継続的改善を組み込んだマネジメントプロセスへと展開させる必要があります。具体的には教育による社員の意識醸成や、訓練による有事の際の対応力向上と既存計画の課題発見が中心になります。
特に共助を盛り込んだBCPの場合は、関係する企業や組織を巻き込んだ訓練を行うことで、机上の文書を活きた計画に変え、緊急時の対応能力を維持、向上させることが可能となります。また、帰宅困難者をどの場所に、どう誘導するか、その際に企業の重要情報等が格納されるエリアへの侵入をどう防止するか、といったことについて、実際に人を動かすことで様々な状況が見えてくるものです。


参考
東京都帰宅困難者対策条例のページ
・東京商工会議所 「「会員企業の防災対策に関するアンケート」調査

上記内容に関連して、ご相談や質問などがございましたら、お気軽にご連絡ください。
デルタエッジコンサルタントでは、業務継続計画や危機管理計画の策定、及び社内教育や訓練の実施を支援するコンサルティングサービスを提供しております。
お問い合わせフォームは、こちらです。

/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
ITを有効活用し、課題を解決します
デルタエッジコンサルタント株式会社
金子 清隆
URL  http://www.deltaedge.co.jp
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_

この記事を書いたプロ

デルタエッジコンサルタント株式会社 [ホームページ]

経営コンサルタント 金子清隆

東京都中央区日本橋大伝馬町13-7 日本橋大富ビル3階 [地図]
TEL:03-6869-8336

  • 問い合わせ

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

2

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
サービスメニュー

日常業務の中で、あるいは報道や世間の動向を見ている中で、以下のように感じたことはないでしょうか。・「現状にどこか満足できない」、「どこかに課題がありそう...

お知らせ

大きな被害が発生した熊本地震の被災地では、まだ余震の続く中で復興作業が行われています。このような大地震発生等の事象に備えて、多くの企業では防災対策や業務継...

 
このプロの紹介記事
金子清隆・ITコンサルティング・デルタエッジコンサルタント株式会社

ITを中小企業のビジネスに有効活用するには?ITの運用方法やコストでお悩みの方に(1/3)

 2013年9月にデルタエッジコンサルタント株式会社を立ち上げた金子清隆さん。中小企業の業務改善をサポートするコンサルティングをベースに、特にITの最適化を通して顧客のビジネスを陰から支えています。 「ITとビジネスとの関係は年々密接に...

金子清隆プロに相談してみよう!

朝日新聞 マイベストプロ

中小企業の実情を踏まえた、最適コストによるIT活用をご提案

会社名 : デルタエッジコンサルタント株式会社
住所 : 東京都中央区日本橋大伝馬町13-7 日本橋大富ビル3階 [地図]
TEL : 03-6869-8336

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

03-6869-8336

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

金子清隆(かねこきよたか)

デルタエッジコンサルタント株式会社

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる
プロのおすすめコラム
パスワードの再確認~女性芸能人のデータ盗み見事件に関連して
イメージ

先日、複数の女性芸能人のメールサービスやデータ保存サービスなどに不正に接続し、保存されたメールや写真データ...

[ セキュリティ ]

マイナンバー制度と年末調整等

今年も残すところ2ヶ月という時期となりました。給与計算関連の業務担当者にとっては、年末調整、及び法定調書等...

[ マイナンバー制度 ]

水害に対応するための簡易的なBCP策定のすすめ

ここ数年、日本各地で台風や集中豪雨による水害の発生や被害が増えています。もし、皆さんの会社や施設が水害に遭...

[ BCP・防災 ]

2016年上半期のネットバンキング不正送金被害状況
イメージ

先日、警察庁から今年上半期(2016年1月~6月)に発生したインターネットバンキング利用者の預貯金を狙った不正送...

[ セキュリティ ]

メールマガジンなどの不要なメールを安易に「配信停止」していませんか?

毎日の様に送信されてくる、勧誘や告知、広告などを目的としたメールマガジンや迷惑メールにうんざりしている方も...

[ セキュリティ ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ