イタリアの郷土料理をこよなく愛するイタリア料理研究家

大庭麗

おおばうらら

イル・クッキアイオ イタリア料理教室

[ 武蔵野市 ]

職種

コラム

 公開日: 2018-04-18  最終更新日: 2018-04-19

日々の仕事、料理をつくるという事を考えてみる

お菓子と料理
一見、似たようなこのふたつ。
菓子職人のつくる料理は、面白みに欠ける事が多く
料理人のつくる菓子は、正確さに欠ける。


誰が言い出したのかは、わかりませんが
よく、こんな風な例えがされます。


「お菓子のレシピは、家の設計図のようなもの」

1センチ、1ミリ単位のその値が大切であり
設計図通りに再現されていない柱では
建物を建てる事ができないように

お菓子もまた、1グラム
(正確には、もっと細かな単位)
までを、正確に再現しなくては
ちゃんとしたお菓子はできあがらない。

それに対して

「料理のレシピは音楽の楽譜のようなもの」
正確に奏でる事も勿論、大切。

けれども、奏でる人のセンスが
要求されるものであり、
人によってその奏で方も異なれば、
響き方も異なる。

勿論、お菓子に関しても、料理に関しても、
基礎の技術をもったうえでの
話であり、設計図を読み解く能力、
楽譜を読み解く能力も必要ですし
基本として知るべきことは勿論、沢山あると思います。


イタリアで暮らした最初の頃
イタリア料理を仕事とする料理人の通う
料理学校に通っていました。

調理実習では、毎回グラム単位で
正確に測られた同じ材料を使って
全員が同じ工程で、料理を作っていましたが、
その出来上がりは、全てが全く異なり
一皿、一皿にはそれぞれの個性が残る。
まさに、奏でる人によって
その人の解釈によって
出来上がりの料理は
ここまで変わるものなのかと
思ったものです。

そう言った事を
目の当たりにした事もあり
リストランテで働いていた頃は
個性を消して、どれだけシェフの味、
シェフの料理に近づけるかこそが
仕事であり、任務であると
常に意識していた記憶があります。


さて、今回なぜこのような話題になったかと言うと
私自身、現状料理教室を運営しており、
料理を教える仕事をしていると


「レッスンで見ていると、簡単そうなのに
いざ、家で再現してみると、
先生と同じようには、できなくて・・・・

なにか、ひと味違うんです」


この会話は、
今に始まった事ではなく
教室を始めて以来
頻繁に耳にするのですが
そのたび、


なにか、私の教え方が悪いのか
レシピの書き方が悪いのかしら


長年、そのように思っては、
心苦しい想いでは
あったのですが、実際のところ
解決法もわからず


そんなある日。
その話題に対して
横にいた生徒さんが一言。


「先生はプロなんだから
当たり前じゃない?」


「そうですね。そうでなきゃ
仕事が成り立たなくなって
料理教室が廃業しちゃいますね」


その場では、なんとなくそのまま
笑いに繋がって、終わったのですが

その会話をきっかけに、
いろいろと考えてみました。


料理教室という仕事は、
特に資格を要する訳でもなく、
そして、料理という結構、誰にとっても
身近なアクション故に

毎月提案するレシピさえあって、
料理が好きであれば、誰でもできる仕事と
思われがちなようです。


音楽の楽譜に例えられたように、
楽譜さえあれば、見よう見まねで
それを奏でる事は
誰にでも、できてしまう。

そんな感覚で、
お仕事を辞めて
お料理教室を始められる方も
結構いらっしゃる訳で


ふと、
果たして、私の仕事とはいったい
どういう存在なのだろう
と思う事も、幾度とありました。


そもそも
私がこの仕事を続ける理由は
なんなのだろう。

と考えてみると


私の提案した料理で
イタリア料理の普及に力添えしたい。
なんていう、そんな
おこがましい想いなどでは
決してなく。

ただ、レッスンを通じて
料理のなにかを
感じるきっかけを
投じられたら嬉しいなぁという
想いです。


修業時代に、
何気ない日常の中で
師匠たちが口にしたいくつかの言葉が
私の心の中には、常にあります。


「料理の中には
無駄な作業は決してない。

常にその作業の前後を考えて、
意図したアクションを起こす。
料理の出来上がりを
最終地点と考えた場合
意味のない工程などは存在しない」


当時のその言葉を聞いて
感じた事、意識したこと


そして、その数年後


そして、今。

常に、一つ一つの意味合いを
考えていく中で、
新しい見解が見えること、
また、長年の見解を否定することと

常に、自分の日々の料理に対する
意識も変化しています。


そして、そこから
なにを表現出来るのか。
どんな料理をするべきなのかと。



そんな長いスパンで見ると
少しずつではありますが、
いい料理をつくれるように
なっているのではないかなと
思えるタイミングも
あったり。なかったり。


そもそも、人は
いい料理を口にした時。
今まで、知らなかった
味の世界に直面した時に


小さな感動を
覚えるように思います。


その瞬間のサプライズも
勿論、大切ですが

もし、その料理が出来上がる工程を
見ていたとしたら

系統立った工程を見た故での
サプライズだとしたら
その感動の種類も異なるのかと


その料理に方程式が
あったのだとしたら
その点と点が線となる
そういった工程を
お見せする事も
表現のひとつであり

そこから
なにを感じるか
それが、何に繋がるかは
人それぞれなのでは
ないかと


料理全般が上手くなったと
おっしゃる方もいれば、
イタリア料理やイタリア文化に
興味を持たれる
きっかけとなったとおっしゃる方


勿論、毎月
新しい料理を楽しみに
してくださる方
それだけでも、私にとっては
充分な訳で


今の私のできる事
表現出来ることは
そう言った事なのかと。



そして常に
料理の中で
自分が意図していることを
言葉として、口にする事を
意識しています。


例え、同じ言葉を発する人間であっても
通じる言葉と通じない言葉

響く言葉と響かない言葉があるように


私が発した言葉が、
そのレッスン中に、意味を成す場合と
意味をなさない場合が
あるように、よく思います。


特に、私などは表現上手では
決してないので、
真意が伝わらない場合が
多々ある事は自覚してはいるのですが


不思議な事に言葉というのは
人の心に残るようで


10年、15年経った今
初めて私の中で響く
修業時代に言われた言葉
耳にしたフレーズが多々ある訳です。


いつの日か
理解されるかもしれない言葉として
現在の自分が大切に思う事を言葉にして
発信する事


それが
なにかしらの形で料理と言うものを
理解する、手助けになったら
いいなぁと


それは先人たちから
私が受けてきた大きな恩恵の
ひとつであり

私のすべき事のひとつ
なのではないかなと。


ここ最近
10年近く通ってくださっている
幾人かの生徒さんから
私の意図している事への
お言葉を戴き、小さな感動と
自分のやってきた仕事への肯定感を
感じる機会がありました。



幸いにも、私には
尊敬する何人かの師匠がいて
その彼らが、現在もイタリアの料理業界で
常に新しい提案をして、進化をし続けています。

そう言った
進化をし続ける師を持っている以上
10年も20年も後を行く、私は前に進むしか
選択肢はない訳で

今の自分にできる限りの
料理に専念し
向かい合って行くのみ
なのかと



だからと言って
生徒さんがうまく
料理を再現できないのは
それはそれで、問題かも
しれませんが

私自身、料理の仕事をはじめて
18年。本当に、自分の仕事、
自分の料理が見えてきたのは
ここ数年です。


正確には、なんとなく見えてきた
というのが正しいのかもしれません。


ある時、ふと塩加減の感覚が
目視できるようになり
ある時ふと、火の通りを音で
判断するようになりと

味覚のみに限らず、
五感で料理を感じるように
なり

料理と言うものの
なにかが若干見えてきたのかしら
と。

兎にも角にも
料理の世界って
そんなに単純ではないようです。

だからこそ
多くの料理人たちが
幾つになっても
真剣に、料理と向き合っている訳で

そんな先を行く師達の存在がある限り
私も、小さな一歩、一歩を歩み続けるのみ。
深いが故に、魅力の詰まった道のりです。

この記事を書いたプロ

イル・クッキアイオ イタリア料理教室 [ホームページ]

料理研究家 大庭麗

東京都武蔵野市吉祥寺北町 [地図]
TEL:080-5499-8464

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